NSX-GTラストレースで表彰台獲得。Astemo松下が見せたギリギリのバトル、塚越のウエット交換後の猛プッシュ

 スーパーGT第8戦モビリティリゾートもてぎ、レース前半、そして後半とチャンピオン争いの鍵を握り、レースを沸かせた17号車Astemo NSX-GT。前半戦は松下信治が好バトルを演じ、そしてレース終盤の雨には塚越広大がウエットタイヤに交換する勝負に出て、結果として3位表彰台を獲得。チャンピオンを争う2台とともに、レースを沸かせた一台となった。

 予選2番手の17号車Astemo NSX-GTはポールの3号車Niterra MOTUL Z、3番手36号車au TOM’S GR Supraのチャンピオンを争う2台に挟まり、このレースのキーマシンとなっていた。ランキングトップの36号車にとっては、ポールの3号車が優勝した場合、2位に入らなければチャンピオンを逃してしまう。是が非でも、17号車の前に出なければいけない状況だった。

予選では2番手をマークしたAstemo NSX-GTの松下信治だったが、決勝のロングランではペースに苦しんだ

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︎松下信治と坪井翔、コース半分以上をサイド・バイ・サイドで争った珠玉のバトル**
 そのレース前半、17号車松下は迫り来る36号車坪井翔と何度もバトルを繰り返し、坪井を絶妙にブロックし、簡単に前には行かせなかった。松下よりペースが良さそうな坪井は何度もオーバーテイクのチャンスを伺い、ようやく23周目のV字コーナーで松下の前を奪った。松下が坪井とのバトルを振り返る。

「36号車のペースが僕よりすごく速かったので、なんとか抑えたいという思いで、強気でギリギリまで追いやったんですけど(坪井)翔もなかなか手強いドライバーで。でも、楽しかったです」と松下。

「すごくクリアなバトルだったと思いますし、1コーナーからS字、そしてV字まででしたからね。全力で飛ばしていましたけど、ちょっと相手が速かったですね」と、続けた。

 予選で2番手を獲得して、スタートでも2番手をキープしていた17号車だったが、決勝の前半は厳しいペースとなってしまった。

「ロングランのペースが36号車の方が速くて、ウチはそこがちょっと足りなかったですね。ロングのセットアップというか、結構、リヤが滑っていた状態でした」(松下)

 その松下と坪井、レース後の表彰式を待つ間、ふたりでにこやかに話しあう姿が見られた。

「ちょうど、J SPORTSでバトルの動画が抜かれていたので、それを見ながら話していました。お互い、『おおーっ!』みたいな感じでしたね」

2番手を激しく争った17号車Astemo NSX-GTとau TOM’S GR Supra

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︎表彰台を争うなかでのレース終盤の雨、Astemo NSX-GTはウエットタイヤにチャレンジ**
 36号車の坪井に2番手のポジションを奪われてしまった17号車は、3番手をキープして後半スティントの塚越広大にステアリングを代わった。その塚越はピットタイミングで前を奪われた23号車と、3番手を争う展開となった。

「23号車をずっと追いかけている中で、FCYが1回出た後に僕の方のペースが良くなったのでオーバーテイクを試みました。うまく雨も降ってきて、その雨を活かしながら前に出ることができたのですけど、そこからさらに雨が強くなって来たときには逆に23号車の方がペースが上がってきた。そのタイミングで、ピットの方でレインタイヤに変えるという判断が来ました」と、レースを振り返る塚越。

 3番手のポジションながら、雨が降り始めてレース残り6周となった58周目に17号車はピットインして、ウエットタイヤに交換して勝負に出た。上位チームでウエットタイヤに交換したのは17号車のみという状況だった。

「僕はもう、あのまま(ドライのスリックタイヤで)最後まで行くと思っていました。チームがいろいろな状況を見て判断してくれたと思うので、勝ちを狙ってああいう判断をしてくれたのだと思いますし、そこでチャンスをもらえた。あのまま行ったとしても、もしかしたら表彰台に上がれなかったかもしれないので、そう考えたら好判断だったと思いますし、チームに助けられたと思います」と塚越。

 ウエットを履いた塚越はスリックタイヤ勢より1周あたり5〜7秒早いペースでラップタイムを刻んで行った。

「ピットアウト後からウエットタイヤですぐにプッシュしていけたので、むしろ残り5周しかないから、温まりを待つとか言っている場合ではないですし、雨のなかでレインタイヤを履いているのに、スリックより遅かったらカッコ悪いじゃないですか。だからコースに出た瞬間から、フルプッシュでした」(塚越)

 4番手を走行した17号車の塚越は、3番手の23号車MOTUL Zを懸命に追った。しかし、無情にも雨は弱まっていく。結局、前の23号車を抜くことはできなかったが、トップの3号車Niterra MOTUL Zのコースアウトがあり、3位表彰台を獲得することになった。

 もし、タラレバでレース周回数がもう少し残っていればどうなっていたか。

「逆にあの雨の後、すぐに雨が上がってコンディションが回復して来たので、どちらかというとあれより周回数が多かったら、むしろタイヤはダメになっていました。なんとか3位でという感じでしたね」

 前半、そして後半とレースで見どころを作った17号車Astemo NSX-GT。今シーズンはランキング7位で終えることになったが、シーズンを振り返るとやはり、第6戦SUGOでトップチェッカーを受けながら、スキッドブロックが基準値より削れて車検不合格で失格となった1戦が悔やまれる。そのSUGOでしっかりポイント稼いでいれば、チャンピオン争いの主役の一台になっていたかもしれない。

「SUGOでの優勝が幻になってしまったのは残念ですけど、その後のオートポリス、もてぎのパフォーマンスを見ると、チャンピオン争いはできていたかもしれないけど、チャンピオンを獲れていたかというと正直、厳しかったと思います。ですので、まだ足りない部分もありますし、シーズン中にもっとポイントをアベレージで稼ぐとか、チャンスをきちんとものにしていかないといけないと思います。今回みたいなレースをチームと一緒に毎回、できるようにしたいですね」と、今季を振り返った塚越。

 今季最終戦でチャンピオン争いの主役とはなれなかったホンダNSX陣営だが、 NSX-GTのラストレースでもっとも輝いた一台となったのが、17号車Astemo NSX-GTだった。

2023スーパーGT第8戦もてぎ GT500クラスの表彰式

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