養老酒造の物語〜西日本豪雨から復興までの歩み〜

「被災」

西日本豪雨で蔵も自宅も約3メートル浸水。惨状を目の当たりに、酒造りを諦めかける。

2018年7月7日に発生した西日本豪雨による浸水で、酒蔵3棟と作業場、隣接した自宅が約3メールの高さまで水に浸かりました。建物の土壁は剥がれ落ち、30基以上あった酒を仕込むタンクはあちこちに転がり、一部は天井を突き破っていました。

床一面をぬかるんだ泥が覆い、その上には長年受け継いできた道具類が散乱。そんな惨状を目の当たりにした瞬間、頭をよぎったのは「廃業」の二文字でした。

「再起」

仲間やボランティアの姿に勇気をもらい、1週間後には、年明けからの酒造りを決意。

とりあえず片付けを始めましたが、気分は落ち込み体は思うように動きません。そんな私たちに勇気をくれたのは、地域の方々や県酒造組合の仲間たち、そしてボランティアの皆さんでした。

玉のような汗をかきながら泥を運び出している姿を見て、「自分が簡単に諦めたらいけんな」と思い、被災の1週間後には翌年1月からの酒造りを決意。目標ができたことで心に張りができ、片付けが楽になりました。

「支援」

クラウドファンディングでの調達資金が、私たちを奮い立たせてくれる原動力に。

結局、被害の激しかった酒蔵2棟と自宅は解体することに。片付けは年を明けても続きましたが、1月からは酒の仕込みを開始。必要な装置や機械類はほとんど新調しましたが、その費用の一部はクラウドファンディングで調達しました。

最終的に約177万円が集まりましたが、感じたのは金額の大きさよりも人の温かさ。クラウドファンディングは再建に向け、私たちを奮い立たせてくれる原動力となりました。

「絆」

仕込みを前に帰郷した長男が後継者に。同業者からの申し出に、胸が熱くなる。

酒の仕込みを始める直前、帰郷した長男から「伝統ある酒蔵を残していくために、家業を継ぎたい」と言われたことも、大きな力になりました。

また同業者の仲間に1月から仕込みを始めることを告げると「こんな状況で!?」と驚かれましたが、すぐに「必要な道具は、うちのを使ってくれ」と言われ、胸が熱くなりました。酒造りを再開できたのは、私たちに関わってくれたすべての人たちのおかげです。

「挑戦」

「風の里」が人々の心に新しい風を起こし、地域復興の旗印になるよう頑張りたい。

こんなことを言うと叱られると思いますが、新酒が完成したときは「できた!」という想いが強すぎて、味は二の次でした(笑)。

これからも私たちが酒を造り、出荷することで、お世話になった方々に「養老酒造は頑張っています!」というメッセージを届け続けていきます。

また被災された方々の心に前向きな新しい風を起こせるよう、「風の里」が地域の復興の旗印になれれば幸いです。

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