三島に日中韓「東アジア文化都市」の施設を……やりたい放題の川勝知事|小林一哉 議会に諮ることなく「三島を拠点に東アジア文化都市(日中韓の通年文化事業)の発展的継承センターのようなものを置きたい」とぶち上げた川勝知事。「議会とのコミュニケーションを密にする」とした約束したことなど、どこ吹く風……。

「諫議太夫」の不在

9月県議会総務委員会に出席した川勝知事(静岡県庁、筆者撮影)

静岡県の川勝平太知事による「不穏当発言」がまたもや問題となり、県議会総務委員会は10月25日、異例の閉会中審査を行った。

この委員会では、10月19日公開のハナダプラス(全知全能感にとらわれた川勝知事に必要なもの)の記事内容を踏まえた議論が、各議員と当局の間でかわされた。

つまり、ハナダプラスに紹介した「諫議太夫(かんぎたいふ)=字の如く、主人をいさめる役割の官職」がいなければ、川勝知事の失言、妄言、暴言などを食い止めることはできず、知事のやりたい放題となってしまうことがテーマとなったのだ。

誰が「諫議太夫」の役割を誰が果たすのかという難しい問題が突きつけられた。

まず一体、何があったのかを紹介する。

今月4日に開かれた9月県議会総務委員会は、知事給料等返上の条例案について、川勝知事の委員会への出席を求め、約2時間半にわたって集中審査を行った。

2021年10月の参院補選で、川勝知事のいわゆる「御殿場コシヒカリの不適切発言」の責任を追及して、同年11月県議会は、知事に辞職勧告決議を突きつけた。

ただ同決議に法的拘束力はなく、川勝知事は、知事職を続けるに当たって、給料1カ月と暮れのボーナスの合計446万円を返上すると約束した。

ところが、その約束は1年半以上も果たされることはなく、川勝知事が頬かむりしていたことをNHKが問題としたから、報道各社も大騒ぎした。

この結果、9月県議会初日、川勝知事の給与減額条例案がようやく提出された。

川勝知事の「不穏当発言」

給与減額条例案の提案に当たって、川勝知事は「知事の職にある限り、辞職勧告を突きつけられている身であることに変わりなく、常時公人など自らに課した『知事心得5カ条』を全身全霊で実行する」などと述べた。

舌禍を繰り返しながらも、何とか切り抜ける川勝知事の政治手法とは、「常時公人」などの曖昧な精神論を持ち出してきて、周囲を煙に巻くことである。

当然、総務委員会の審査でも議論はかみあわず、相変わらずの曖昧な説明を繰り返し続ける川勝知事を追い詰めることなどできなかった。

実際には、自民党県議団にも打つ手はなく、結局、5項目にわたる「附帯決議」を全会一致で可決することで、総務委員会は6日、知事提案を採択した。

附帯決議5項目の1つに、「知事の不適切発言による県政の混乱を踏まえ、県当局は知事の言動を十分に把握した上で、知事をいさめること」を盛り込んだ。

知事本人ではなく、県職員の責務を明らかにして、不適切な発言を食い止めるよう求めたのだ。

ところが、それから1週間もたたない13日、県議会最終日はまたまた知事の「不穏当発言」で大騒ぎした。

13日付の中日新聞朝刊『知事「三島に東アジア文化施設を」 議会諮らずに先行発言』の見出し記事を掲載したからだ。

前日の12日、県商工会議所連合会会長、三島商議所らが2024年度県予算に向けた要望書を川勝知事に手渡した際、川勝知事が「三島を拠点に東アジア文化都市(日中韓の通年文化事業)の発展的継承センターのようなものを置きたい。

土地を物色している。実際は、国の土地を譲ってもらう詰めの段階に入っている、それも買わないで定期借地で借りる」など明かした、という。

当然、予算化などをしておらず県議会にも諮っていない案件だった。

中日記者は、自民党県議団にも取材を行い、6月県議会で知事不信任決議案が1票差で否決された際、川勝知事が「議会とのコミュニケーションを密にする」とした約束を破ったなどの県議の怒りの声を掲載した。

当然、県議会最終日の13日は大荒れとなり、川勝知事は同施設計画について、「職員レベルの内部検討は進んでいるが、何も決まっていないのが実情だ」などと釈明した。

リップサービスで周囲を振り回しただけ

10月25日の県議会総務委員会(静岡県庁、筆者撮影)

12日の知事発言では、県内商議所会頭ら外部に対して、「詰めの段階」だとして、三島駅近くの国有地の譲渡や定期借地まで明らかにしたのだから、13日県議会の「何も決まっていない」は単なる言い訳であると考えるのがふつうである

結局、事の詳細を詰める関係委員会の閉会中審査することで、9月県議会は閉会、12月県議会に問題を先送りするしかなかった。

そして、25日の閉会中審査の矛先は県職員の対応に向けられた。
5項目の付帯決議を可決したと言っても、法的強制力はなく、どのように判断するのかは川勝知事に任されている。

5項目の中の1つ、「知事の不適切発言による県政の混乱を踏まえ、県当局は知事の言動を十分に把握した上で、知事をいさめること」だけが、知事ではなく、県職員に対応を求めている。
果たして、そんなことができるのか?

今回の問題で、知事発言の通りであれば、まだ全く何も決まっていない段階なのに、あたかも三島市の国有地に、東アジア文化都市のレガシー施設を置くなどと具体的な事実をしゃべったことになる。
「詰めの段階」という知事発言は何だったのかに質問等が集中した。

事務方は「詰めの段階」などではなく、外部に出す段階ではないなどと説明に追われた。担当部長は「三島駅近くに国が利用する予定のない国有地の情報をもらったが、譲渡など具体的な検討に至っていなかった」などと述べた。

もし、そうならば、川勝知事の発言は、頭にあるアイデアをあたかも「詰めの段階」のように外部に話したことになってしまう。
つまり、一般的な「詰めの段階」という意味が川勝知事の場合、全く異なるのだ。

川勝知事の「詰めの段階」発言は、あまりにも無責任であり、三島商議所などへのリップサービスをしただけで、周囲をすべて振り回したことになる。

首に鈴をつけるのは無理

ここでは具体的に述べないが、川勝知事は、これまでも何度も同じように無責任な計画をあたかも実施するように平気で外部に公言してきた。

そもそも、知事選の公約でさえ、何ひとつ果たしていないのを見れば、それははっきりとする。
リップサービスで済まされる問題ではないが、ペラペラと精神論を繰り返されると知事の言っていることがもっともらしく聞こえてきてしまうようだ。

結局、総務委員会は、「職員が知事をいさめること」という「附帯決議」を可決したばかりなのに、実際に、職員たちと知事の間でちゃんと意思疎通できているのか、県庁内ではどのように取り組んでいるのか、という「組織論」の話に発展させるしかなかった。

しかし、選挙戦を勝ち抜き、県民の負託を受けた知事に、本当に県職員が「いさめる」権限などあるのか、という高い壁に突き当たってしまう。

元県職員だった副知事の退職金辞退問題でも、任命者の川勝知事の指示に副知事は逆らえない。幹部級職員であっても、知事の指示に従うことだけが求められるのだ。

「知事をいさめること」など期待されてもできるはずがない。

つまり、誰が猫の首に鈴を付けるのかはできない相談である。

付帯決議は絵に描いた餅であり、県議会の責任と役割に戻ってしまう。
対決姿勢を強める自民党県議団だが、いくら川勝知事を厳しく「いさめて」も、打つ手なしの状態が続いている。馬耳東風のたとえ通りである。

「諫議太夫」を置くのは、権力者が自身で決断しなければ、意味を失う。
どんな失言をしても、全知全能感を持つ「権力者」川勝知事はそんなことを考えるはずもなく、川勝知事に真っ向から「いさめる」ことで、反省させ、辞職しなければならないと決断させるのが政治家の役割である。

残念ながら、いまのところ、静岡県にはそのような政治家は見当たらない。

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小林一哉(こばやし・かずや)

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