社説:自治体と生成AI リスク踏まえルール化急げ

 全国の自治体で、人工知能(AI)を使って文書や画像などを自動的に作り出せる「生成AI」を活用する動きが広がっている。

 現時点では主に職員の内部資料や催しのPR案文作成などで使われている。京滋でも、試験運用を含め京都府や滋賀県、城陽市、長浜市などが活用を始めている。

 インターネット上の膨大なデータを収集・学習し、指示を出すと瞬時に回答が導き出される生成AIは、事務作業を大幅に効率化できるとの期待がある。

 一方で、正確性に対する疑念のほか、著作権や個人情報保護などの観点から利用を懸念する声がある。

 情報漏えいの可能性があるとして、業務での活用を見合わせている自治体もある。

 世界規模での急速な普及を踏まえれば、行政分野でどう利活用するかの議論は避けて通れない。リスクを十分に理解し、慎重な取り扱いが求められる。

 生成AIを利用するには、インターネットに接続する必要がある。情報がいったんネット上に出てしまえば、削除や回収は事実上、不可能になる。とりわけ、行政は個人情報や機密性の高い内容を扱う機会が多い。流出を防ぐ二重三重の対策が欠かせない。

 AIが導き出す回答についても、不用意な流布を防がなければならない。AIが使うネット上のデータには、誤った情報や企業の広告なども含まれる。正確性だけでなく、中立性の危うさも指摘されている。他人の著作物をデータとして使うことで、作者の権利を侵害している恐れもある。

 本格活用に向けて試験導入した京都府や滋賀県をはじめ、各自治体は個人情報や機密情報を入力しない、出力結果の真偽や根拠を確認する、といった指針を設けている。先行自治体がAI活用事例を公開している取り組みがあるが、「ヒヤリ」とした危うい事例も共有し、生かしてほしい。

 自治体が生成AIを活用する上での課題は、政府にも共通している。だが、国際的なルールもないのが現状だ。

 先進7カ国(G7)は、AIの開発段階で外部機関による検証を行い、リスクの軽減に努めることなどを盛り込む開発者向け指針をまとめた。利用者にまで対象を広げたルールは、年末までに策定を進めるという。

 生成AIを巡っては、利用規制を先導する欧米に対し、活用に前のめりな日本政府の姿勢が目立っている。AIの技術開発で出遅れ、巻き返したいとの思惑があると指摘されている。

 業務の効率化による長時間労働の改善などAI活用のメリットは、安心して使えるルールがあってこそ発揮される。画期的な技術をどう使っていくのか。議論を急ぐべきだ。

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