【えほんのとびら】No.247「雪虫」

福音館書店
文・写真:石黒 誠

 北の地方では、10月なかばのよく晴れた風のない日に、雪が舞うように飛び交う虫があらわれます。北国の人たちはこれを「雪虫」とよび、この虫が飛びはじめると長い冬の訪れを感じるそうです。

 雪虫は、季節によって姿や住む場所を変えながら1年のうちに6~7回も世代交代をくり返す昆虫です。

 春、湿地にはえているヤチダモの樹液を吸いながら成長する雪虫は、茶色に黒のしまもようのついた丸っこい姿で翅(はね)はありません。

 初夏になるとヤチダモの栄養分が少なくなるため、この時期に生まれた雪虫は翅をもち、それを使ってトドマツ林へ引越します。

 秋になり気温がぐっと下がってくると、綿毛をまとい、ひとひらの雪に足と翅がついたような姿となって再びヤチダモの木へと飛んでいきます。そして本当の雪が降りはじめる前に子どもを生み、その子どもたちが生んだ卵は、木の皮に包まれて厳しい冬を越し、あたたかい季節がめぐってくるのを待つのです。

 体長3~4㎜ほどの小さな虫が力の限り次世代に生命をつないでいく姿に、自然界の神秘を感じます。

ぶどうの木代表 中村 佳恵

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