本命ドジャースの対抗は? 日米が注目する大谷翔平“大争奪戦”、判断基準となる2つの要素

日米のプロ野球選手人生を通じて初のフリーエージェント(FA)となった大谷翔平。所属するロサンゼルス・エンゼルスとの独占交渉期間を終え、ついに全球団との交渉が開始された。世界中が注目する“大争奪戦”を経て、最終的に大谷はどのような結論を下すのか――。FAでの契約交渉において判断基準となる2つの要素を軸に、重要視される項目、候補となる球団を考察する。

(文=花田雪、写真=USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

総額は米スポーツ史上最高額、約750億円との予想

日米が注目する“大争奪戦”がついに始まった。

11月2日(日本時間3日)、MLB(アメリカ・メジャーリーグ)公式サイトが今オフのフリーエージェント(FA)選手の一覧を発表。そこには、今年のストーブリーグ最大の目玉、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の名前があった。また、日本人選手では他に前田健太(ミネソタ・ツインズ)、藤浪晋太郎(ボルティモア・オリオールズ)もFAリストに名を連ねている。

とはいえ、やはり最大の注目が大谷の去就なのは間違いない。米東部時間6日午後5時(同7日午前7時)までは前所属チームであるエンゼルスに独占交渉権が与えられていたが、提示された「クオリファイング・オファー」の単年2032万5000ドル(約30億5000万円)は大方の予想通りに拒否。MLB全30球団(もちろんNPB[日本プロ野球]12球団も)との交渉が可能になり、本当の意味での“大谷争奪戦”が幕を開けた。

2024年以降、大谷は一体どのチームでプレーするのか――。FAでの契約交渉において、判断基準となる要素は大きく分けて2つある。

1.条件=年俸や契約年数はもちろん、MLBでは起用法やトレード拒否条項、オプトアウト(契約破棄条項)の権利、マイナー降格の拒否権など細かな項目まで契約に盛り込まれることが多い。

2.環境=本拠地の気候や設備面、さらにはワールドシリーズ制覇を狙えるだけのチーム力、もしくはそれだけの補強を行えるかも、大谷のような“目玉選手”にとっては大きな要因となる。 大谷に関していえば、より重要視されるのが後者である「環境面」だろう。もちろん、条件を軽視しているわけではないだろうが、現時点で多くのメディアが大谷の契約総額を米スポーツ史上最高額となる総額5億ドル=日本円で約750億円と予想している。獲得に手を挙げる球団は、その時点で巨額を捻出できるだけの資金力が求められる。

チームの編成や起用法を大谷翔平に“合わせる”必要がある

そもそも「争奪戦」と書いたが、実はそれに参加できる球団はMLB30球団の中でも限られてくるのが現状だ。候補として挙げられるのがロサンゼルス・ドジャース、ニューヨーク・ヤンキース、ニューヨーク・メッツ、ボストン・レッドソックスあたりだろうか。また、今オフに多くの主力選手が退団し、資金が“浮く”可能性があるシカゴ・カブスも争奪戦に参戦してくるかもしれない。カブスには大谷と同学年の鈴木誠也が所属しており、大谷・誠也コンビが生まれれば日本でも大きな話題になるはずだ。

その上で、より重要になってくる「環境面」を考えてみよう。MLBでも類を見ない「二刀流」でプレーする大谷にとっては他の選手よりもプレー環境が自身のクオリティに大きく影響してくる可能性は高い。大谷本人もそれを自覚し、重視しているのは間違いないだろう。特に来季は右ヒジ手術の影響で打者として試合に出場しながら投手としてのリハビリを並行するというイレギュラーな1年になる。

環境面の一つ、「本拠地の気候」を考えると、やはり温暖な西海岸のほうが身体への負担は低いだろう。となると、春先や秋口に厳しい寒さに襲われることもあるニューヨークやボストンはやや不利といえるかもしれない。MLB入りからの6年間をロサンゼルスで過ごした大谷にとっても、西海岸の球団であればそこまで大きな“変化”もなくシーズン、リハビリに臨めるはずだ。

ただし、環境面で重要なのは決して気候だけではない。チームが置かれている状況を考えたとき、ネックになりそうなのが「指名打者=DH」だ。来季、打者専念となる大谷を獲得するということは、必然的に1年間通してDHを大谷のために空けなければいけない。近年のMLBではDH専門打者が減少傾向にあり、主力打者を休養させるためにDHをローテーションで回すことが多い。例えばヤンキースの場合、リーグ本塁打記録を持ちながら今季はケガに苦しんだアーロン・ジャッジや、ベテランの領域に入ったジャンカルロ・スタントンといった主砲をシーズンフルで守備につかせることは現実的ではない。しかし、その場合にヒジのリハビリ中である大谷を代わりに守備につかせるという選択肢は生まれない。 大谷を獲得するということは、チームの編成や起用法そのものを大谷に“合わせる”必要がある。大谷という選手には、それだけの価値があるとも言い換えることができるかもしれない。

MLBの舞台でも頂点を目指したい。そう考えるのは…

そしてもうひとつ――。

おそらく、これがもっとも“重要”なファクターになる。それが、「ワールドシリーズを狙えるチームかどうか」だ。ここ数年、大谷はメディアを通しても比較的はっきりと「勝利への枯渇」を口にしてきた。

残念ながら、6年間所属したエンゼルスでは一度もプレーオフに出場することができなかった。MLBはNPBの倍以上にあたる30球団が所属しており、「ワールドチャンピオン」の座はどんな名選手であっても現役生活を通しても一度も手にできないことが多々ある。MLBで19年間プレーし、2653試合に出場、通算3089安打を放ったイチロー氏でさえ、一度もチャンピオンリングを手にしていない。

3月のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)制覇で、大谷自身も「勝つこと」への意識がより高まったかもしれない。選手として全盛期である今、MLBの舞台でも頂点を目指したい――。そう考えるのは、自然な流れかもしれない。

そう考えると、今季のワールドチャンピオンでもあるテキサス・レンジャーズや、資金面ではやや不利だが近年ワールドシリーズの常連となっているヒューストン・アストロズといったエンゼルスと同地区のチームへの電撃移籍の可能性もゼロとは言い切れない。

もちろん、MLB移籍後の6年間を過ごしたエンゼルス残留の可能性も十分あるだろう。ただ、そのためにはやはり、前述の「ワールドシリーズ進出を狙えるチーム作り」を明確に打ち出す必要がある。チームにはすでにマイク・トラウト、アンソニー・レンドンという高額年俸選手がいる。大谷との契約延長は球団財政を圧迫するだろうし、年俸総額超過による「ぜいたく税」を支払うリスクも生まれるはずだ。 ただ、そこをクリアし、頂点を目指すためのチーム作りや大型補強を確約することが“もしも”できるのであれば、6年間慣れ親しんだ球団という意味で“環境面”ではアドバンテージがある。

移籍先の本命はドジャース。対抗はエンゼルス?

米メディアの報道を見ると、移籍先の大本命はエンゼルスと同じロサンゼルスに本拠地を置くドジャースだという。たしかに資金もあり、環境的にもエンゼルスと一番近い。ここ11年間で地区優勝10度と、MLBでも屈指の強豪として知られる。“本命視”されるのも納得だ。

あえてマイナス点を探すのであれば、大谷が投手として復帰する再来年以降、中5日の“大谷ローテ”を組めるかどうか。チームにはレジェンド投手のクレイトン・カーショウがおり、エンゼルスのように大谷中心にローテを組むことは難しい。とはいえ、カーショウもすでに35歳。大谷が投手復帰する2024年には37歳になるため、大きな問題にはならないかもしれない。

筆者も、移籍先の本命はドジャースだと考えている。しかし、対抗に挙げたいのはやはり「プレー環境」という面で慣れ親しんだエンゼルスだ。もちろん、ここで名前を挙げていない“ダークホース”が現れる可能性もあるし、大谷自身がどんな決断をするかはわからない。6年前の渡米時も移籍先の本命に“エンゼルス”を挙げたメディアはなかったはずだ。

また、「1年間通じて指名打者の枠を大谷のために空けることができる」という意味ではメッツや、かつてイチローも在籍したシアトル・マリナーズも面白い。個人的には2012年の三冠王にして今季年俸3200万ドル(約47億円)のレジェンド、ミゲル・カブレラが引退したデトロイト・タイガースも、“大穴候補”に挙げておきたい。かつての“MLB最強打者”の後釜に現在の“MLB最強打者”が収まるというのも、ストーリーとしては美しいのではないだろうか。

ただ、どんな決断を下したとしても、大谷にとってはそれがベストな選択のはず――。そう信じて、ストーブリーグの動向を見届けたいと思う。

<了>

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