背景に先生の働き方改革…部活動の運営を学校から地域へ 課題は指導者の確保、保護者の経費負担 静岡・沼津市

少子化や教員の働き方改革に伴い、公立の学校でも今、部活動の地域移行が始まっています。今年から静岡県沼津市で活動を始めた野球チームを取材しました。

複数の中学校の生徒が一緒に活動

午後5時前。沼津市内の中学校にユニホーム姿の中学生が集まってきました。

グラウンドに入ると早速、練習を始める準備をします。一見、普通の「野球部」の光景のように思えますが、実はこれ、部活動ではありません。

中学1年生:「出身は門池中学校です。色んなところで、色んな人と関わったりするので、とても楽しいです」

中学1年生:「今沢中学校です」
Q:今沢中学校は野球部はあるんですか?
A:ないですね。今年でなくなっちゃいました
Q:それはなぜ
A:部員が足りなくて

設立したのは元中学校教諭

メンバーは沼津市内の複数の中学の生徒。皆、自分の学校に「野球部」がないなど、様々な理由を抱えてここに集まっています。「部活動」ではないこの軟式野球チームの名前は「沼津フェニックス」。チームを設立したのは元中学校教諭の内村義則さんです。

沼津フェニックス 内村義則代表(61):「私はもう今年の3月で定年退職ですので、今、金岡中の非常勤講師で週10時間の英語の授業をやっています」

チームは4月から本格的に活動を始め、市内の中学校から集まった12人の1年生が入団しました。内村さんがチームを設立した背景にあるのが、公立中学校の「部活動の地域移行」です。「部活動の地域移行」とは、公立中学校の部活動運営を学校から地域へ、つまり、学校の先生から外部のコーチなどに段階的に移行していくという国の方針です。

沼津市の公立中学の部活動…平日3日+土日1日 午後5時には下校

沼津市ではこの方針を受け、今年度から公立中学校の平日の部活動を週3日とし、午後5時を完全下校とする取り組みを始めました。

沼津フェニックス 内村義則代表:「5時ぐらいに終わっちゃうと考えると、やっぱりもうちょっと頑張りたいなという子たちの場がね、現状だと硬式のクラブに行くか、今後は5時ぐらいまでやる学校部活の2つしかなくなっちゃうということで」

チームの活動は平日3日と土日のどちらか1日、合わせて週4日です。子どもたちの活動時間を十分に確保しようと、平日は午後5時から午後7時までとなっています。

背景に「教員の働き方改革」

そもそも、なぜこのような「地域移行」が段階的にスタートしているのか? 背景にあるのは少子化問題と、教員の働き方改革です。文部科学省が実施した最新の教員勤務実態調査によると、国が残業の上限としている月45時間の残業時間を超える中学校教員は、アンケート対象者の77%となりました。要因は様々ですが、部活動の活動日数が多いほど「学校にいる時間」が増えているという結果も出ています。

教員の負担軽減という側面がある「部活動の地域移行」ですが、そもそも「指導できる教員がいない」ということも課題の1つです。そこで、沼津市では教員が地域のクラブでも指導ができるように「兼職兼業届」という制度を設けました。代表の内村さんと共にチームの指導に当たっている江藤亮太さん(32)。市内の中学校で教員として勤務していますが、学校に野球部がないなどの理由で「兼職兼業届」の制度を使っています。

江藤亮太ヘッドコーチ:「中学校の教員でありながら、兼職兼業届を出して、部活動の地域移行に伴って立ち上がったクラブチームの指導をさせてもらっています。自分も野球をやってきたので、やっぱり野球の指導は憧れがありましたし、教員になる上で野球に携われたらいいなという思いはありました」

課題は指導者の確保、保護者の経費負担

「沼津フェニックス」のように「部活動」ではない「地域のクラブ」が増えてきたものの、沼津市教育委員会によると、まだまだ多くの課題があるといいます。

沼津市教育委員会学校教育課 山崎巌課長:「今年度に入りまして、野球、ソフトボール、陸上、吹奏楽等のスポーツクラブが声をあげていただいているところが増えてきているものの、やはり受け皿が一つの課題。また指導者の確保、そして保護者の経費負担、これが今後大きな課題になってきます」

沼津市では専門家や市民との協議で、今年度中にも具体的な方針を定めるとしています。子どもたちの教育の一環としての部活動。一方で、考えなくてはならない教員の働き方改革。静岡県内でも部活動をめぐる難しい議論が続いています。

© 静岡朝日テレビ