【連載コラム】第37回:ワールドシリーズ決着の瞬間に5度もマウンドに立っていた男 マリアーノ・リベラのすごさ

写真:2009年にWS制覇を遂げた際のリベラ ©Getty Images

MLBの2023年シーズンはレンジャーズの球団史上初のワールドシリーズ制覇で幕を閉じました。優勝決定の瞬間にマウンドに立っていた投手(いわゆる胴上げ投手)はレンジャーズのジョシュ・スボーツ。9回裏二死走者なしの場面でダイヤモンドバックスの2番打者ケテル・マルテを見逃し三振に仕留め、4勝1敗でダイヤモンドバックスを破ったワールドシリーズを締めくくりました。

メジャー5年目、29歳のスボーツがポストシーズンに出場したのは今年が初めてであり、当然ながらワールドシリーズの胴上げ投手になったのも今回が初めてです。MLB公式サイトのアンドリュー・サイモン記者によると、ワールドシリーズ決着の瞬間にマウンドに立っていた投手はスボーツが史上109人目、ワールドシリーズ決着の瞬間に打席に立っていた打者はマルテが史上113人目だったそうです。過去、ワールドシリーズ決着の瞬間に複数回マウンドに立っていた投手は以下の11人となっています(◆はサヨナラ負けを表す)。

クリスティ・マシューソン(1905年・1912年◆)
アート・ネーフ(1921年・1922年)
ジョニー・マーフィー(1936年・1939年)
ジョー・ペイジ(1947年・1949年)
ボブ・キュザバ(1951年・1952年)
ラルフ・テリー(1960年◆・1962年)
サンディ・コーファックス(1963年・1965年)
ボブ・ギブソン(1964年・1967年)
ロリー・フィンガース(1972年・1974年)
ウィル・マケナニー(1975年・1976年)
マリアーノ・リベラ(1998年・1999年・2000年・2001年◆・2009年)

1人だけ異様に回数が多いことにお気づきでしょうか。マシューソンからマケナニーまでの10人が2度で並んでいるのに対し、リベラだけ5度。リベラはワールドシリーズに通算7度出場し、1996年、1998~2000年(3連覇)、2009年と5度の世界一を経験しました。メジャー2年目の1996年はまだクローザーではなかったため、ワールドシリーズの胴上げ投手の座は守護神ジョン・ウェッテランドに譲りましたが、1998~2000年と2009年は胴上げ投手に。ダイヤモンドバックスのルイス・ゴンザレスにサヨナラ打を浴びた2001年の第7戦も含め、「ワールドシリーズ決着の瞬間に5度もマウンドに立っていた男」となりました。

ヤンキース黄金期のクローザーだったため、リベラはそもそもポストシーズンの出場回数が異様に多い選手です。メジャーでプレーした19シーズンのうち、ポストシーズンに出場しなかったのは現役ラストイヤーの2013年を含む3度だけ。ポストシーズン通算96試合に登板していますが、ポストシーズンの通算出場試合数トップ10にランクインしている投手はリベラだけです(次点の投手はケンリー・ジャンセンで通算59試合)。

もちろん、ただ登板数が多いだけではなく、8勝1敗42セーブ、防御率0.70、WHIP0.76という驚異的な成績をマーク。ポストシーズンで通算30イニング以上を投げている投手のなかで防御率0.70はトップの数字です。ワールドシリーズでは通算12度のセーブ機会があり、失敗したのは2001年の第7戦だけ。ポストシーズン通算96試合で141イニングを投げている、つまりイニング跨ぎの登板を数多くこなしているなかでこれだけの成績を残しているのは驚異の一言に尽きます。

MLBの長い歴史において、得票率100%でアメリカ野球殿堂入りを果たした選手はリベラだけ。通算652セーブというメジャー記録はもちろん、ポストシーズンでの圧巻のパフォーマンスが高く評価されたことは言うまでもないでしょう。しかも、リベラはほとんどカッターしか投げない投手でした。MLBで最後まで背番号「42」をつけた選手としても知られています。

リベラの引退後も数多くのスーパースターを生み出しているMLBですが、ポストシーズンでの実績も含めて考えると、リベラの偉大さに迫るのは不可能と言っても過言ではなさそうです。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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