岸田首相がひた隠す不都合な真実「年金は賃金に追いつかない!」老後資金は2400万円不足へ

賃上げの重要性を強調する岸田首相。年金について語ることは少ない(写真:共同通信)

「来年度中には名目賃金の伸びが消費者物価の伸びに追いつく、こういった試算も出ています。実質賃金がプラスに転じるのは、2024年度ないし2025年度との見方が多い」

10月31日、衆議院予算委員会で、こう自信を見せた岸田文雄首相(66)。その一方、同日に日本銀行が発表したレポート「経済・物価情勢の展望」には、物価についての厳しい見通しが記されていた。

「生鮮食品を除く消費者物価指数は、2023年度と2024年度でいずれも2.8%も上昇すると予測されました。25年度は上昇率が少し小幅になるものの、1.7%の上昇です。厳しい物価高は今後も続くということです」(経済記者)

経済評論家の加谷珪一さんはこう解説する。

「4月に発表された『経済・物価情勢の展望』では、2023年度の消費者物価指数の予想は1.8%でした。しかし、7月のレポートでは2.5%に。徐々にプラスに修正されてきたのです。

もともと専門家の間では、日銀のレポートは『見通しが甘い』といわれていました。2%の物価上昇を旗印に、政府は異次元の金融緩和を行ってきましたが、物価が十分に上昇していれば、金融緩和を終わらせる必要があります。緩和を維持するため低めの数字が出されているという見方もありました。しかし、今回、発表された数値は、かなり現実を見据えたものになっていると感じます」

■年金額の上昇を抑えるマクロ経済スライド

岸田首相が言うように、物価高に賃金が追いつくことはあるのだろうか。

「昨年から今年にかけての物価高は、歴史的な円安と原油高、そしてウクライナやイスラエルなどでの軍事衝突など、経済に与える非常に大きな事象が立て続けに起きたことが要因です。

その影響は来年度も残ると思われますが、日銀の予想では2025年度には物価の上昇は1.7%と鈍化します。今年のような賃上げが今後も続けば、岸田首相の言う物価上昇に賃金の上昇が追いつく可能性は十分にあります」

だが、賃上げをすると、人件費を捻出のために、企業は製品の価格を上げざるをえなくなるという。

「現在のような急激な物価高はおさまりますが、ゆるやかなインフレは続いていくでしょう。賃上げによって現役世代は耐えられるかもしれませんが、年金を受給しながら、貯金を取り崩して生活しているような高齢者にとっては、かなり厳しい生活が待っていると思います」(加谷さん)

YouTubeで『年金博士・北村庄吾の年金チャンネル』を運営している、社会保険労務士の北村庄吾さんが語る。

「毎年4月に年金受給額が見直されます。以前は、物価や賃金の上昇に合わせて、同じように受給額も上がっていく仕組みでした。しかし、厚生労働省は、少子高齢化などによる年金財政の悪化を理由に、マクロ経済スライドを導入。その結果、受給額の上昇は抑制されることになりました」

ただし、賃金や物価が上がらず、年金の受給額も上昇しないときは、マクロ経済スライドは発動されないことになっている。

「長引くデフレで、過去に3回しか発動の機会がなかったマクロ経済スライドですが、今年4月の改定で3年ぶりに発動されました」(北村さん)

今年の年金受給額は、物価や賃金の上昇をうけ、本来2.8%上昇するはずだったのが、マクロ経済スライドの影響で、2.2%の上昇に抑制されたのだ(67歳以下の場合)。

政府が目指す持続的なインフレがおきた場合、毎年のようにマクロ経済スライドが発動されることになる。さらに、スライド調整率は公的年金全体の被保険者の減少率などで決まるため、この人口減少社会において、調整率の値は次第に大きくなると試算されている。

「年金の受給額は上がってはいきますが、それ以上に物価が上がり支出も増えることになる。十分な老後資金がない場合、生活の質を落とさねば立ち行かなくなるでしょう」(北村さん)

■30年で年金とは別に2400万円必要

それでは、現在の生活を維持するために、いくらくらいの老後資金が必要になるのか。今後も物価が上昇し続けることなどを前提に、2022年の家計調査から、今後30年間で不足する資金を本誌が試算した。

物価上昇の激しい2023年の時点で、前年度(2022年)と同じ生活をしたとしても、毎月2万4049円、年間28万8588円の不足となる。

18年目の2040年には所得代替率が50%に達し、不足額は月8万2690円、年間で100万円近くに拡大する。

30年間の不足額の合計は2403万9918円。年金とは別に、これだけのお金が必要となるのだ。

11月2日の記者会見で、賃上げの必要性について強調した岸田首相。しかし、年金や高齢者について、一触れることはなかった。岸田首相の高齢者切り捨てに負けないためには、もはや自助努力しかないのだろうか。

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