英国で広がる食品のカーボンラベル オートリーやヒルトンが推進

オートリーは商品にCO2排出量を記載する。白黒の広告(写真右)は、乳業メーカーが同じくCO2排出量を公開できるように広告スペースを寄付すると伝えている。 Image credit: Oatly

食料システムから排出される温室効果ガスは総排出量の3分の1に上る。英国では気候変動対策の重要な鍵を握るこの分野で、ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス(カーボンフットプリント)の量を表示するカーボンラベル導入の動きが進む。スウェーデン発の大手オーツミルクブランド「オートリー(Oatly)」と世界的ホテルチェーン「ヒルトン」の取り組みを紹介する。(翻訳・編集=小松はるか)

オートリー、英国の食品業界にカーボンラベルの表示を呼びかける

クライメートフットプリントが記載されているオートリーのパッケージ。Image credit: Oatly

オートリーはこのほど、英国の全飲食品メーカーにクライメートラベル(カーボンフットプリントを示すラベル)を導入するよう呼びかけるキャンペーンを始めた。同社はCO2排出量を公開しており、乳製品産業に同様の取り組みを促す。オートリーは、効果的なクライメートラベル制度を作るべく他社と連携し、英国政府がラベルを義務化するように圧力をかけたい考えだ。

オートリーは透明性の高いデータ・ドリブン・マーケティングによって、食品がもたらす気候変動への影響を啓発する業界のリーダーだ。同社はクライメートラベルの表示を促す報告書“グレー・ペーパー”を発表した。グレーと名付けられているのは、クライメートラベルの問題は「ある食品は良くて、他は良くない」というように、白か黒かをつけることが最善策ではないことを強調する報告書だからだ。報告書は、気候ラベルの義務付けを求め、消費者の行動変容が排出量を減らす重要な役割を担うことを強く主張している。

英国・アイルランドのオートリーでジェネラルマネージャーを務めるブライアン・キャロル氏は、「私たちが消費する食品や飲料は、英国の総CO2排出量の3分の1を占めています。英国政府の気候変動委員会(CCC)などの科学者らは、排出量を早急に減らさなければならず、消費者の行動変容が不可欠なことを明らかにしています。気候変動の緊急性を考えると、購入する商品の気候変動への影響を、値札を見つけるのと同じくらい簡単に目に入るようにすべきだと考えています」と言う。

食品が気候変動にもたらす影響について透明性を求めるこうした動きは、英国政府がクライメートラベル政策の可能性を探ることを目指し、企業や研究者らと連携する「食品データ透明性パートナーシップ(Food Data Transparency Partnership)」設立の動きと一致する。

サステナビリティ戦略の専門家で『死んだ地球でビジネスはできない』の著者マーク・シェイラー氏はヤフーニュースで、「人々がより環境に配慮した決定を行う手助けをし、企業がその影響を測定して削減するのに役立つ情報が待ち望まれています」と話す。さらに同氏は、CO2は環境への影響を測定する完璧な方法ではないとしながらも「現状では最良の方法」だと語り、正確な情報を得ることの重要性を説いている。

「輸入されたトマトは、国内でハウス栽培されたトマトよりもCO2の排出量が少ないことがよくあります。生産方法を見てみても、牧草を食べて育てられた牛は、大豆飼料を食べて育てられた牛や森林伐採された地域で育てられた牛よりもCO2排出量が少ないです。“情報は力なり”です。情報があることで食品のサプライチェーンにより焦点が当たり、うまくいけば、CO2の排出量がより少ない食品の生産につながるでしょう」

英ヒルトン、メニューにカーボンラベルを掲載

ヒルトンはコチュジャン・カリフラワー・ウイングなどCO2排出量のより少ないメニューを提供している。 Image credit: Hilton

同じく英国でホテルを運営するヒルトンは、約30軒のホテルのメニュー表にカーボンラベルを採用し、CO2排出量の少ない料理の提供を始めている。

メニューはスウェーデンのスタートアップ「クリマト(Klimato)」と共同開発した。クリマトは食品の気候変動への影響を削減することを目指し、レストランや食品サービス業者が料理ごとのCO2排出量を計算・公表するサポートを行う。ヒルトンでは、メニューに記載された料理のCO2排出量をシンプルで分かりやすいラベルで伝えている。それぞれのメニューは、CO2排出量の大小を緑のグラデーションで示し、1食あたりのカーボンフットプリントをイラストを使って解説する。

Image credit: Hilton Brussels Grand Place

WWF(世界自然保護基金)が2018年に発表した報告書によると、英国の平均的な昼食や夕食のCO2排出量はおおよそ1.6 kg。パリ協定の目標を達成するには、この数値を0.5kgに抑えなければならない。

ヒルトンは食品関連の排出量を継続的に抑制するためにクリマトと連携し、自社のメニューのライフサイクルでのCO2排出量を測定し、顧客に情報を伝える。この仕組みは、混乱を招くような事実や数値をもって顧客と向き合うのではなく、前向きな会話が進むように作られている。中立的な言語を使うことで、顧客はメニューのCO2排出量を簡単に比較できる。同じカーボンラベルが2021年に英グラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)でも使われている。

クリマトのカーボランラベルは円形で、CO2排出量が多いほど円の中が緑色に塗りつぶされ、少ないほど緑色の面積は少なくなる。30軒のホテルで提供される料理のおよそ半分が、CO2の排出量が低い料理と認定されている。

ヒルトンによると、同社は英国内でカーボンラベルを大規模に導入した、最初のホテルチェーンだという。ロンドンやニューカッスル、リーズ、リバプールなどの都市で運営する約30軒のホテルで、顧客がより多くの情報をもとに料理を選択できるようにしている。

同社の調査によると、カーボンラベルの存在が顧客の行動を変容させているという。また、CO2排出量が少量から中程度の料理が人気を集めているようだ。同社は、秋のメニューでCO2排出量が少〜中程度のメニューの割合を85%以上に引き上げる方針だ。

ヒルトンEMEA(欧州・中東・アフリカ)で飲食戦略・開発部門を率いるエマ・バンクス氏は、「カーボンラベルは、顧客がより多くの情報に基づき選択ができるよう後押しするための手軽な方法です。CO2排出量が非常に少ない料理を選んだり、CO2排出量が多い料理を選ぶ回数を減らしたりと、顧客が取り組みを理解してくれていることを嬉しく思います」と話す。

Image credit: Hilton

牛肉ではなく植物由来の肉の代替品を使ったハンバーガーを選ぶことは、自動車で63kmの距離を走るのと同じ量のCO2削減になる。例えば、CO2排出量の少ない3品のコース料理の内容は、前菜にコチュジャン・カリフラワー・ウイング、その後にバターナッツかぼちゃのリゾット、もしくは魚を使ったフィンガー・サンドイッチが続く。デザートには塩キャラメルアフォガードだ。このコースのCO2排出量は1.2kgだ。

クリマトの共同創業者であるクリストファー・コニー氏は、「ヒルトンが踏み出した重要な一歩は、先進的事例を示したというだけでなく、食品とサステナビリティに関する重要な課題への認識を高めることにもなります」と話す。

ヒルトンは、英国以外でも取り組みを進めている。ベルギーにある「ヒルトン ブリュッセル グラン プラス」は、クリマトのカーボンラベルをベルギーで初めて導入した。アラカルトのメニューに記載されているという。

同ホテルの総支配人であるエレン・デボック氏は、「日々のニュースは、世界中の気候変動の影響に気づかせてくれます。今こそ行動を起こすときです。私たち全員が変化を起こす一員になる必要があります。当ホテルでは、メインレストランでおいしい料理を提供するとともに、カーボンラベルによって情報を伝えた上で料理を選べるようお手伝いしています。気付きや行動はそこから始まるのです」と述べた。

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