コロナ禍を経てライフスタイルが変化した今、24時間営業は必要か? 深夜営業の存在意義とは?

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは“24時間営業の必要性”について議論しました。

◆人々のライフスタイルが変化するなか、24時間営業は必要か?

今年5月、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが"5類”に移行し、夜の街は活気を取り戻しつつありますが、以前24時間営業していた渋谷のマクドナルドは今、午後10時で営業終了。

さらにはコンビニも時短営業している店舗が増加。コロナ禍を機に24時間営業や深夜営業の見直しが図られています。

24時間営業の是非について、経済アナリストの池田健三郎さんは「それは市場(マーケット)が決めること。必要がないのに開けていても仕方がない。必要なら開ける企業が増える」と持論を述べます。

さらに「日本は生産性が低いと言われてきた。特に非製造業、サービス業は非常に低いと言われ、売上がないのがわかっていながら店を開けているのは、まさに生産性に逆行する話」と指摘。

現状、マクドナルドは新型コロナの感染拡大を機に、都内一部店舗で深夜営業を中止、または深夜は持ち帰りのみとしています。また、コンビニはセブン-イレブン、ファミリーマートの一部店舗が午後11時閉店に。そして、ファミリーレストランのデニーズは24時間営業の店舗がゼロ。24時間営業開設していた日本郵便のゆうゆう窓口も最長午後9時までの営業に短縮している一方で、すかいらーくグループは24時間営業を順次再開させるなど、対応は分かれています。

コロナ禍を経て人々のライフスタイルが変化するなか、24時間営業は必要なのか。コメンテーター陣に聞いてみると、キャスターの田中陽南、食文化研究家の長内あや愛さん、フリーアナウンサーの荘口彰久さんは「必要」。池田さんとキャスターの堀潤は「不要」と意思表示。

まず、「必要」とした荘口さんは、ファミレスなどは24時間営業でなくても良いものの、コンビニは24時間営業の必要性を感じている様子。というのも、例えば、子どもが深夜に発熱した際、飲み物など急遽必要なものを買いに行かなければならないときや、さらには「以前、中学生の娘が変な車に追いかけられたことがあり、コンビニがあって助かった」と身近な体験談を交えて話します。

飲食店を経営している長内さんは、夜の仕事をしている人や居場所のない学生など、深夜に営業しているお店を利用する人がいることから「必要」としていましたが、堀から「もしも自分のお店が深夜3時頃に開けてほしいと言われたら?」と質問が投げかけられると、熟考の末「経営のことを考えると(深夜は)開けない……」との声が。なぜなら深夜は利用客が少なく、利益が上がらないから。

同じく「必要」派の田中は、先日シンガポールに行った際、現地では深夜営業店が少なく、若者たちが路上でお酒を飲み、騒いでいたのを目にし、日本も同じようになってしまうのではないかと深夜営業店がなくなることによる治安の悪化を危惧。

一方、「不必要」とした池田さんは「全ての店舗が閉める必要はなく、無理やり開ける必要はないという意味で」と補足しつつ、この問題の解決策として「深夜料金」の設定、価格面の調整を提案。「なぜ夜だけ上乗せするんだと苦情があるかもしれないが、深夜労働は割増賃金を払うのが常識。そこに適合したシステムを作らないといけない。なんでも無料だと思いがちだが、それは間違い」と日本社会の問題点を指摘します。

また、堀は荘口さんが言うように深夜に営業している店舗が"シェルター代わり”、"セーフティネット”の一翼を担っていることを認めつつ、「そうであれば、その役割を全て民間事業者に本当に委ねていいのか?」と疑問視。

「経営者にしてみたら社会的責任もあるから店を開けるが、(経営の)大変さはもっと汲まないといけない」と憂慮する堀に、長内さんは頷きつつ「(深夜も)損益分岐点を超えるならお店を開けるよう体制を整えるが、なかなかそういうわけにはいかない。セーフティネットのためにお店を開けるような慈善事業はできない」と経営者としての意見を示すも、24時間営業の是非については頑なに「必要」とします。

◆人手不足に人件費、物価高騰…24時間営業を阻む壁

東京・有楽町にある居酒屋「まんぷく食堂」は、以前は24時間営業を行っていたものの、コロナ以降は24時までの営業形態に変更。その理由に関して、代表の上村ミッシェルさんは「深夜にお酒を飲む人がとにかく少なくなった。遅くても終電で帰る人が多く、24時にはお客さんは引いてしまう。深夜に営業してもお客さんがいない」と厳しい現実を吐露。

さらには、昨今の物価高も大きく影響しているとし、「人件費も上がり、全体的に仕入れ値も上がってきていて、その割に客足が戻っていない。でも、今は価格を上げるのは難しいところ。お客さんが入って街に活気がないと、どんより暗い感じになってしまうので、ぜひ街に戻ってきてもらいたい」と夜の街に人が戻ることを期待します。

24時間営業を阻む要因についてまとめると、まず挙がるのは「慢性的な人手不足」。現状、約8割の企業が人手不足に悩んでいるということです。それに加えて、「人件費の高騰」も。東京の最低賃金はここ5年で87円上がり、2023年は1,072円となっています。さらには「光熱費」も高騰しており、今回取材した「まんぷく食堂」によると、電気代は2年前の約1.5倍に。一方で、価格転嫁できているかといえば、それもなかなか難しい状況です。

池田さんは改めて「価格の弾力性」について言及。状況に応じて価格を柔軟に変化できる社会作りを訴え、「この物価高のムードのなか、消費者もだいぶ理解が進んだのではないか。厳しい実情を連日テレビなどでも値上げの話をしているので、だいぶ理解されるようになってきた」とその兆しがあることを示唆。

ただ、「まんぷく食堂」の上村さんが話していたように、夜の街に人が戻ってきていないのも大きな問題です。事実、コロナ前の2019年1月と2023年1月の午後11時台の渋谷と新宿の流動人口を比較してみると、繁華街でも明らかに少なくなっており、以前あった賑わいが失われていることがわかります。

番組SNSには「なぜ無理に24時間営業に"戻そう”とするのか。現状に合った新しい産業や業務形態を模索するべき」といった声が。すると、堀からは「例えば、若者が(深夜に)行く場所がないのであれば、ターゲットを明確にした業態を起こすとか、海外からのインバウンド客が夜に遊べる場所を別の形態を作るなど、そうした議論が足踏み状態になっているんじゃないか」との意見も。

なお、海外の状況を見ると、ドイツは「閉店法」という法律があり、小売店の深夜営業や休日営業は法律で規制されています。理由は労働者や小規模小売店を保護するため。フランスでも同様の規制があり、夜間労働するには労働協約を結ぶ必要があります。ただ、両国とも規制緩和は進んでおり、24時間営業を実施する店も増加。しかし、日本と比較すると深夜や休日に運営している店はまだまだ圧倒的に少ないそうです。

◆日本の24時間営業の未来…今後も残していくべきか?

今回の議論を踏まえ、日本の24時間営業はどうあるべきか。荘口さんは、深夜営業は「日本のおもてなし文化」だとした上で、「必要がないから、需要、損益分岐点などの理由でなくしてしまうのはもったいない」と嘆きます。そして、今後も継続していくためにもITやAIの運用、さらには値上げも辞さず「24時間営業は残していくべき」と主張。

池田さんは、無理やり24時間営業を行う必要はなく、従来の意見同様「開ける以上は、価格戦略を柔軟にしていくことが求められる」と指摘。そして、社会的には深夜の割増料金についても容認する風潮ができつつあるとし、「その方向で改革が進んでいくことが望ましい」と述べます。

長内さんは「やはり深夜も営業しているお店があるのは安心感に繋がる。少数かもしれないが利用したい人もいる」と24時間営業の必要性を改めて語りつつ、存続するためには割増料金の設定。さらには利用者もそれを理解することが重要と言います。

さまざまな意見を聞き、堀は「夜に働いている人や(深夜に)消費したいマインドがある人たちもいるので、その人たちに還元する意味でも(24時間営業を)"公営”にしたらどうか」と異なる視点からの提案を発表。「公共事業として夜の経済を支える産業を作り、そこで働く人の賃金も補償し、議会でKPI(重要業績評価指標)も作る。それが産業政策やデジタル政策、セーフティネットの観点などあらゆる政策が集中する場になるのでは」とその可能性を語ります。

そして、田中は深夜料金、すなわち昼間に比べ価格が上がることは仕方ないとしつつも、人手不足などによる24時間営業の大変さをもう少し利用者に認知させるべく、飲食店側も苦労を見せるべきと提案。飲食店を手掛ける長内さんは「(飲食店の苦労を)わかってほしい!」と視聴者に訴えていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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