【神谷政幸議員_参議院厚労委員会質問】「集中率だけの評価で薬局経営できなくなれば医薬品提供体制に影響」

【2023.11.09配信】11月9日、参議院厚生労働委員会で、神谷政幸議員(自民党)が質問に立ち、薬剤師や薬局、製薬産業に関連した政策について質問した。財政審財政制度分科会で処方箋の集中率が高い薬局の調剤基本料1を引き下げるような意見が出たことにも触れ、医療資源の少ない地域では集中率が高くなることがあることなどを指摘した上で、「集中率だけの評価で薬局経営できなくなれば医薬品提供体制に大きな影響が出る」と述べた。

神谷氏「全国医療情報プラットフォームの創設、今後の新たな感染症発生時に必要な情報を迅速、確実に取得する仕組みとして有用」/武見大臣「匿名化した発生届等の情報をレセプト情報等と連結・分析をして第三者提供を可能とする仕組みを構築することで感染症の研究等の促進」

神谷氏:
「まずは武見厚労大臣にお伺いいたします。大臣は前回の厚生労働委員会において、まず取り組むべき課題と前置きをした上で、感染症対策を一番最初に取り上げ、続いて医療DXの推進について触れておられます。私は全国医療情報プラットフォームを創設することは、今後の新たな感染症発生時に必要な情報を迅速、確実に取得する仕組みとして有用と考えています。そこで、今後どのような思いを持って感染症対策も含めた医療DXの推進に取り組んでいかれるのか、大臣の考えをお聞かせください」

武見厚労大臣:
「委員ご指摘の通りですね、やはりコロナ禍において我が国における、まさにデジタル敗戦と呼ばれるような状況が現実に露呈をしてしまいました。これはわれわれ、非常に深く反省すべきであって、今まさにその課題をしっかりと解決するために医療DXというものを戦略的に進めることが最も重要な課題になってきているという、まず認識があります。そのために医療DXについては、医療分野で、デジタルトランスフォーメーションを通じて切れ目なく質の高い医療を効率的に受けることが可能となるなど、我が国の医療の将来を大きく切り開いていきます。今年6月に工程表を策定を致しまして全国医療情報プラットフォームの構築を進めることとしております。次の感染症危機に向けたDXの推進の取り組みとして具体的には、まず医療機関において感染症が発生した際に届け出る発生届の情報を入力するシステムの活用を推進してまいります。それから匿名化した発生届等の情報をレセプト情報等と連結・分析をして第三者提供を可能とする仕組みを構築することで、感染症の研究等の促進を図ってまいります。こうしたことを通じて、具体的にこうした医療DXというものを着実に進めていきたいと考えております」

神谷氏「調剤録の標準化にも取り組みを」

神谷氏:
「ぜひ着実に進めていただきたいと思います。またその工程表の中には電子カルテの標準化が組み込まれています。それとともにぜひ調剤録の標準化にも取り組んでいただきたいと思います。 感染症流行時に薬局は治療薬の患者宅への配送や、服薬指導、無料検査事業等で、一定の役割を果たしました。それぞれの情報が共有化できることは、今後の感染症対策に有効と考えます。調剤録の標準化も含めて医療提供全体の中でも取りこぼさない切れ目ない医療技術の推進を期待をしております。
続いて本年より運用が開始されている電子処方箋の普及促進と、将来的な活用方法について伺います。 直近の調査ではオンライン確認システム導入施設のうち稼働している施設割合は約4%と聞いています。普及の進行が遅いとも言える状況ですが、実際に運用している現場の反応は好評であると感じています。モデル事業地域を訪ねたところ、保険薬局から提供される調剤情報は処方医とは異なる視点での患者の情報背景が得られること、また何よりも薬学的知見に基づいた薬物療法の評価を、次の診療の前に事前に確認できることが処方の際に非常に有効であり、医療機関から“大変良い”という声がありました。それらを踏まえて今後どのように普及促進を図っていくのか、また電子処方箋の将来的な活用方法を厚生労働省に伺います」

城医薬局長:
「本年1月から運用を開始しております電子処方箋でございますが、直近の報告であります10月29日の時点で8151施設が運用開始しているところでございます。現在私どもも医療機関・薬局における電子処方箋の導入に向けて普及拡大に努めているところでございまして、先行して実施しております施設の取り組みでありますとか、各種事例、成功事例の発信、それから国民向けの周知の強化、そして公的病院を中心とした導入推進の強化、こういったことに取り組んでいるところでございます。さらなる今後の機能開発でございますが、例えばリフィル処方箋でありますとか、マイナンバーカードを活用した電子署名、そして調剤済み処方箋の預かりサービスといった機能の実装や、院内処方への拡充の検討に取り組んでいるところでございます。また今後は医療DXの一環と致しまして薬局起点のトレーシングレポート、服薬情報提供書等についても検討をしてまいりたいと考えております。引き続き電子処方箋のの普及拡大に努めるとともに、新たな機能の実装等による利便性の向上に取り組んでまいりたいと考えております」

電子処方箋の展望、神谷氏「退院時処方の共有やトレーシングレポートでの活用は薬物治療の質と業務効率の向上にも」

神谷氏:
「先ほども院内処方の話がありましたが、退院時処方の共有やトレーシングレポートでの活用は薬物治療の質と業務効率の向上、また副作用対策でも非常に有効だと考えますのでぜひこちらも進めていただきたいと思います。
次に医療DXによる創薬のための医療情報等の二次利活用について伺います。
岸田総理大臣の今臨時国会での演説では新しい認知症薬の開発に触れており、資源に乏しい日本において創薬という知識集約型産業は重要な分野であると考えます。
しかし薬価の問題や研究開発を取り巻く環境の変化もあり立ち遅れているのが現状であり、今後の医療DXはその対策の一つとなり中でも医療情報等の二次利活用の円滑化については研究開発側からも望む声があります。厚生労働省としては今後どのように進めていくのかを考えをうかがいます」

内山医薬産業振興・医療情報審議官:
「医療DXの推進にあたって総理を本部長とする医療DX推進本部において本年6月に工程表を作成するとともに国民の皆様や医療機関等の皆様へ分かりやすいようDXのメリットをお示ししているところでございます。その中では医療DXの取り組みにより医療機関間で共有される電子カルテの情報等を本人が特定されない様な措置を講じた上で二次利用を行うことにより、例えばこれまで治療薬や治療法がなかった疾病に対して、革新的医薬品や新たな治療法の研究開発が促進される、民間のヘルスケア産業の振興や行政の保健医療政策にも反映され次の感染症危機への対応力強化につながることなどが期待されるものと考えております。
医療情報の二次利用についてはNDBと公的データベース、次世代法に基づくデータベースとの連結解析や死亡情報との連結を順次進めていくこととしておりますけれども、加えてデータの標準化や信頼性の確保、データの連結方法、個人情報保護法などを含めた法制上ありえる課題、そして情報連携の基盤の構築等の論点について、この秋に設置した医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ等で検討を進めてまいりたいというふうに考えてございます」

経済対策、内山審議官「咳止め等の薬の増産要請に応じた企業に関して、さらなる増産に向けた投資のための支援を盛り込み」

神谷氏:
「ワーキンググループで検討しているということでありますので、しっかりと前向きに議論を進めていただきたいと思います。今後、治療の個別化が進んでいく中で各種データベースと連携することは研究と開発、いずれにおいても意義があると考えます。2年後の個人情報保護法の改正というタイミングもありますので、ぜひここは武見大臣に力強く進めていただけますようエールを送らせていただきます。

続いて医薬品の安定供給について伺います。今般の医薬品供給問題はさまざまな課題を浮き彫りにしました。医薬品産業の構造上の問題、薬価のあり方、また需給バランスが崩れた際に、どう解決していくのかなど多岐にわたり、いずれも根深い問題があると承知をしております。
しかしながら現実問題として、いっこうに回復しない現状に、現場は疲弊しきっています。
特にインフルエンザが流行している中において去痰薬や咳止めなどが入荷しない状況に対して、薬局では日々、患者さまの理解を得て、処方医と処方内容について調整をするための連絡をとり、医薬品卸に供給状況を確認することが毎日、毎日続いています。感染症シーズンである冬を目前に、一刻の猶予もない状況に対して、大臣所信にある“総合的な対策により安定供給を図る”とはどのようなことか具体的に教えてください」

内山審議官;
「現下の感染症等の拡大により需要が増加しています咳止めの薬、それから痰を切る薬などにつきましては、主要なメーカーに対して他の医薬品の生産ラインからの緊急融通やメーカー在庫の放出など、供給増加に向けたあらゆる手段による対応を要請したところでございます。その結果、これらの社による年内の供給量は9月末の時点よりもさらに1割以上増える見通しとなってございます。
さらに一昨日、これらの感染症の対症療法薬を製造する企業に対しまして、改めて厚生労働大臣から、直接更なる供給増加について呼びかけたところでございます。また今般の経済対策におきましては、医薬品の安定供給の確保に向けて、インフルエンザ等の感染症の拡大に伴って供給不足が生じている咳止め等の薬の増産要請に応じていただいた企業に関しまして、さらなる増産に向けた投資を行っていただくための支援を盛り込みまして、補正予算においても所要の措置を講ずることとしてございます。また後発医薬品産業については、少量多品目生産といった構造的な課題があるという風に考えてございまして、こうした中で非効率な製造が行われているという課題があると考えてございます。このため後発品医薬品のメーカーの法違反を契機とした供給量の低下、それから感染症の拡大等による需要の増加もありまして、医薬品の供給不足の事態が生じているというふうに認識をしてございます。こうした後発品の産業構造上の課題の解決につきましては、厚労省の検討会におきまして品質の確保された後発品を安定供給ができる企業が市場で選ばれるような仕組みの検討など、有識者のご意見をうかがいながら議論を行っているところでございまして、こうした取り組みを今後着実に進めてまいりたいというふうに考えてございます」

神谷氏「今回の医薬品供給問題で一番に考えなければならないのは、薬をもらえないことによる患者さんの不利益」

神谷氏:
「投資をするための支援をするということでありますが、生産側は人手の確保や設備対応など、増産体制の整備に大変な苦労しています。政府としてもしっかりと支援をお願いするとともに、今後の対応が後手に回らないように取り組みをお願いしたいと思います。

また今回の医薬品供給問題で一番に考えなければならないのは、薬をもらえないことによる患者さんの不利益であります。 すでに3年以上続いている現下の状況は非常事態であり、その影響がすでにさまざまな現場で出ています。
ある薬局は、土日も営業しているところ、患者さんが来て“もうこれで薬局に来るのは5軒目なんだ”という話をしていたそうです。しかもその内容は、後発薬のドライシロップは在庫がなかったが、先発品であれば在庫があって渡せるはずが処方元への確認が取れずに薬を渡せなくて大変もどかしい思いをしたという話を聞きました。
例えば後発品が処方箋に記載されている場合であっても処方箋を応需した薬局の備蓄状況に応じて同一成分の後発品から先発品への変更を可能にするなどの取り扱いを検討することも一つの方法であると考えられるのではないでしょうか。非常事態下での現場からの切なる声としてご検討お願いしたいと思います」

一般用医薬品の濫用対策、城医薬局長「学校薬剤師等の協力による啓発活動の実施を検討」

神谷氏:
「ここで一般用医薬品のオーバードーズ対策について伺います。昨今、薬物乱用で大きな問題になっているのが 若年層の一般用医薬品のオーバードーズです。特にコロナ禍で急増したことを受けて背景には社会的孤立があると言われています。そのため濫用が疑われる場合は、地域のNPOなどへの適切なサポートにつないでいくことが必要であり、販売店のゲートキーパーの役割が必要不可欠と考えます。学校薬剤師などがこれまで薬物乱用に取り組んできたということもありますが、その必要性と今後のオーバードーズ対策について伺います」

城医薬局長:
「近年、青少年による一般用医薬品の過剰摂取の問題が顕在化しておりまして、喫緊の課題となっていると認識をしております。そのため厚生労働省におきましては濫用等のおそれのある医薬品の販売時に、購入しようとする方が若年者である場合には、氏名や年齢を確認することを義務としたほか、薬と健康のキャンペーンや政府広報など様々な機会を通じて国民に対する医薬品適正使用の周知、また乱用防止に関するポスターを作成し一般用医薬品を販売する薬局、店舗での購入者の方への啓発を促す等、対策を講じてきたことでございます。
ご指摘のように学校薬剤師が青少年に対して過剰摂取の危険性の啓発を行うことが非常に重要というふうに私どもも考えてございます。ですのでさらなる取り組みといたしまして、学校薬剤師等の協力を得まして青少年に対する乱用防止の啓発活動の実施等を行うことを検討しているところでございます。引き続き関係機関とも連携しつつ一般用医薬品の濫用対策を実施して参りたいと考えております」

神谷氏「政府の方針である賃上げに対応していくには診療報酬・調剤報酬で対応するべき」

神谷氏:
「学校薬剤師は長年、薬物乱用防止教育に関わってきました。ぜひとも実績も踏まえて、有効に活用できるように政府としての支援をお願いいたします。

最後に賃金上昇と人材確保に対応した次期診療報酬・調剤報酬改定について伺います。
先ほど述べた医薬品供給問題は薬局の運営にも影響を与えています。頻繁に供給停止、出荷調整がかかるため、同じ成分で違う会社の後発医薬品がデッドストックとして数多く発生することで廃棄や動かない資産となっています。重ねて医薬品入荷の見通しが立たないため、通常よりも多めの在庫を確保することで支払いだけが増えてキャッシュフローが悪化している現状があります。そして在庫が資金繰りに与える影響が非常に大きく、保険薬局で医薬品等が費用で占める割合は平均で63.6%であります。にもかかわらず毎年の薬価改定によってその資産は1薬局あたり毎年平均50万円目減りしているという状況です。そこに電気料金、ガス、水道代の高騰の影響で、毎月かかる固定費が上がっている、現金が出ている状況であります。しかしながら調剤報酬は公定価格であり、価格転嫁はできない、そのため関係団体の調査によれば現状、赤字経営の薬局の割合は40%にも及んでいると言われています。

また財政制度分科会においては処方箋集中率が高い薬局の調剤基本料1の適用範囲を見直す、はっきりと申し上げると報酬を下げるという意見が出ています。例えば地方で医療資源に乏しく、周辺には医療機関と薬局が1軒ずつしかないような環境で、人口も少ない、そういった地域では結果として処方箋集中率が高くなる。そういった現場を私はたくさん見てきました。おしなべて、そういった地域は地域住民としっかりとした信頼関係をつくっていて、そのような地域を支えている薬局は処方箋の集中率だけで評価をされて経営ができなくなるようなことがあっては、医薬品提供体制に大きな影響が出てきます。そのことも踏まえて政府の方針である賃上げに対応していくには、やはり今回の診療報酬・調剤報酬で対応するべきと考えますが、大臣よりご答弁をお願いいたします」

武見大臣:
「昨今の高水準となっております賃上げの動向を踏まえますれば、公定価格となっている医療機関、そしてまた薬局における賃上げへの対応というのは極めて重要な課題であると言うことを認識させていただいております。今年の春闘などを通じて各産業における賃上げが行われている中で、医療分野では賃上げが他の産業に追いついていかない状況にあります。またリハビリテーションなどを担う医療関係職種の賃金は、全産業平均を下回る水準で推移をしております。さらに医療分野における人材確保の状況は、有効求人倍率が全職種平均の2倍程度の水準で高止まっております。このような認識を踏まえて令和6年度診療報酬改定において、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、そして患者やそして保険料負担への影響を踏まえながら、患者が必要なサービスが受けられるように必要な対応をしっかりと行って参りたいと思っております」

神谷氏:
「しっかりと行っていく、ぜひその言葉を実行していただきたいと思います。薬局においては薬剤師はもとより事務員も含めて医薬品提供サービスにしっかり取り組んでいます。在宅をこれから進めていくにあたって、薬局から地域に出ていく、そのためには薬剤師、そして事務員等々、医薬品提供に対応していく、また薬が患者さんに飲みやすいような形で服薬に対する工夫をしていく、そういったことに取り組んでいかなければなりません。賃上げによる人材確保は先送りできない、今取り組まなければならない問題です。医薬品提供体制が崩れた地方で、本当に地域包括ケアシステムが実現ができるのか、この先に控えている超高齢社会に向けて、地域包括ケアシステムが絵に描いた餅にならないように、しっかりとした対応をお願いして私からの質問を終わらせていただきます。ありがとうございました」

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