経済効果は約7兆円? 九州でかつてない規模の「半導体バブル」が発生か

日本政府は現在、少子化対策や官公庁のDX(デジタルトランスフォーメーション)化など、いくつかの施策に力を入れています。重要施策のうちの1つとして挙げられるのが半導体。半導体は単なる産業としてだけではなく、安全保障やエネルギーの分野にも深く関わっていて、世界中で激しい競争が繰り広げられています。

その政策の影響もあって、現在、九州や北海道では相次いで半導体製造工場の建設が進んでいます。こうした工場誘致などによって、その地域にはさまざまな恩恵が期待できそうです。はたして、日本はかつての「半導体王国」を取り戻すことができるのでしょうか。


「シリコンアイランド」復活で約7兆円の経済効果が発生?

熊本県に建設中のTSMCの工場(2022年12月時点)

2021年10月、台湾の半導体大手TSMCは、「日本に半導体製造工場を建設する予定」と発表しました。半導体は、流行りの生成AIやクラウドサービスといった高度なものから、再生可能エネルギー、スマートフォン、自動車、家電など、ありとあらゆる製品に不可欠。米・中が半導体について激しい攻防を繰り広げるなど、安全保障の分野にまで関わる最重要分野の1つです。

TSMCは、ソニーグループやデンソーなど日本の大手企業と連携し、86億ドル(現在の為替レートで約1兆3000億円)を投じて熊本県の菊池郡に半導体の製造工場を建設中。半導体分野を最重要施策の1つに掲げる日本政府も同調し、最大で5000億円近い補助金を投じる予定です。すでに同工場の建設は佳境を迎えており、TSMCサイドも工場の稼働に向け人材訓練など準備を進めているもよう。2024年末には本格的な出荷をスタートする計画です。さらに、TSMCは同じく熊本に約2兆円を投じ、第二工場を建設する計画を打ち出しました。

これだけで話は終わりません。日本は、半導体そのものの生産においては世界大手に水を開けられてしまっているものの、製造装置や部品、素材といった分野では、まだまだ有力企業がズラリ。半導体用シリコンウエハ大手のSUMCOや製造装置大手の東京エレクトロン、ローム、三菱電機、荏原製作所、東京応化工業といった企業も、相次いで九州各地に半導体関連の部品や素材の生産拠点を整備に乗り出しています。

日本が半導体分野で世界の最先端だった1980年代、九州には数多くの半導体関連企業が集まりました。TSMCの工場では1700人程度が働く予定で、すでに人材訓練が進んでいるようですが、影響は同社の工場だけにとどまりません。その他の企業の拠点整備でも雇用が生まれるのはもちろん、多くの人が集まれば、建設や不動産、小売、外食、金融など、多くの分野で膨大な需要が生まれることになります。

九州フィナンシャルグループの笠原社長は、TSMC第一工場建設による経済波及効果を「10年で6兆9000億円程度」と試算。「九州にとって100年に1度のチャンス」などと発言しています。さらに、第二工場やその他の関連施設などの開発が加われば、その数倍の経済効果が生まれる可能性があるでしょう。その需要を取り込み、業容を拡大する企業が出てくるはずです。やがて九州各地で「半導体城下町」が誕生し、九州経済にはかつてない「半導体バブル」が訪れるかもしれません。かつての「シリコンアイランド」復活のシナリオが、確実に進んでいるのです。

「データセンターパーク」の実現に動く北海道

北海道幌延町のオトンルイ風力発電所

実は、北海道でも同様のバブルが起きる可能性があります。2023年3月、半導体製造を手掛けるラピダスは、北海道千歳市に半導体の量産工場を建設する計画を打ち出しました。総投資額は約5兆円。すでに、千歳市周辺では不動産開発が進められ、周辺地価が大きく上昇するなど影響が起きています。

また現在、クラウドサービスの拡大や生成AIの開発加速を背景に、データセンターの建設が加速しています。データセンターは、通信用のサーバーや関連機器を置くための建物。通信設備はもちろん、空調・冷却設備、耐震・耐火設備、大規模電力・非常用電力の供給設備、ハイレベルのセキュリティーなど、運用に不可欠な設備が備わっています。

クラウドサービス市場の世界的な拡大に加え、「生成AI(人工知能)」の普及によって、データセンターの需要は高まるばかり。政府が官公庁におけるクラウド環境「ガバメントクラウド」の整備を推し進めていることも、データセンターの需要拡大に一役買うことになりそうです。「情報通信白書」によると、日本国内のデータセンターの市場規模は2021年時点で約1兆7300億円。2025年には3兆円に迫ることが予測されています。企業のデータセンターへの投資も、2023年の約3200億円から、24年以降に5000億円を超える水準まで拡大する見込みです。

こうした状況を背景に、注目を浴びているのが北海道です。データセンターには膨大な電力を消費しますが、北海道には広大な敷地はもちろん、水力や風力といった再生可能エネルギーが整備しやすいのも特徴。また、データセンター内は大量のサーバー関連機器が置かれるため、大規模な冷却設備が不可欠ですが、北海道では外気を取り込むだけで冷却が可能なことも魅力として挙げられています。北海道サイドも「北海道データセンターパークの実現」を掲げ、関連企業の誘致に積極的に動く方針です。

大規模な工場やビル、発電設備の建設は環境破壊をともなう可能性があるので、地方自治体との交渉によっては、計画が頓挫する可能性もあるでしょう。とはいえ、政府はデータセンターが一極集中している現状を問題視しており、今後は地方への分散が確実な情勢です。すでにTSMCの第一工場建設がほぼ終わっている九州と比べると、北海道のデータセンターパーク実現にはまだ時間がかかりそうですが、バブル発生の泡がプクプクと生まれていることは間違いないでしょう。

九州にせよ北海道にせよ、さまざまな需要発生はこれからが本番。投資という観点では、現在はバブルのタネが芽吹く前段階に当たります。これから、そのタネを探し当てる作業が本格化するのではないでしょうか。

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