“麻薬密輸”で日本人女性が「死刑」に…「海外は薬物に甘い」大間違いの認識が招く“悪夢”

取り返しのつかない事態を招くかもしれない(Rattanakun / PIXTA)

麻薬密輸によってマレーシアで死刑判決を受けた日本人女性が、近く最高裁に再審請求するとの報道が、今年9月に話題となった。

「海外は日本に比べて薬物に甘い」というイメージを持っている人も少なくないかもしれないが、実際には甘いどころか、国によっては最高で死刑や無期懲役といった重い刑罰が科せられる場合があり、2010年には中国で日本人4人が、麻薬密輸の罪により死刑執行されている。また最新の死刑統計(アムネスティ・インターナショナル)によれば、2022年に世界で執行された死刑のうち、37%が薬物関連犯罪によるものだったという。

アメリカで大麻を使用すると“永久に”入国できなくなる?

死刑や無期懲役までいかずとも、「海外は薬物に甘い」というイメージが大きな落とし穴となるケースもある。もっとも意外な国のひとつが「アメリカ合衆国」だろう。

「アメリカ国内で外国人が違法薬物を使用した場合、永久に入国できなくなる可能性があります」

そう指摘するのは、アメリカの法律に詳しいタイタノ誠弁護士。

「特に大麻については、日本でも『○○州で合法になった』『国全体で規制緩和が進んでいる』といった報道を目にすることが多いかと思います。しかしアメリカには各州が定める『州法』と、その一段階上にある『連邦法』という二つの法律があり、連邦法上は依然として大麻は『違法薬物』でありながら、国(連邦政府)は『いったん取り締まりを保留する』と言っている状況です。そして州法上は、大麻を合法としている州とそうでない州があるという、非常に複雑な状態となっています」(タイタノ弁護士)

日本で報道を見聞きして「せっかく合法な州に行くのだから大麻を使ってみよう」と考える人もいるかもしれないが、そこに思わぬ“落とし穴”がある。

「たしかに、合法な州で大麻を使用しても逮捕されることはありません。しかしアメリカの出入国に関する法律(移民法など)では、連邦法上の違法薬物を使用した外国人は、原則的に生涯アメリカへの入国が禁止されてしまいます。

これは意外と知られていなくて、アメリカ人であっても、自分たちは問題なく出入国ができるので、まさか目の前の外国人が生涯アメリカに入国できなくなるかもしれないとは知らずに、悪気なく大麻をすすめてくるケースもあるので、注意が必要です」(タイタノ弁護士)

州法と連邦法に“二重”で裁かれる可能性も

もうひとつ、タイタノ弁護士が「日本人がおちいりがちな問題」と指摘するのが、大麻を所持したまま合法な州から違法な州に移動することだ。この場合、州法と連邦法に二重で裁かれる可能性があるという。

「まずは、違法な州の州法に違反したということで逮捕・勾留され、裁判にかけられます。さらに連邦法は、違法な薬物を州から州へ移動させることは『違法薬物の運搬』としているため、その罪を問われることになります。

つまり何が起きるかと言うと、まずは州で逮捕され、その刑期を終えたら今度は連邦側に移送されて、追加で刑期をつとめることになるかもしれないということです」

旅行で訪れたつもりが、思わぬ“長期滞在”となってはたまらないだろう。

万が一逮捕されたら「黙秘」を貫く

外務省「海外安全ホームページ」では、日本人が薬物関連犯罪に巻き込まれる事例として「現地でもらったお土産に違法薬物が紛れ込んでいた」「預かった荷物に忍ばせてあった」などさまざまなケースが紹介されている。万が一“えん罪”に近いようなかたちで逮捕・拘束されてしまった場合、どうすればよいのだろうか。

「アメリカの場合、とにかく黙秘を貫くことが重要です。黙秘を貫いている人は一切証言する義務を負いませんが、一度話し出すと何を聞かれても答えなければいけなくなります。『やっていない』『知らない』といった発言も、場合によっては湾曲して不利な証拠にされてしまう可能性があるため、弁護士以外には事件について何も語ってはいけません。

また、何かしらの書類に署名させられそうになることもあります。『サインすれば仮釈放されるよ』『大した書類じゃないよ』など甘い言葉をかけてきたとしても、絶対に拒否してください」(タイタノ弁護士)

弁護士に話した内容は守秘義務で守られるため、いわば唯一“釈明”ができる相手となるが、最初につく国選弁護士は多くの場合、仕事が多すぎて十分に事件に向き合ってくれない可能性もあるという。

「その場合は、大使館や親族と話をさせてくれるようお願いして、私選の弁護士に依頼をしたほうがよいです。

ただしこの時、大使館や親族にも、事件に関する内容は一切話してはいけません(私選の弁護士に依頼したい、着替えを持ってきてほしい、など事件と関係のない会話はOK)。弁護士以外の人に話したことについては、たとえ相手が大使館や親族あっても裁判で明かさなければならないこともあり、『黙秘権の行使』が続けられなくなる可能性があるので、注意が必要です」(同前)

先述のように、外務省「海外安全ホームページ」では違法薬物のほか、諸犯罪についても情報発信を行っている。うわべの情報だけをくみ取って大麻など違法薬物に手を出すのはもってのほかだが、意図しないかたちで犯罪に巻き込まれないためにも、海外に行く際にはしっかり情報収集するべきだろう。

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