国内最大級サイクルスポーツ ツール・ド・おきなわ2023 あす開幕 国内外から3200人エントリー

[TOUR DE OKINAWA]

 秋のやんばる路を駆け抜ける国内最大級のサイクルスポーツの祭典、第35回ツール・ド・おきなわが11、12の両日開催される。4年ぶりに海外チームの招待が再開された今回、国内外の約3200人がエントリー。レース17部門、サイクリング5部門など計24種目で競われる。ツール・ド・おきなわ協会と北部広域市町村圏事務組合が主催、沖縄タイムス社などが特別協力する。

体力維持 大会出場を力に Milky Way

本番に向けて気合を入れる「Milky Way」のメンバー=3日、名護市・21世紀の森公園

 安全に、楽しむ。沖縄本島南部を中心に活動するチーム「Milky Way」(ミルキーウェイ)のモットーだ。

 来年還暦を迎える高校の同学年でつくった同名の草野球チームが母体。「体力的に野球は少しきついな」と感じ始めた10年ほど前、サイクリングを楽しむチームに衣替えした。仕事で知り合った人なども誘って輪を広げ、現在は約20人が所属している。

 「毎年大会に挑むのは、それぞれのモチベーション維持に欠かせないから」と話すのは代表の与那覇一徳さん(59)=八重瀬町。本番3カ月前から本格的な練習を始め、声をかけ合いながら頑張ってきた。コロナ禍で2年続けてレース開催が見送られた時は自転車を諦めかけたメンバーもいたが、2022年の再開で再びペダルを踏み出せたそうだ。

 健康維持、完走、1秒でもタイムを更新すること-。メンバーの目標はそれぞれあるが「酒もやめられ妻は大喜び。それも含めて大会には感謝ですね」とはにかむ。

 今大会参加のチームメンバーで最年長、金城哲さん(63)=同町=は空手道場で指導する立場。体力維持に腐心していたところで誘われ、最初はママチャリで加入した。上り坂では若手に後れを取るものの、自転車は「持久力の他、瞬発力も必要で、体力維持にもってこい」とはまった。

 今回は完走を目指す他のメンバーに付いて支える立場だが「我慢できずに速く走り出しちゃうかもね」と意欲をたぎらせた。

 宜野湾市の医師、普天間朝上さん(61)の目標は100キロ完走。「皆で走るのは楽しいから」と話すが、前回走った50キロは「少し走り足りなかった」。秋のやんばる路走破へフルスロットルだ。(北部報道部・前田高敬)

高校卒業30年 絆が原動力 Nist

那覇高校卒業から30年以上、自転車を楽しむチームNistのメンバー=4日、八重瀬町具志頭・ずけむら自動車販売

 1990年の第2回ツール・ド・おきなわに出場した「那覇高校自転車競技部」の部員たちは、卒業から30年が過ぎても共にペダルを踏み続けている。かつてタイムや順位にこだわっていた長嶺竜也さん(49)は「今は気にせず、景色を楽しみたい」と自分たちのペースで大会を楽しんでいる。

 チーム名は那覇高の頭文字などを重ねた「Nist」。今回監督を務める宮城博さん(51)は、89年の第1回大会に出場した。

 当時17歳。「その頃、自転車の大会といえば瀬長島を周回してばかりだった」ため、起伏に富んだ難コースを走る機会はなかった。本番は200キロコースの半分しか走れなかったが、「自然の中を走る醍醐味(だいごみ)。やんばるの海と山を楽しめる」と、ツール・ドの魅力に取り付かれた。

 翌90年に同校の自転車同好会は部に昇格。1、2年生が入部し、沖縄本島南部の公道や県総合運動公園の競技場でペダルをこいだ。第2回大会は部員6人がエントリーした。

 卒業後、国体の県代表に選ばれる選手もいた。集まるたびに自転車の話で盛り上がった元部員たちは2002年、「Nist」を結成。再びツール・ドに挑み始めた。

 仲本晋理さん(48)は「大人になってがむしゃらに走るのもいい」。瑞慶村光さん(49)は「無の境地。NO BIKE NO LIFE(人生には自転車が必要だ)」と言葉を継ぐ。

 県外に出たり、仕事が忙しくなったりと自転車から遠のくこともあったが、チームは活動を続けてきた。

 新垣守泰さん(49)は約7年前、25年のブランクを経て復帰した。転向したモトクロスで大けがを負った後に戻った自転車競技。「1人じゃなくて、集団で走る高揚感が何とも言えない」。疾走感が伴う懐かしさに、込み上げてくるものがあったという。

 宮城さんは「高校の時、皆で共有した経験と信頼できる仲間がいるから戻って来られる」。固い絆が原動力となる。(社会部・吉田伸)

事故やけが 迅速に対応 医療救護本部 GPS活用

2019年の医療救護チーム。万全な体制で選手の緊急事態に対処する(出口宝さん提供)

 大会では事故やけがが発生しやすい自転車競技で適切な救護体制を整えようと、2017年から「ツール・ド・おきなわモデル(TDOモデル)」という医療救護体制を採用している。

 モデルでは集団落車や同時多発的な事故が発生し得ることを考慮し、災害医療の考え方を取り入れた。医療本部を立ち上げ、事故発生などの情報を掌握。現場を巡回している救護チームに的確な指示を出す。

 本部は全体をコントロールする医師2人、消防署職員2人、事務調整員4人の計8人で構成する。コース周辺には、救急医が現場で治療できるドクターカー5台と救護車5台を準備。本部は各車両の位置を衛星利用測位システム(GPS)で把握し、事故やけがの発生に合わせて迅速に現場へ急行するよう指示する仕組みとなっている。

 北部地域は中南部地域と比べても医療体制が弱い。そのため北部地区医師会だけでなく、中南部の医療機関も医療チームに入っていることが特徴だ。大会では北部地区の医療負担を最小限にしながら、迅速な救護体制を目指す。

 医療救護本部長で北部地区医師会理事の出口宝(でぐちしげる)さんは「まずは大会側や選手で安全管理をしっかりしてもらい、事故を起こさないことが大事。事故が発生した場合は、最良の医療救護を提供する」と強調した。(北部報道部・松田駿太)

地域の人たちに「恩返し」 名護高ラグビー部 運営ボランティア

大会運営ボランティアとして、やる気をみなぎらせる名護高校ラグビー部=4日、名護市・21世紀の森公園ラグビー場

 ツール・ド・おきなわの大会運営ボランティアに、名護高校ラグビー部50人が参加する。屋部樹志主将は「体力自慢のフィフティーンが会場設営、机やいすの設置、片付けに素早く取り組む」と意気込む。同部は11月の全国高校大会県予選で2年連続21度目の優勝を果たし、聖地・花園への出場を決めた。屋部主将は「地域の人たちの支援で優勝できた。その恩返しをしたい」とやる気をみなぎらせた。

 身長176センチ、体重98キロの比嘉弥月さんは「流れるような高速の展開プレーでテント設営する」と笑顔。昨年大会でもボランティアを経験済みで、「ツール・ドの食事がおいしかった。今年も楽しみ」と声を弾ませた。

パーランクーをたたき、選手にエールを送る沿道の住民=2022年11月13日、東村有銘

 初参加の我那覇藍貴さんは「気持ちよく競技できるようにお手伝いする」。マネージャーの国吉れみさんと高良愛さんは「ボランティアの合間に、ゴールスプリントを観戦したい」と話した。

 田仲祐矢監督(35)は「北部地域最大のスポーツイベント。日頃の感謝を込め、ホスピタリティーのある対応で大会を盛り上げたい」と力を込めた。(北部報道部・下地広也)

斬新さに重点 選手の熱量表現 當山さん、大会ポスター最優秀賞

今大会のポスターを描いた當山令惟さん=2日、うるま市・具志川職業能力開発校

 【うるま】うるま市にある具志川職業能力開発校メディア・アート科2年の當山令惟(れい)さん(23)の作品が、第35回ツール・ド・おきなわのポスターに選ばれた。

 「沖縄の独自性」や「斬新さ」といった切り口の作品を募集とあり、當山さんは当初、沖縄の風景を盛り込もうと思ったという。だが「みんなも同じことを考えるだろう」と、斬新さに重点を置いてみた。あえて余白を多くし、沖縄の暑さと選手の熱量を伝えようと、疾走するトップ選手を赤色と黄色だけで描いた。

 これまでもいろいろなコンテストに応募したが、最優秀賞を受賞したのはこれが初めて。「こんな大きな大会のポスターに選ばれて光栄」と喜んだ。

 参加者に対しては「一般の皆さんはやんばるの大自然を楽しみながら、トップ選手は優勝を目指してそれぞれ頑張ってほしい」とエールを送った。(中部報道部・伊集竜太郎)

自然の大切さ感じて 大会会長 渡具知武豊名護市長

ツール・ド・おきなわの魅力を語る大会会長の渡具知武豊名護市長=2日、名護市役所

 ツール・ド・おきなわ大会会長の渡具知武豊名護市長に、大会の魅力やコロナ禍前と同様の規模となる今大会の特徴を聞いた。

 -今大会の意義は。

 「4年ぶりに海外チームを招き、計9カ国以上から参加がある。これまでコロナ禍で制限があったが、大会の意義を継続するためにバーチャルでも競技できる仕組みづくりなどを行った。海外チームの参加再開で、日本の選手にも相当な刺激になるはずだ」

朝焼けの海を背に、力強く坂道を上る選手たち=2022年11月13日、国頭村楚洲

 -今大会の特徴を。

 「2017年から北部地区医師会病院を中心に、選手が負傷した場合、確立されたマニュアルに基づいて対処してきた。その経験は、東京五輪やパラリンピックの運営にも生かされた。今回も警察や医療チームなどと連携し、徹底した安全管理体制で臨む。市民もやんばる路を爽快に走ることで、自然の大切さを改めて感じてほしい」

 -選手へメッセージを。

 「国内のシーズン最後の大会となり、相当意気込んでいる。十分コンディションを整えて最高の実力を発揮し、市民にサイクルスポーツの素晴らしさを伝えてほしい」(聞き手=北部報道部・玉城日向子)

ツール・ド・おきなわ2023の日程

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