岸田首相の“形だけ”な皇位継承策…元最高裁判事も「このままでは皇室がなくなる」と緊急警鐘

秋にはめずらしく、東京の都心が24.9度を記録した11月2日、天皇陛下と雅子さまが主催される秋の園遊会が開かれた。園遊会では、両陛下は招待者と交流される前に、首相など三権の長から挨拶を受ける慣例がある。今回も、岸田文雄首相夫妻を先頭に、両陛下への挨拶が行われた。

「じつは、丘を下りられる直前に、雅子さまのご表情に、ほんの一瞬厳しさが滲んだようにお見受けしました。やはり、岸田総理が自民党に設置した“新機関”に対して、失望感を抱かれていらっしゃるのでしょうか……」(宮内庁関係者)

10月下旬、自民党は安定的な皇位継承策などを検討するため、党内に“総裁直轄の新組織”を立ち上げる方針を打ち出した。

「この“総裁直轄の新組織”は、自民党則79条に定められた特別な機関を指します。『こども・若者』輝く未来創造本部などがこの機関にあたり、時の自民党総裁が、重点的に力を入れたい政策立案を進めるために立ち上げることができます。

自民党内には、昨年1月に『皇室問題等についての懇談会』が麻生太郎副総裁を座長として立ち上がっていましたが、初会合以降は一度も会合は開かれず、議論は進まない“休眠状態”でした。

臨時国会が開会したタイミングに、岸田首相が“新組織”の立ち上げを表明したことは、まるで皇室典範の改正に向けて熱意を燃やしているように映ります。しかし実際は、首相の姿勢を評価しない声のほうが党内では多いのです。“新組織”の事務局の陣容もこれから固めていくようですし、何よりも“いつまでに何を決める”といった具体的なスケジュールが決まっていません。

また、『懇談会』の座長だった麻生氏がトップに就きますが、麻生氏を巡っては“次期衆院選へ出馬せず引退する”という見方が広がっています。近く引退するかもしれない人物をトップに就けたところに、“岸田首相の本気度はきわめて疑わしい”という声は少なくないのです」(政治部記者)

■“保守派”からの支持を固める狙いが

まるで“欺瞞”のような岸田首相の姿勢だが、なぜ今国会で皇位継承問題についての議論を加速すると打ち出したのか。現在、自民党が議論を進める“前提”としているのが、2021年に政府の有識者会議が取りまとめ、国会に対して提出された報告書だ。

前出の宮内庁関係者は、

「報告書では、戦後に皇室を離脱した旧宮家に連なる男系男子を養子に迎える案、女性皇族が結婚後も身分を保持できる“女性宮家の創設”という案が示され、国会で議論されるはずでした。しかし岸田政権の旧統一教会問題や物価高対策への迷走ぶりにより、岸田総理や自民党に対して世論の風向きは厳しく、とても着手できる状況ではなかったのです。

皇室が直面している課題に対して、岸田総理が関心を持っているという話は聞いたことがありません。最近になって所信表明演説や委員会での答弁で発言しているのは、皇室の問題に関心が強い党内保守派の政治家と有権者へのアピールにすぎないと思います。岸田総理による“皇室利用”と批判されても仕方がないでしょう」

政府と自民党が前提としている有識者会議の報告書の内容で議論が進むことに警鐘を鳴らすのは、元最高裁判事の園部逸夫さんだ。園部さんは、2005年に“女性・女系天皇を認める”という提言を行った、小泉政権時に設置された政府有識者会議の座長代理も務めている。

「このままでは皇室がなくなります」と語り、こう続ける。

「現在の制度では、天皇陛下、秋篠宮さまに続く皇位継承資格者は、悠仁さまお一人です。しかし将来、悠仁さまが結婚されても、男子がお生まれになるかはわかりません。皇統を維持するためには、女性・女系天皇を認めることを否定できないのに、政治家は誰も言い出さないのです。

また女性皇族は結婚によって皇室を離れなくてはならず、皇位や宮家当主も女系による継承が認められない制度のままでは、皇族数の減少に歯止めがかかりません。

本来、悠仁さまご誕生後も、皇室の安定のために何が必要なのか、議論を止めるべきではありませんでした。歴代内閣や国会がその責任を放棄してきたために、皇室の危機は深まり続けています」

そして雅子さまにとっては、岸田政権の怠慢によって、愛子さまの自主的な意思に基づく将来を決められない状況が長引くことにほかならない。

「岸田総理は、いわば“形だけ”の新組織を立ち上げ、皇室が直面している問題を先延ばしにしようとしています。

今後、愛子さまが結婚を決められ、皇籍を離脱することになったときに、皇室の存続が危機に瀕している状況に変化がなければ、愛子さまのご選択に対して政治家から異議を唱える動きが生まれないとは言い切れません。

そうなったときも雅子さまは、愛子さまのご意思に寄り添い、全力で守られようとお気持ちを固めていらっしゃるのでしょう」(前出・宮内庁関係者)

晴れやかな園遊会で、一瞬見せられたご表情には、“愛子を守る”という雅子さまの決断が秘められていたからだったのか。

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