連載コラム【MLBマニアへの道】第9回:エンゼルスはポストシーズンを目指すチームになれるのか 激戦区ア・リーグ西地区で勝ち抜くには再建が必要か

写真:トラウトの去就もエンゼルスの方針次第

このオフシーズン、最も注目されているのは言うまでもなく大谷翔平の去就だ。MLBではアリゾナ州スコッツデールで各球団首脳陣や代理人らが一堂に会するGMミーティングが行われたが、そこでも話題の中心は大谷だった。

多くのメディアが大谷の移籍先を予想する中、エンゼルス残留の可能性もまだ消えてはいない。しかし、エンゼルスが大谷と再契約するとしたらそれは来季以降もポストシーズンを狙う、いわゆる「コンテンダー」として戦う意思表示になる。果たしてエンゼルスがコンテンダーとしてチーム作りするのは現実的なのだろうか?

エンゼルスは2016年から8年連続で勝率5割を下回っている。最後にポストシーズンに進出したのは2014年で、9年連続でポストシーズン進出を逃しているのはタイガースとともにMLB最長だ。

MLBではほとんどの球団が再建期とコンテンド期(ポストシーズン進出を目指す期間)を繰り返す。再建期に集めた若手有望選手が主力となったタイミングで、FA選手獲得やトレード補強でロースターを底上げすることでコンテンド期に入り、数年後には主力の高齢化やFA移籍に伴いまた再建期に入るという流れだ。

この典型的なサイクルを維持するためには、チーム作りに対するビジョンとスカウティング力が必要だ。例えば今季101勝でア・リーグ東地区優勝を果たしたオリオールズは、直近数年間の低迷期にドラフトで獲得した選手が主力となっている。11月9日(日本時間10日)に発表されたシルバースラッガー賞を受賞したアドリー・ラッチマンとガナー・ヘンダーソンは、地区最下位に低迷していた2019年のドラフト1巡目と2巡目で獲得した選手だ。

レンジャーズは大型契約でのFA補強を徹底することでワールドシリーズ制覇にたどり着いたが、これは稀な成功例だ。実際エンゼルスもここまでアルバート・プホルスやアンソニー・レンドンといった大型補強を行ってきたが、その成果は出ていない。やはり30歳前後のFA選手に大金を投じるやり方には大きなリスクがあるのだ。

エンゼルスの所属するア・リーグ西地区は激戦区であり、2年連続でこの地区からワールドシリーズ優勝球団が出ている。レンジャーズやアストロズとレギュラーシーズンで互角の戦いを演じたマリナーズも戦力が充実してきている。となると、大谷がいても勝てなかったエンゼルスがこのオフに大きな補強をしても、すぐにこの3強に食い込むのは難しいだろう。

エンゼルスには今土台となる若手が芽を出しつつある。捕手のローガン・オホッピー(23)や遊撃手のザック・ネト(22)、一塁手のノーラン・シャニュエル(21)、外野手のミッキー・モニアック(25)らだ。同地区の3強が健在であるうちは、これらの若手を育てる再建に徹した方がいいようにも見える。当然そうなればトラウトの去就といった問題に発展するが、それを避けていては本格的な再建は不可能だ。

エンゼルスは大谷にクオリファイング・オファー(QO)を提示した。大谷がこれを拒否するのは既定路線だが、QOを拒否したFA選手が他球団と契約した場合、元所属球団が補償のドラフト指名権を得られる。つまり大谷の移籍はエンゼルスにとって悪いことばかりではない。これを機にチームを作り変えれば、数年後に地区優勝争いをできるチームはできるはずだ。問題はそこに向けた明確なビジョンがあるか。今オフのエンゼルスがそういった未来を見据えた動きを見せるのか、大谷の去就以外の部分にも注目していきたい。

文=Felix

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