57年前の“証拠”が法廷に…凶器に不可解な点と主張 弁護側と検察側の攻守が逆転? 第2回公判【袴田事件再審ドキュメント②】

57年前、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害された事件で、死刑が確定している袴田巖さん(87)の再審=やり直し裁判の第2回公判が11月10日、静岡地方裁判所で行われました。弁護側と検察側の攻守が逆転したともいえる今回の裁判。弁護側が捜査機関による“証拠のねつ造”にどこまで言及するかが注目されました。

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<袴田巖さんの姉・ひで子さん(90)>
「きょうは弁護士の反対尋問(反論)っていうか、ちょっと面白いかなと思っているんです。まあ楽しみですね」

10日朝、姉のひで子さん(90)が語った一言に、やり直し裁判をめぐる状況が詰まっていました。

<伊豆川洋輔記者>
「第2回公判は、弁護側が主張する『袴田さんとは全く異なる犯人像』を裏付ける証拠調べが行われる予定で、捜査機関による“証拠のねつ造”にどこまで言及するのかが注目されます」

いわゆる袴田事件は、今から57年前、旧清水市でみそ製造会社の一家4人が殺害されたもので、逮捕された袴田さんの死刑が確定。

しかし、東京高裁は2023年3月、検察側の重要証拠5点の衣類について「捜査機関によってねつ造された可能性が高い」などとして再審を認めました。

48年に及ぶ収監で精神的に不安定な状態が続く袴田巌さんは出廷が免除され、被告人不在という異例の展開で10日も裁判は進みました。

10日に行われたのは弁護側の証拠調べ。「袴田さんを犯人」とする検察に対して、弁護側は「事件は複数人による犯行で袴田さんとはまったく異なる犯人像」と反論しました。

弁護側は、捜査機関がさまざまな証拠を捏造したえん罪事件とも主張していて、10日は、捜査機関による“証拠のねつ造”について、どこまで具体的に言及するのかが注目されました。

「40か所も刺せば犯人の手には傷があったはず」

その一つが凶器とされてきた「くり小刀」です。これまでは、木工細工用の小刀で一家4人を殺害したとされてきました。

弁護側は、
▼くり小刀の形状から遺体を合わせて40か所も刺せば、刃と柄の間につばがないものであれば、血で滑って犯人の手には傷があったはずだ。

▼くり小刀は、職人用の工具であり、現場からは他にも小刀が見つかっていることから、もともと自宅にあったものではないか。

このようなことに加え「被害者の自宅で日常的に使われていた包丁が発見されておらず、真犯人がこの包丁を使って4人を殺害し、持ち去ったと考えるのが自然」と主張しました。

また、殺害された4人の傷の深さなどについても主張しました。

▼40か所の傷には、複数の深さがあり、そのうち1人の左胸を刺された傷は「くり小刀」では、長さが足りない

▼別の1人はろっ骨が折れているほどの傷があるものの、傷の長さや刺した時の圧力が「くり小刀」では足りない。

さらに、袴田さんが犯行時に羽織い、現場に脱ぎ捨てたとされてきた従業員用の雨合羽。検察は、このポケットに「くり小刀の鞘」が入っていた事で「犯人はみそ工場の関係者、そして、その中で、犯行に及ぶことができたのは袴田さん」と主張していますが、弁護側は10日の裁判で「ポケットに鞘を入れたのは警察。警察による証拠の捏造」とまで言及しました。

<袴田事件弁護団 小川秀世弁護士>
「弁護人としては雨合羽にしろ、金袋にしろ、はっきりと(捜査機関の)ねつ造と考えている」

弁護側は、10日の審理の中で「ねつ造」もしくは、ねつ造とまで言えなくても“袴田さんを有罪にするために捜査側が利用した証拠”少なくとも3点以上を指摘しました。

<袴田巖さんの姉・ひで子さん>
「私、ビックリしちゃった。捜査資料なんてたくさんあるでしょ?(弁護団は)それから探し出して、それを読み込んでくれたことに感謝感激。それにとても面白かった。きょうは居眠りはしませんでした」

やり直し裁判では、弁護側が警察、検察の捜査を攻め立て、57年前の裁判とは攻守が逆転したともいえる状況です。

10日の裁判で一番、法廷が息を呑んだ場面は、57年前の事件現場にあった証拠品が実際に並んだ瞬間です。「くり小刀」や「雨合羽」「ポケットに入っていた鞘」などが57年の時を経て静岡地裁の法廷に示されました。

弁護側は審理の中で、これらの3点などの証拠について「ねつ造」もしくはねつ造とまで言えなくても、“袴田さんを有罪にするために捜査側が利用した証拠”と指摘しました。

さらに、今回、新たに注目を浴びた証拠が「袴田さんが当時、履いていたとされるゴム草履」です。

血液も油が付着されておらず…不自然

弁護団は、この実物を法廷で示し、ゴム草履には血液も油が付着されておらず、これを履いた袴田さんが犯行に及んだのだとすると不自然だとしました。

そして、当時の警察がこのゴム草履について血液などが付着していないことを示す鑑定を行っていたのにもかかわらず、証拠化していなかったことを会見の場で弁護団は強く非難しました。

57年前の裁判とは反対に弁護側が検察を攻め立てているという構図です。

袴田さんの判決は、いつ頃になるのか。10日に行われたのが弁護側の証拠調べで、年内にあと3回裁判が予定されていますが、すべて証拠調べに費やされます。弁護団はあらためて、判決は7月以降になるのではないかという見立てを示しました。

袴田さんは87歳、姉のひで子さんは90歳とどちらも高齢です。早期の判決が望まれます。

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