千葉雅也さんとの出会いから30年...ついに小説家デビュー 宇都宮高卒の池谷さん 「ことばと新人賞」受賞、来年には単行本も

ことばと新人賞を受賞した池谷さん

 【宇都宮】宇都宮高出身の会社役員池谷和浩(いけたにかずひろ)さん(44)=さくら市出身、東京都内在住=の小説「フルトラッキング・プリンセサイザ」がこのほど、「第5回ことばと新人賞」を受賞した。今月発売の文芸誌「ことばと」に掲載され、来年には単行本も刊行となる。高校時代から挑戦を続けて30年、ついに実現したデビュー。池谷さんは「面白いと感じるものを書き続けていく」と意欲を語った。

 出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」(福岡市)が主催する文学賞で、今回は339点の応募があった。審査員は作家江國香織(えくにかおり)さんらが務めた。

 受賞作は、映像やCGの専門家として制作プロダクションに所属する「うつヰ(い)」が主人公。多岐にわたるプロジェクトを手がける傍ら、仕事の後には複数の仮想空間を行き来できるテクノロジーを使い、仮想空間内の鉄道各駅にいる「王女」たちと交流するという物語だ。

 池谷さんが本格的な執筆活動を始めたのは高校1年の時。1学年先輩で現在は立命館大教授、哲学者の千葉雅也(ちばまさや)さん(44)との出会いがきっかけだった。読書感想文の校内コンクールで、千葉さんの作品に「素晴らしい文章を書く人がいる」と感銘を受け、お薦めの本やアニメを教えてもらった。

 この頃から、文学賞への応募を続けてきた。「その時々で『こういう作品を創りたい』という衝動」が、創作活動を支えている。

 転機は新型コロナウイルス禍。在宅勤務で浮いた通勤時間などを執筆に充て、本作でのデビューを目指した。執筆期間は3カ月。受賞の知らせは、愛猫と静かに過ごしていた自宅で受け取った。感極まり、思わず涙が流れた。

 受賞作を掲載した「ことばと」は順次、全国の書店で発売される。くしくも、巻頭表現を執筆するのは憧れの千葉さん。池谷さんは「何という幸運でしょう」と喜びをあらわにした。

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