明石で22年ぶり打ち上げ花火、「シークレット」にした理由 密集回避へ、議論重ねた主催メンバー「過去の犠牲、語り継ぐのも使命」

明石市街を背に開く花火の大輪=ドローンで明石・林崎沖から撮影(谷吉將さん提供)

 3日、兵庫県明石の3漁港から打ち上げられた花火。11人が死亡した歩道橋事故があった2001年以来22年ぶりとなる打ち上げは、若手の商工業者らが何度も打ち合わせを重ねて臨んだ事前告知なしの「シークレット花火」だった。(有冨晴貴)

 花火は明石商工会議所青年部や明石青年会議所などでつくる「明石あんしんプロジェクト推進委員会」の主催。本番が半月後に近づいた10月16日夜、メンバーは魚の棚商店街内の「魚の駅」に集まった。約2時間の会議。テーマは打ち上げ当日のスケジュールや警備方法についてだったが、もう一つあった。「人が集まり過ぎた場合、打ち上げ中止の判断をどうするか」だ。

 打ち合わせには歩道橋事故遺族の下村誠治さん(65)も参加した。「花火は本来みんなが楽しめるもの。実現できるよう協力できるなら」と、雑踏警備に関する注意点などを伝えた。委員会メンバーは「想定外に人が集まった場所では打ち上げをやめるという判断も必要」との方針を固めた。

 同委員会の後藤丈仁委員長(50)によると、市内で花火を上げる計画は2015年ごろに動き始めた。しかし、コロナ禍などもあり、なかなか実施に踏み切れなかった。後藤さんは「老若男女、特に子どもが楽しめる花火を上げたかった。小規模でも、もう一度明石で打ち上げたという実績をつくりたかった」という。

 長年途絶えていた明石で花火が上がるとなれば、大勢の人が集まるかもしれない。人が集まり過ぎれば、事故防止のため中止にせざるをえない。そこで、住民に知らせない「シークレット」にすることで、密集を防ぐという方法を選んだ。

 打ち上げ場所にしたのが漁港だ。打ち上げを指揮した西田元貴さん(43)は「花火師さんと打ち合わせ、多くの人が見られる場所を選んだ」という。林崎、江井島、二見の打ち上げ地点に、各漁協の協力を得て、1週間ほど前から立ち入り禁止の張り紙を出した。

 そして迎えた3日午後8時。3カ所で花火が打ち上がり、子どもらの歓声が響いた。

 観衆は想定よりも多かったというが、混雑にはならず、同委員会メンバーら約100人による警備は順調だった。花火や運営は江井島で見守った歩道橋事故の遺族からも評価された。事故なく終えられた安堵(あんど)感からか、現場で涙を流す委員会メンバーの姿もあった。

 後藤さんは「大勢の人から反応をもらえた。特に子どもたちが見てくれてうれしい」。西田さんは「これからも明石で花火を上げたいが、過去に犠牲になった人がいることを語り継ぐのも私たちの使命」と語った。

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