アニメ『ガールズバンドクライ』プロデューサーに聞く、”最強タッグ”で挑むバンドアニメの新旋風―キーワードは「海外」と「川崎」?

東映アニメーションが手掛ける新作オリジナルアニメ『ガールズバンドクライ』プロジェクト。本年春にプロジェクトの始動が発表されて以降、リアルバンドの活動とともに数多くの新曲を公開し、3DCGを生かしたミュージックビデオは700万回再生を突破するなど好調なスタートダッシュを切っている。

そんな注目のアニメ『ガールズバンドクライ』プロジェクトについて、同作のプロデューサーを務める平山理志さんからプロジェクトの狙いや魅力、今後の展開を伺った。

アニメ『ガールズバンドクライ』プロデューサー・平山理志さん

最強タッグで挑むガールズバンドIPの世界進出

アニメ『ガールズバンドクライ』プロジェクト(以降「本プロジェクト」)は製作委員会方式を採用しない東映アニメーション100%出資のもと、アゲハスプリングスとユニバーサル・ミュージックが参画する3社共同プロジェクトとして本年4月に始動が発表された。

音楽制作を担当するアゲハスプリングスは数々のアニメや映画・ドラマ主題歌、CMソングに起用されているアーティストAimerを始め、多数のヒットメーカーを擁する音楽×総合クリエイティブカンパニー。これに加え、世界最大の多国籍レコード会社であるユニバーサル・ミュージックも参画することで、世界市場へ進出し得る「アニメ×バンド」プロジェクトを目指す。

そして映像を手掛けるのはもちろん東映アニメーション。『スラムダンク』シリーズや『ワンピース』『ドラゴンボール』シリーズなどの世界的人気を誇るアニメ作品を多数創り上げた同社が持つ、最先端の技術力を集結したアニメーション表現に挑む。

本作のアニメーションミュージックビデオは、フル3DCGにて制作されていることが大きな特徴だとしており、3DCGを採用した背景として平山さんは「近年のVTuber人気の加熱により、アニメにおけるCGへの抵抗感が若年層を中心に薄れつつある。」とした上で、繊細な表現が求められるバンドアニメでのCGに挑戦することとなった。

映像に関してはもう一つ「1コマ打ち」で制作されるという大きな特徴があると平山さんは強調した。爆発的な人気を誇った『けいおん!』に始まり、直近の『バンドリ!』『ぼっち・ざ・ろっく!』に至るまで、過去10年間に多数の作品が制作されてきた”バンド”というジャンルにおいても、「作画からCGへ」というトレンドの移り変わりが見受けられるといい、本作はこうしたトレンドに乗りつつ、さらに先を見据えた1コマ打ちに挑戦しているという。

1コマ打ちは「3コマ打ち」「2コマ打ち」と比較するとより繊細な表現ができる一方で、作業も2倍・3倍に膨れ上がることから、ほとんどのアニメでは採用されていない。これらの点からも、本プロジェクトに賭ける東映アニメーションの本気度がうかがえる。

※1コマ打ち…1秒間に24枚の画像を切り替えて制作するアニメーション制作において、24枚/秒で制作する手法。通常は12枚/秒(2コマ打ち)や8枚/秒(3コマ打ち)が多い。

舞台は意外?な川崎 ”リアリティ”の追求目指す

続いて作品の内容にクローズアップしていきたい。ミュージックビデオでは既に3DCG映像がお披露目されており、至る所に川崎の描写がなされていることが印象的な映像になっている。

アニメ作品では実在の都市や地域を”聖地”として作中の舞台に登場させることは極めて一般的ではあるが、本作はなぜ川崎市をチョイスしたのか。これについて平山さんは「これまでアニメではほとんどメインの舞台として登場していなかったというところが一点。

加えて、川崎市は中心部でもマンションアパートに3万円台から住めるところが魅力だとロケハンを行ったときに知って、経済的に厳しいという設定のキャラクターにも適合するのではないかと思ったからです。」と語っていた。

実際に映像中では京急川崎駅〜JR川崎駅周辺の多数のランドマークが描かれているほか、「吉野家」や公営団地など、現存する施設・店舗に関しても個々に協力依頼を行った上で、そのままの形で描くなど、リアリティの追求にも徹しているという。

リアルバンドも展開、制作陣も想定外の好スタート

バンドアニメ作品を届ける上で、映像と同程度に重要な要素としてキャラクターに命を吹きこむキャストたちが挙げられる。本プロジェクトのキャストは一般公募によるオーディション企画「Girl’s Rock Audition」で実施されたといい、数千名の応募者から選びぬかれた若き強者たちが集結している。

理名(Vo.)、夕莉(Gt.)、美怜(Dr.)、凪都(Key.)、朱李(Ba.)の5名からなる本作のメインキャストは作中に登場するバンド「トゲナシトゲアリ」のメンバーとしてリアルバンドとしても活動を展開していく。トゲナシトゲアリは既に活動を開始しており、9月14日には「トゲナシトゲアリ修行中 公開練習ライブ」 と題したイベントをライブハウスにて開催、初めて観客を前に演奏を披露した。なお、5人はいずれも楽器経験や歌唱経験が豊富な優れた人材であるが、声優としては未経験とのことで、プロジェクトの発展とともに“声優”としての成長も期待される。

このように、映像、音楽、キャストの”最強タッグ”となって挑戦する本プロジェクトだが、スタートダッシュとしては好調だと平山さんは話す。今年4月の制作発表を皮切りに7月には1stシングル「名もなき何もかも」を、8月には2ndシングル「気鬱、白濁す」を連続リリース。並行してミュージックビデオも続々と公開しており、10月25日(水)発売の3rdシングル「爆ぜて咲く」のMVはYouTubeにて700万回再生を突破するなど注目を集めている。

平山さんは「楽曲展開早期から海外ファンからの注⽬も高く、動画の視聴者の約60%は海外というデータもあります。MVの他にもキャスト陣が出演するYouTubeでの生配信番組もすでに始まっているのですが、日本語以外のコメントも見られるようになりました。

そして、既に販売されているCD売上の約⅓は海外で、越境ECを活用して手に入れる人までいらっしゃるようです。」とコメントしており、想定外のスタートダッシュだったと振り返った。また、国内展開についても順調だといい、キャラクターの使⽤楽器への反響として「約1ヶ⽉で1年分売れた」楽器店もあったという。

今後の本プロジェクトの展開については順次発表にて明らかにしていく予定のほか、9月開催の「東京ゲームショウ2023」では本プロジェクトのビジュアルが展示されており、メディアミックスでの展開も示唆されていた。東映アニメーションが挑戦する”バンドアニメの新旋風”に期待が高まる。

TGS2023の東映アニメーションプース/編集部撮影

『ガールズバンドクライ』作品情報

高校2年、学校を中退して単身東京で働きながら大学を目指すことになった主人公。
仲間に裏切られてどうしていいか分からない少女。
両親に捨てられて、大都会で一人バイトで食いつないでいる女の子。
この世界はいつも私たちを裏切るけど。
何一つ思い通りにいかないけど。
でも、私たちは何かを好きでいたいから。
自分の居場所がどこかにあると信じているから。
だから、歌う。

【原作・企画・製作】東映アニメーション
【キャスト】井芹仁菜:理名/河原木桃香:夕莉/安和すばる:美怜/海老塚智:凪都/ルパ:朱李

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