北朝鮮の18歳女性兵士らを襲う「多重セクハラ」の底なし沼

北朝鮮軍は先月までに、今秋の召募(新兵の入隊手続き)を終えた。その過程で、平安北道(ピョンアンブクト)に総責任者として派遣された第8軍団の隊列部長(動員部長)が、女性召募対象者の避妊器具挿入について問題を提起し、隊列補充局から批判を受けたという。

北朝鮮は今秋の召募で、地域別駐留軍団の隊列部幹部を各地域の道軍事動員部に総責任者として派遣したという。 そして、平安北道の軍事動員部には第8軍団の隊列部長が派遣された。

隊列部長は、平安北道病院で行った召募生の身体検査結果報告書を通じて、女性召募生全員が避妊リングを装着しているとの事実を知り、「不合格判定を下さなければならない」と主張した。

これまで平安北道の軍事動員部は、女性の避妊リング装着を問題視してこなかったのに、第8軍団の隊列部長が初めてこの問題を提起したことで、召募スケジュールに支障が生じたというのが情報筋の話だ。

情報筋は、「ここ(北朝鮮)では、両親が娘を軍に送り出す際、必ず避妊リングを付けさせる。親元から離れて集団生活をしながら、軍隊内にはびこる性暴力によって望まない妊娠をしてしまうのを避けるためで、ほとんど慣例のようになっている」と話した。

軍事動員部もそうした事情を知っているため、避妊リングを問題視してこなかったのに、事情を全く知らない第8軍団の隊列部長が空気を読めない問題提起を行い、かえって隊列補充局から批判を受けたという。

情報筋は「第8軍団の隊列部長は『18~19歳の女性が避妊リングを着けるのが正常なのか』と主張したそうだが、隊列補充局は『問題視する事案ではないので、余計なことを言わずにスケジュールどおり進めろ』と指示した。隊列補充局はむしろ、この騒ぎが民間人に伝わることを気にしたようだ」と説明した。

隊列補充局は、今回の一件がきっかけになり、軍内部にはびこる兵士への性暴力の問題が民間人の間で大きな問題になるのを恐れたわけだ。

しかし、すでに様々な経路を通じてこの情報を知った地域住民の間では、「女性兵士への性暴力を当然のことのように考える隊列補充局の幹部たちは、果たして自分の娘たちを軍に入隊させるのだろうか」という非難の声が出ているという。

そもそも、兵士として社会人となる女性たちの避妊リング装着を問題視する隊列部長の言動も一種のセクハラだろうが、地域住民の言う通り、体質そのものがセクハラ的であると言えるだろう。

北朝鮮国民のこうした軍への信頼感の低さを考えれば、北朝鮮軍は有事においても、大した力は発揮できないように思える。

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