話題の“ティラノサウルス”で宇都宮を激走 LRTと並走も ブームの理由、記者が探った

 

 思わず、選手も2度見してしまったのではないか。

 10月中旬、宇都宮市内で開かれた自転車の世界最高峰レース「ジャパンカップ」のロードレース。写真映像部の記者が撮った報道写真は、大勢のファンが詰めかけた沿道に、ひときわ目立つ“4体”の姿を捉えていた。見間違いではない。肉食恐竜のティラノサウルスだ。

 撮影した記者に聞くと、恐竜の着ぐるみを着て競争する「ティラノサウルスレース」が全国的にはやっているそうだ。他県の地方紙を見ると、まちおこしのイベントとして紹介されている例もあった。米国発祥の催しで、着ぐるみ姿の恐竜たちが激走するコミカルな姿が、交流サイト(SNS)などを通じ話題になっている。

 ティラノサウルスレースは11日、栃木市内でも行われた。新しいトレンドは着実に栃木県にも迫ってきているようだ。実際に体験し、読者に届けるのも記者の使命-。という思いもあるにはあるが、“恐竜になりたい欲”が抑えきれなかったのも本音。30歳を手前にしながら、海岸沿いなどを駆け抜ける恐竜たちの動画を見て興奮してしまった。私も走ってみたい。

 早速、着ぐるみを調達した。インターネットで検索すると、通販サイトですぐにヒット。緑を選び、4200円で購入した。

宇都宮城址公園でデビュー

 写真映像部の記者に同行してもらい、宇都宮市本丸町の宇都宮城址(じょうし)公園で、恐竜デビューを果たした。

 着替えは簡単。腰の辺りに送風機があり、頭から尻尾の先まで空気で膨らませる仕組みだった。脚から着込み、胸のファスナーを閉じて送風機のスイッチオン。1分半ほどで膨らんだ。あくまで体験取材。きちんと報道腕章も身に着けた。

 ティラノサウルスの腕は胴体に対して小さいことで知られるが、この着ぐるみも腕を入れるとひじほどまでしかない。着ぐるみの中は、まるでサウナのように暑い。

 走る前の準備運動は、レースでもよく行われているラジオ体操。不慣れな上に可動域は狭い。音楽に合わせて必死に動いたが、撮影した動画を見ると、短い腕と太い脚を必死にバタつかせているだけのように見える。

 早くも着ぐるみの中は汗だくだったが、同行した記者にせっつかれ、走る体勢を整えた。「よーい、どん」。城址公園の芝生を全力で駆ける。腕は思い切り振れないし、転ぶのを恐れて小幅のがに股走りになってしまう。前に進んでいる実感は薄い。すがるように同行記者に目を向けると、「頑張ってたけれど思ったより遅かったね」とにべもない。

 それでも映像を見ると、白い歯をむき出しに頭を左右に大きく振りながら走る様子は、迫力満点。それがあだとなったのか、散歩中の犬にほえられ、移動することにした。

LRTと並走

 宇都宮市内で撮影するなら、このコラボレーションは外せない。続いて、次世代型路面電車(LRT)と並走を試みた。

 撮影に慣れた同行記者に安全に走れる場所を選んでもらい、清原地区市民センター停留所付近の直線道路に決めた。LRTが停留所から出るところを見計らい、フライング気味にスタートを切る。無我夢中で駆けたが、当然あっさり追い抜かれた。それでも、つかの間の並走は喜びで胸を満たした。

宇都宮駅東口でLRTお見送り

 最後にJR宇都宮駅東口の交流広場「宮みらいライトヒル」で、停留所から出発するLRTを見送った。LRTを待っていると女子高生らに声をかけられ、すっかり人気者になった気分。LRTの車内からも乗客が手を振ってくれた。

 突如出現した“成獣”をこんなにもあたたかく受け入れてくれるなんて。県民性に感謝だ。こわもての肉食恐竜にはにつかわしくないが、大きな尻尾を振りたい。

    ◇    ◇

 実際に走ってみて、なぜこのレースがこんなにも人を惹きつけるのか、少しだけ分かった気がする。大人になって全力で走るのは気恥ずかしいが、ティラノサウルスの外見が恥も外聞も包み込んでくれる。それが気持ちよかった。

 綱引きや大玉転がしなどを行う運動会など、ティラノサウルスの着ぐるみで出場するイベントはほかにもさまざまある。県内でも、地域がさらに盛り上がるようなイベントが開催されることを期待したい。 

 次は“しもつけサウルス”になってどこを走ろうか。夢がふくらむ。 

(安全に配慮した上で、施設などに許可を取って撮影しています)

栃木市内で行われたティラノサウルスレース
ラジオ体操するティラノサウルス
LRTと並走するティラノサウルス
女子高生に声をかけられるティラノサウルス
LRTを見送るティラノサウルス

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