北村さん「鏡花冠する賞感謝」 朝比奈さん「光栄と同時に恐縮」 金沢で泉鏡花文学賞授賞式

北村薫さん

  ●「未来切り開く作品」たたえ

 金沢市が制定する第51回泉鏡花文学賞の授賞式は11日、市民芸術村で行われ、短編集「水 本の小説」で受賞した北村薫さん(73)、小説「あなたの燃える左手で」で受賞の朝比奈秋さん(42)をたたえた。北村さんは「鏡花の名を冠する賞を頂けたことに感謝申し上げる」、朝比奈さんは「光栄であると同時に歴史の長い格式ある賞に恐縮する」とそれぞれ喜びを語った。

 北村さんの受賞作は7編からなり、表題作の「水」は金沢を舞台としている。記念スピーチで北村さんは、賞が制定された1973(昭和48)年に初めて金沢を訪れたことを紹介。鏡花作品の言葉を取り上げながら「便利さの中で失われたものが鏡花の作品にある。卓越した文章力こそ鏡花の神髄だ」と語った。

 医師でもある朝比奈さんは手の移植と、ロシアによるクリミア併合、ウクライナ侵攻を重ねて描いた。スピーチでは授賞式の空気に文学のまちならではの重みを感じるとした。今回の選考にあらためて感謝し、「『朝比奈を選んで間違いではなかった』と言われるように今後も作品を書いていきたい」と意欲を示した。

 授賞式には選考委員6氏のうち、村松友視、嵐山光三郎、山田詠美、綿矢りさの4氏が出席した。

 山田氏は北村さんの受賞作について、「人生における本という船の素晴らしい水先案内の書だ」と説明。朝比奈さんの作品を講評した村松氏は「今作が3作目というのは驚きだ。恐ろしい才能を持っている」と絶賛した。綿矢氏は「両作品とも現実からふわふわと遠い場所に連れて行ってくれる」と語った。

 賞の創設を市に提案し、第1回から選考委員を務める五木寛之氏は、「50年の歩みの中で今回の受賞作は新しい鏡花賞の未来を切り開く記念すべき作品だ」とのメッセージを寄せた。

 授賞式には約300人が出席し、村山卓市長が正賞の八稜鏡と、今回から50万円増額となった副賞150万円を受賞者に手渡し、高誠市議会議長が祝辞を述べた。

 泉鏡花記念金沢市民文学賞の授賞式も行われ、短編集「しずり雪」の小網春美さん(76)、句集「鳳笙(ほうしょう)」の中川すなをさん(73)をたたえた。

  ●万感と驚き 受賞者インタビュー

 授賞式に先立ち、北村さんと朝比奈さんは北國新聞社のインタビューに応じた。泉鏡花文学賞について、ベテランの北村さんは「1回目から知っており、喜びもひとしお。直木賞受賞時に鏡花賞が似合うと言われていた」と万感の思いを込めた。若手の朝比奈さんは「まさかの受賞で頂いてもいいのかな。歴代受賞者の顔触れだけでも圧倒される」と驚きを口にした。

 鏡花賞が50年続いていることについて、北村さんは「受賞したから言う訳ではないが、『選球眼』が素晴らしい」と指摘。朝比奈さんは「表現者を評価したいとの思いが50年も続くのはすごいこと。書き手として感謝しかない」と敬意を示した。

 北村さんは若手の頃、初の短編集で鏡花を取り上げていたことを懐かしみ、朝比奈さんは学生時代に金大生とバレーボールで交流した思い出を披露した。

朝比奈秋さん
受賞作の講評を聞く授賞式の出席者=金沢市民芸術村

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