2021年12月に産声をあげた団体「子育ての孤立を防ぐ Community Support Rejoice(コミュニティ サポート リジョイス、以下CSR)」。
新型コロナウイルス感染症拡大対策で、子育て支援サービスや交流の場が中止・閉鎖されるなか、当事者たちが子どもと自分たちの居場所を求めて立ち上げました。
活動開始2周年を目前にした2023年11月14日には、心と体のケアマルシェ 第2回ケアマルレディバグの開催を控えています。
ケアマルシェ以後は、新体制での再出発が決まっているCSR。
運営の3人に、団体の立ち上げやこれまでの経緯、活動への思いを聞きました。
インタビューの内容を交えながら、団体について紹介します。
子育ての孤立を防ぐ Community Support Rejoice(コミュニティ サポート リジョイス)とは
子育ての孤立を防ぐ Community Support Rejoice(コミュニティ サポート リジョイス)は、代表のカスティロ彩美(かすてぃろ あやみ)さんほか、3名で運営されています。
団体名にあるRejoice(リジョイス)には、「喜び」や「喜ぼう」という意味があるのだそう。
幼い頃から聖書や礼拝に親しんできた彩美さんの心に、つねに響いている言葉です。
「喜びに目を向けるのが苦手な人間だけど、自由意思を与えられているのも人間だから、喜びを選ぼう、喜ぼう」
地域のなかに喜びのあるつながりをつくっていこうとの思いが込められています。
「子育て中の女性が ありのまま自分らしく生きる 喜びを感じられるつながりをつくる」を理念に、活動してきました。
2023年11月14日開催 心と体のケアマルシェ 第2回ケアマルレディバグ
CSRの大きなイベントとして、マルシェがあります。
第1回の開催は、2022年11月。
このときの会場は、倉敷市中島にある岡山トヨタ自動車株式会社 倉敷店2階大会議室でした。
出店者は、CSRの運営陣、交流会の参加者、CSRの活動に賛同する任意団体。
広々とした空間の一画に用意されたキッズコーナーには、子どもを見守るサポーターもいて、出店者、参加者どちらも安心して過ごせるような環境が整えられていました。
2023年11月14日には、玉島市民交流センターで第2回が開催されることが決まっています。
彩美さんの声掛けであつまったり、これまでのつながりから出店を申し出たりするひともいて、個人、団体合わせて12グループの出店が予定されています。
「子育ての孤立をなくしたいと活動している団体があると、たくさんのひとに知ってほしいです」と話す彩美さん。
CSR参加者が活躍できる場をつくったり、活動を知ってもらったりするために、ケアマルシェの開催に精力的に力を注ぎます。
第2回開催にあたり、運営陣以外の運営サポーターとして、CSR開始当初からの参加者を含めた4名が加わりました。
CSRの活動理念「よろこびを感じられるつながりをつくる」のとおり、たくさんのつながりが生まれそうな予感がします。
子育て中の女性だけでなく、たくさんのひとに参加してほしいイベントです。
ケアマルレディバグの来場には申し込みが必要です。
詳細は、Instagramプロフィール部分で確認できます。
よろこびのおと ~ 子育て中の女性をつなぐ交流会
イベント以外のおもな活動は、毎月第二火曜日に開催される交流会。
子育て中の女性が集まって交流を楽しむ活動です。
子どもを連れて安心して参加してほしいとの願いから、活動にはサポーターが参加し、子どもの見守りや遊び相手を担ってくれます。
サポーターは、CSRの活動主旨に賛同したボランティア。
子育てを終えた女性が多く、なかには「自分自身の子育てのときもこんな活動があればよかった」との思いで支えてくれるサポーターもいます。
交流会では、だれが何を話しても否定されません。
普段は話しづらいパートナーとの関係や、過去の傷を打ち明けられる場です。
運営陣もおなじ目線で話せるためか、「否定しないことがルールです」と伝えなくとも、参加者と一緒に自然と否定のない場がつくられてきました。
世代の違いや経験の違いから、子育てに関するすれ違いを感じる場面がないわけではありませんが、それぞれの関係性がゆるやかに変化していけるよう、定期的な開催を大事にしています。
講座 ~ 得意を生かして参加者が講師に
活動開始時は、交流会に加えて15分から30分程度の講座を開催していました。
過去3回開催された講座のうち、2回は参加者が講師。
母親としての生活では、なかなか表現する機会のない参加者自身の得意なことを、他者に向けて表現してもらう場です。
交流会のなかで、参加者自身の強みや魅力に気づいてもらえたら、次は半歩、一歩進んで講座にしてみる。
子育て中の女性が自分らしくあるための後押しも、CSRは大事にしています。
「子育て中で、やりたくてもできないことがあるとしたら、できる機会をつくっていくことがまた、子育ての孤立から抜け出すきっかけになるのでは」と、代表の彩美さんは話します。
「教える、伝えることで元気が出るひともいれば、教わったり、新しい知識を知ったりすることで元気が出るひともいると思うんです。お互いにとって良いつながりになれば」
2023年11月現在は、交流会でのかかわりを深めるためにいったん休止していますが、CSRの核となる活動のひとつです。
活動開始から1年未満でマルシェを成功させ、着実に足跡を残しているCSR。
2周年を目前に、団体の立ち上げやこれまでの経緯、活動への思いを運営陣に聞きました。
CSRのはじまり ~ 自分たちでつくるつながり
子育ての孤立を防ぐ Community Support Rejoice(コミュニティ サポート リジョイス)は、代表のカスティロ彩美さん、作業療法士でありアロマセラピストでもある まきこさん、唐揚げ販売やライフコーチなどで活躍する こーみぃさんの3名が運営しています。
彩美さんには、教育職員免許状を生かして学校現場で活躍する一面も。
3人そろってのインタビューは叶いませんでしたが、まきこさんとこーみぃさん、後日彩美さんから話を聞きました。
出会い
──3人の出会いを教えてください。
こーみぃ(敬称略)──
最初は、まきこさんと彩美さんの出会いですね。
まきこ(敬称略)──
そう。2020年5月に2人目を出産したんですが、そのころは新型コロナウイルス感染症の影響で緊急事態宣言が出ていた時期。
わたしは岡山県外出身で、産休に入ったら集まろうと言っていた友人とも会えずにいました。
育休に入ったものの、コロナでどこも閉まっている状況です。
転居してから知り合ったひとたちが転勤してしまったり、上の子が保育園を退所することになったりで、ずっと子ども2人とわたしの3人で過ごしていました。
実家も県外ですから帰りにくくて。
このまま3人でいたら良くない気がすると思っていたときに、たまたま見つけたのが彩美さんのブログでした。
「県外から倉敷市玉島に来て、親子英語をしています」と書いてありました。
それを見て、「親子で行けるんだ」ってなったんです。
──彩美さんも県外出身で、すでに活動をされてたんですね。
まきこ──
そうですね。わたしは、誰かと話したい一心で、彩美さんのところに行きました。
英語の話もしましたが、一時預かりなども機能していなくて、預けたくても預けられない現状がけっこうきつかったので、そういう話もしたんです。
その後、上の子の保育園退所に続き、下の子の保育園入所申請が通らず、わたしが退職することになって。
そんな事情もあり、彩美さんと子どもが預かれる場所をつくってしまえばいいんじゃないかと話しました。
彩美さんは、お母さんが経営していた託児所を手伝っていたので、経験や知識があったんです。
そこから、市役所へ相談に行ったり、場所を探したりしました。
ですがやっぱり、施設基準を考えたり、資金が必要だったりしますよね。
──たしかに。人材も必要ですよね。
そうなんです。保育士さんのように資格があるひとが必要でした。これはちょっと、大がかりだなと。
たとえば同じ建物のなかで、お母さんはこっちで何かをしていて、子どもは別の空間で見ている形態であれば、保育士は必要ありませんよとの話もありました。
それならできるかもしれないと思いましたが、やっぱり場所の問題は残っていました。
団体のはじまり
CSRの活動開始は2021年12月。2人の出会いから約1年3か月後に、倉敷市玉島のとある地域交流スペースで初めての活動がおこなわれました。
2人を悩ませた課題は、どうなったのでしょうか。
彩美さんに当時を振り返ってもらいました。
──CSRの活動開始にあたり、場所や資金などの悩みがあったと聞きました。活動開始までの経緯を教えてください。
彩美(敬称略)──
まきこさんといろいろな話をしながら過ごしていたときに、おやカンパニーさんが開催したマスク舞踏会の案内を見つけて参加したんです。
それが、2021年2月か3月でした。
そのあと、おやカンパニーさんの産前産後ケアマルシェに、わたしは託児ボランティアとして、まきこさんは出店者として参加したんです。
そのときに、マルシェが開催された場所が無料で使えると知り、CSRの最初の活動場所として使わせてもらうことに。
産前産後ケアマルシェは、託児ボランティアとして参加していた こーみぃさんとの出会いの場でもありました。
こーみぃさん自身も、子どもさんを背負いながら参加していて、託児ボランティアをしながらCSRの話になりました。
彼女らしい「わたしにできることがあったら応援するよ!」の言葉に、すぐCSRの初めてのミーティングに誘ったんです。
何もわからなかったと思うんですが、ミーティングの内容を的確に言語化してくれた こーみぃさんに驚いたことを覚えています。
そんな経緯で、こーみぃさんに参加してもらうことになって、足りなかった最後の点がつながったような感じでした。
軌跡 ~ 「しない」選択
こーみぃさんを迎えて、現在の3人体制でスタートしたCSR。
走り始めてすぐ、助成金申請の機会が巡ってきます。
「彩美さんがアクセルで、まきこさんはブレーキ、そのやり取りを言語化するのが こーみぃさん。こーみぃさんは地図を持っている感じです」と自らの関係性を表現したのは、まきこさんと こーみぃさん。
三者がお互いを生かし補いながら進んできたのは、大事なものを明確にするために「しないこと」を選ぶ道でした。
それぞれの原動力と役割
──活動を続けてこれた理由は何でしょうか。
まきこ──
わたしの場合は、自分が子どもを連れて行きたかったから。
自分が行きたい場所をつくりたかったんです。
こーみぃ──
わたしは、止まっていることに息を吹き込むのが好きだからかもしれないです。
今思えば、ですが。
そもそもは、ひとりぼっちを感じているひとの居場所をつくりたいというところが尊い活動だと感じたんです。
力を貸したいと思いました。
あとは、何かを考えるときって視野狭窄(しやきょうさく)に陥りがちだと思うので、違う目線から本当に大事にしたいのはなんだったっけっていう、一石を投じるような存在としてそこにいられたらいいなと思っていた感じでしょうか。
途中、資金面で、社会福祉協議会の助成金をもらおうかと奔走したときがあって。
あれ、お金を使い果たすのが目的だったっけ、これは本当にいるだろうか、いや、いらないかも、となったこともありました。
まきこ──
あったね。全部書類もつくって、あとは提出するだけになってたけど。
結局、わたしたちが使いたいところにお金を使えないことに気がつきました。
助成金はつかいきらないといけないんですが、助成金をつかうために何かしなきゃってなりそうで。
本末転倒というか、わたしたちがやりたい活動が、逆に自由にできなくなるかもしれないと思い、最後の最後で「これ、いるかな?」ってなったんです。
本当に大事にしたいものを見つめ続けた一年
「あの時点で、助成金の申請を取り下げてよかったな、と思います」と、代表の彩美さんも言います。
彩美さんも県外から転居して、子どもとの過ごし方や緊急事態の対応に不安を感じていました。
地元でつちかってきた親子英語教室を軸につながりをつくろうとしましたが、地域性も関係性も違う条件からのスタートで戸惑いがあったそうです。
そんな彩美さんにとっても、CSRの活動はつながりを深め、大事にするためのもの。
助成金申請のやり取りや話し合いを通して、CSRが大事にしたいのは何なのかが明確になった出来事でした。
助成金の申請を見送ったCSRでしたが、もうひとつ向き合ったものがありました。
──最近の活動は、交流会が中心ですね。なぜでしょうか。
こーみぃ──
大事なところは見落とさないように、この一年くらいやってた感じです。
交流会は続ける、これは意義がある。
最初は一つうまくいくと、どんどんいろいろなことをやりたいって状況に陥りそうになったんですが、「いや、待てよ」と。
まずは交流会を続けるところに立とうってなったよね。
まきこ──
そうそう。
基本は孤立した子育てをしないようにっていうところ。
以前、交流会前にしていた講座もすごく良かったんですが、ひとは集まるけど、思いを吐き出す時間が少なくなってしまって。
それではまたちょっと違ってくる気がしました。
講座は講座で、やるときはちゃんと講座だけしようって。
「ここに行けば自分が溜めてるものを出しても何も言われない」という場所を、毎月提供しないと、と思いました。たとえば家族の愚痴を言っても否定されない場所です。
たまにするのではなくて、それだけは毎月続けようとなって、講座を外しました。
子育ての孤立を防ぎたい
講座をしない選択をして、交流会に注力することを決めた3人。
そこには、それぞれが直面している子育て当事者としての思いがありました。
子育ての孤立を防ぎたい。
3人がそろって何度も繰り返した言葉です。
助けてほしいときに、助けてと言えるように
こーみぃさんは、「子どもを入口にした支援はあっても、お母さんに直接まっすぐ手を差し伸べるようなものは少ないのでは」と首をかしげます。
「子育て中の女性自身も、子どもの悩みは話せても、自分自身の悩みを言えないし、言わない気がします。言い慣れていないのもありますね」と言葉をついだのはまきこさん。
「子育ては大変だけど楽しいもの、大変だけどほかのひともがんばっているから、自分もがまんしてがんばらないといけない、と母親に思わせてしまうような空気や言葉が、日常にあふれているようにも思います」
そう話す彩美さんは、子育て中に感じるもやもやや違和感も含めて、負の感情をありのままに吐き出せる場所こそが、もっとオープンにあってほしいと願います。
──団体を立ち上げるきっかけのひとつに、新型コロナウイルス感染症拡大対策で公的な支援機関が閉鎖されていた背景があると思いますが、公的な支援機関が開いていたらどうでしたか。
彩美──
実はコロナの前、まだ地元にいたときから、ズレのようなものは感じていました。
相手が良かれと思って伝えようとしている言葉と、目の前にいるひとの状況がかみ合っていないような、違和感やもやもやというか。
わたしの母は、地元で託児をしていたんですが、子どもさんのお迎えにきたお母さんたちが何気ない会話で、ゆる~っとして帰るようすを見てきました。
公的な支援、公共の場でのイベントは、いろいろな配慮もされています。
いい、悪いではないですし、非難するつもりもないんですが、そこにフィットしていないひとたちがいるんじゃないかと。
わたし自身も、そのうちのひとりだったと思います。
出産した瞬間から、お母さんは子育てができると思われている風潮があるような気もしていて、わたしはそういう風潮に、疑問を持っていましたし、その疑問も声を大にして言いたかったです。
あるとき、母親を支援する訪問型ボランティア団体の研修を受ける機会があったんですが、研修を受けたことで、それまで自分が感じていた違和感がクリアになりました。
孤立した子育てについても明確になり、なんとかしたいと思ったんです。
──孤立した子育てとは、どんな状況のことだと思いますか。
彩美──
助けてほしいときに、助けてが言える相手、場所がないことだと思います。
あとは母親がひとりになれる時間。
ひとりになる選択肢があるかないか、その選択肢が一日でも一時間でもあれば自分に戻れるのに、と。
孤立といいますが、母親がひとりなのではなく、孤立の子育てって子どもと置き去りなんです。
──ひとりでいることが「孤立」なのではなく、母親が子どもと置き去りになってしまった結果、子育てが孤立してしまうんですね。
ほかにも、助けてくれる相手や場所があったとしても、助けてと言えないひともいると思います。
彩美──
それも孤立だと思います。
目に見えるものだけが要因じゃなくて、関係も希薄になっていると思います。
わたしたちは小さいときから、家族関係にも気遣いが必要と学んできている世代じゃないかと思うことがあります。
思いやりと聞くと、自分のことはまず置いて、相手のことを考えましょう、とか。
本当は自分が助けてほしいのに、相手を思いやるように教わってきたのではないかなと。
世代が違えば違ってくるのかもしれませんが、今のお母さんたち、女性たちにはそういう意識があるような気がしています。
──子育ての孤立を防ぐための大事なものとして交流会を続けてきました。何か変化はありましたか。
こーみぃ──
月に一回集まるだけなんですが、普段話さないことを話せて、緊急事態に助けてもらえそうなひとの顔が浮かぶようになりました。
わたし自身もですし、参加者さんもです。
「本当にしんどいときに、電話しようかなって何回も思った」という話を聞きました。
電話してくれたら行くのに!と思います。親戚のような感覚でしょうか。
まきこ──
わたしも、子どもを連れていけない通院のような、どうしても無理なときに、「ちょっと子どもを見てて」と言えるひとが何人か浮かぶようになりました。
主人にしか頼れなかったのが、主人以外に「何かあったらごめん!」と言えるひとができて。
交流会としてだけでなく、気の合う相手が見つかって、つながれるのがいいなと思います。
彩美──
1年目に比べて、交流会の開催日を毎月第2火曜日に決められてよかったと思います。
今、交流会の会場を提供してくださっているIDEA R LABの大月さんのおかげです。
吐き出したいものを吐き出す時間になってほしいと思うので、ひとりのためにみんなが耳を傾けるような、ひとりがゆっくりと感じていることを話せる時間もつくりたいですね。
とにかく今、できることを続けていくしかできないので、これからも毎月の交流会は続けていきたいと思っています。
おわりに
子どもと自分たちの居場所をもとめて子育て中の2人が出会い、3人で活動がスタートしてからもうすぐ2年。
大事なことを見失わないように、これまで歩んできました。
今では、団体を支えてくれるサポーターも定着し、「子どもの成長を一緒に喜んでもらえることがうれしい」とずっと参加してくれる参加者もいます。
今後のCSRは、交流会の定期開催のほか、講座の再開を視野に入れつつ、新しい展望も持っています。
「交流会の場にも出てこられないひとたちにも、つながりを届けられたら」
災害や新型コロナ感染症などのできごとで、つながる力を試されているようにも感じる昨今。
子育て中の女性どうしがつながるだけでなく、あらゆる立場のひとたちがつながりを保てるよう、筆者自身もできることをしたいと思いました。