新潟県長岡市の磯田達伸市長(72)が2期目の任期満了となるまで1年を切った。市職員出身のリーダーとして、現場の声を重視する手堅い市政運営に一定の評価がある一方、「具体的な成果が見えない」「言葉だけ」との批判も根強い。市政のかじ取りを担って7年。重点政策や政治スタンスににじむ「磯田イズム」を探り、課題を見つめる。(3回続きの3)
「私は市民党ですから、市民党。市民党という立場で常に動いています」
9月下旬の夜、長岡市内のホールで取材に応じた磯田氏が自ら「市民党」を持ち出し、説明した。扉の向こう側では磯田氏が来賓として出席した、自民党の鷲尾英一郎衆院議員(46)=比例北陸信越=の後援会支部設立総会が続いていた。
「現職の議員さんは長岡市にとって大切な方。お招きがあれば出席する」「政治スタンスというより、市政課題のためにどういう方とつながるか。そういう政治的判断は当然している」
磯田氏は出席の経緯や政党との距離感について答えた後、「市民党」の立ち位置を 強調した。国政与党との関係は大事だが、自民党寄りとも見られたくない-。そんな本音が透けた。
▽磯田氏は"運がいい人"
磯田氏は2016年の初当選以来、自らを「市民党」と言い表してきた。本人は「党派性に寄らないということ。国政は党派をつくって切磋琢磨するが、市政は違う」と説明する。どの政党とも一定の距離を置き、一人一人の市民と向き合うことを重視しているという。
保守系の市議の一人は、このスタイルを貫く磯田氏を「運がいい人」と表現する。2016年の選挙は保守系が分裂する三つどもえの中、磯田氏は保守系と、共産党を含む革新系の市議の両方から支援を受ける形となった。
一騎打ちとなった2期目の選挙(2020年)でも多くの市議が支持し、大差で当選。磯田氏は特定の党派に頼らずとも安定した市政運営が可能となった。市議会の各会派は「是々非々」を基本姿勢とするが、磯田氏が市長になって以降、各年度の一般会計当初予算は全て「全会一致」で可決されている。森民夫前市長の頃は共産党市議団が反対しての「賛成多数」がほとんどだった。
ただ、安定のウラには課題もある。「議会対応がおざなり」と保守系市議の一人。複数の市議が議員と市長、市職員のコミュニケーションが少ないと感じており、ベテラン市議は「さまざまな面で説明が足りない」と問題視する。
長岡市議会の最大会派である市民クラブのクラブ長、池田和幸氏(69)は「堅実さや未来への投資などの政策は評価できるが、支所機能の見直しに合併地域から厳しい声もある。全体としての評価が難しい」と話す。
市役所と市議会。両者を見つめてきた元市職員の目には「近年のオール与党体制で、市と議会の緊張感が薄まってないか」と映る。
▽鷲尾英一郎衆院議員「確たる評価できる状態ではない」
「市民党」を掲げる磯田氏に対し、地元の政治関係者の評価は分かれる。
共産党中越地区委員会の斉藤実委員長(65)は「どこにも属さないスタンスで市政運営をして、その立場が変わっていない」と評価する。一方、自民系の市議や自民党員の中には、共産党との関係が保たれていることに不満を持つ層が一定数いる。
自民党長岡支部長を務める鷲尾氏は10月上旬、磯田氏に関し「市議団から総括的な評価をもらっておらず、確たる評価ができる状態ではない」と述べるにとどめた。今後については「市議団や党員の意見を聞きながら進めていきたい」と話した。
来年10月に任期満了となる磯田市長。各党がしのぎを削る衆院選、そして磯田氏が慎重姿勢を示す東京電力柏崎刈羽原発の再稼働議論の行方など、この1年は長岡市を巡る政治テーマが大きく動く可能性がある。「市民党」の磯田氏にとって簡単ではない日々が始まった。
=おわり=
(この連載は長岡支社報道部・石井英明、関宏一、永井竜生が担当しました)
<磯田達伸市長・インタビュー>へつづく