社説:介護人材の不足 抜本的な処遇改善が急務だ

 介護サービスを支える人材の不足が続いている。少子高齢化のさらなる加速を見据えた担い手確保が急がれる。

 国の推計によると、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年には介護職員が約243万人必要となるが、現状のままでは約32万人足りないという。

 在宅サービスを担う訪問介護の現場では、深刻な人材不足に直面している。

 全国の市区町村にある社会福祉協議会が運営する訪問介護事業所のうち、過去5年間に少なくとも218カ所が休廃止されたことが共同通信の調査で判明した。約13%の減少で、23年度は1302カ所となっている。京都府は7.4%減、滋賀県は24%減だった。

 休廃止の要因は訪問介護員(ヘルパー)の高齢化や人材不足、事業の収支悪化という。公的な存在といえる社協が事業を止めれば、訪問介護の空白地域が広がることが懸念される。

 介護労働安定センターの22年度調査で、不足と感じている職種を全国の事業所に聞いたところ、ヘルパーが8割を超えた。施設内の介護職員が約7割、看護職員が5割近くという結果だった。

 ヘルパーの4人に1人は65歳以上で他職種より高齢者の割合が高く、労働条件の悩みとして従業員の多くが「人手が足りない」「仕事内容の割に賃金が低い」を挙げた。

 訪問介護は、住み慣れた地域で長く暮らすため、国が進める「地域包括ケア」の核となるサービスである。その現場が青息吐息の運営では、介護保険制度が空洞化しかねない。

 政府は今月まとめた総合経済対策で、介護職員らの賃金を月6千円程度引き上げる方針を固めた。看護助手や障害福祉サービス事業所の職員も含める方向で、早ければ来年2月からの開始を見込む。

 新型コロナウイルス対応で21年にも9千円相当を引き上げたが、その後の物価高もあり、賃上げが広がる他産業との格差が指摘されていた。

 介護職の給与水準は依然として全産業平均より月7万円近く低く、人材確保につながる改善はおぼつかない。

 事業所運営の基盤となる介護報酬は3年に1度の改定を来年度に控えている。

 国は職員の処遇改善と介護ロボットの導入により負担軽減を図るとしているが、思い切ったてこ入れが必要だろう。

 岸田政権が重点を置く少子化対策の財源確保策では社会保障費の歳出改革が焦点とされる。

 負担と給付の両面から制度の見直し議論が本格化するが、苦境にある介護現場をさらに追いつめてはなるまい。

 地域のニーズに応え、持続可能な介護環境を担う人材確保に向けて、賃金をはじめ抜本的な処遇改善を図る必要があろう。

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