神戸ハーバーランドの神戸新聞本社近くに立つキリンの像。足元の銘板には「カルメニ・キリン伝説」の文字とともに、キリンの下で待ち合わせると「恋が不思議とかなう」-という言い伝えが記されている。毎日、目にしながら、なんだか気になるキリン。記者が作者を調べて連絡を取ると、キリンは阪神・淡路大震災を乗り越えて立ち続け、さらには全国に「仲間」がいることが分かった。(千葉翔大)
キリンの像は正式には「蒼天(そうてん)の塔」と呼び、高さ約8メートル。本物のキリンは陸上で暮らす動物の中で最も背が高く、オスは約5メートル、メスは約4メートルまで成長するといい、本物より少し背が高いようだ。
早速、目の前の神戸情報文化ビルの管理担当者に問い合わせた。ずっと前からここにいるキリンについて聞く人は、今ではほとんどいないはず。担当者は少し困惑しつつも、もともとは展覧会に出品された作品で、すでに作者から譲渡されていると教えてくれた。
作者は鍛金(たんきん)彫刻家の安藤泉さん(73)=神奈川県。多摩美術大(東京都)客員教授を経て、現在は金沢美術工芸大(石川県)名誉客員教授を務めている。安藤さんに連絡を取ると、快く取材に応じてくれた。
### ■神戸港のクレーン
安藤さんは30年前、「第7回神戸具象彫刻大賞展」の呼びかけで、キリンを作り始めたという。
そもそもなぜキリンだったのか?
安藤さんは「以前に神戸港で見かけたまっすぐのびるクレーンをヒントにした」と教えてくれた。
さらに「周囲の建物を越え、青空に視線が誘導されるように」との願いを込めたという。
だが、制作は苦労の連続だったらしい。ステンレス棒で網目状に囲んだ枠内に、銅板や真ちゅうをはめて溶接する独自の技法を採用したが、異なる金属の溶接によってステンレス棒が破断した。半年ほど自宅に戻らず完成させた「蒼天の塔」は、大賞と神戸市民賞を受賞した。
作品は、ハーバーランドの特設会場に展示されたが、1995年、阪神・淡路大震災が神戸を襲った。
安藤さんが被災地に入ったのは、震災の約3カ月後。キリンの足元では、芝生に地割れの痕がくっきりと残り、近くの道路のアスファルトはめくれていた。
「震災被害の様子にショックを受けた」
キリンは大きな基盤で作っていたため倒れなかったが、ステンレス素材で作った尻尾が少し曲がっていた。何とか修復し、震災翌年、現在設置している神戸情報文化ビルの前に移されたという。
### ■「大自然と共存」
安藤さんは、1981年から本格的に野外彫刻を始めた。「大自然と人間社会の共存」をテーマに、動物を題材にした作品を30点以上発表してきた。
その一つが、ハーバーランドのキリンであり、全国各地に「仲間」がいる。
東京・八重洲のビル前にもキリン(高さ約6メートル)がいる。頭部の王冠にはライトが入り、吹き抜けとなった正面玄関の天井を照らす。秋田県や長崎県にもキリンの像があるという。
また、桜の名所として知られる「日本国花苑」(秋田県)では、ゴリラをモチーフにした作品「井川ゴリ山」がある。
ほかには、前脚を上げて振り返るシマウマや背中に子どもを乗せたカバ、羽を広げたフクロウなど、さまざまな動物たちが、その地で親しまれている。
「立地条件や設置理由、土地の由来や地域文化などを聞きながらふさわしいモデルを選ぶ」と安藤さん。
その上で「神戸はハイカラでおしゃれ。草原を駆けるインパラやガゼルの群れの姿も似合うかもしれない」と想像を膨らませた。
### ■恋の言い伝えは?
記者が最後に気になったのが、安藤さんは恋の言い伝え「カルメニ・キリン伝説」についてどう感じているのか、ということ。
聞いてみると、「恥ずかしながら知りませんでした」という答えが返ってきた。伝説が生まれた理由ははっきりしない。新たな待ち合わせスポットを目指し、誰かが考え出したのだろう。ただ、安藤さんはこう話した。
「いずれにしても神戸の皆さんが温かく受け入れてくれ、まちの景観や行き交う人を少しでも楽しませることに役立っているのなら、野外彫刻作家として最高の喜びです」
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この記事は神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に寄せられた情報を基に取材しました。