「債務のわな」にかかったスリランカ

中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・債務不履行に陥り、社会不安に見舞われたスリランカ。

・スリランカ、6月時点の対外債務残高は約5兆4,891億円と巨額。

・対中債務は約70億ドルで、中国は二国間では最大の債権国。

昨年、債務不履行に陥り、独立来の経済危機、それに伴う暴動といった社会不安に見舞われたスリランカは、2度の首相経験を有し2022年7月に大統領になったラニル・ウィクラマシンハ氏が日本に債務再編に向けた主導権発揮を要請した。主要7か国(G7)の議長国である日本はこれを受けて、20か国・地域(G20)の議長国であるインドとパリクラブ(主要債権国会議)の設立に動いた。パリクラブは4月中旬に同会議を米ワシントンで開いた。同会議と国際通貨基金(IMF)は協議開始を表明した。

2023年4月末時点のスリランカの外貨準備高は約27億ドル(約4,050億円)で、この額は1.9か月分の輸入必要額に相当するだけだった。

しかし、上記の協議にはスリランカにとって最大の貸し手である中国は参加しなかった。その中国は、中国輸出入銀行が10月中旬にスリランカ財務省と42億ドルの債務処理で合意した。

中国の習近平国家主席は2013年に中国と欧州などを結ぶ巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱。スリランカもその関連プロジェクト開発に乗り出したが、インド洋の要衝といえる同国南部・ハンバントタ港の99年間に及ぶ運営権を中国に譲渡せざるを得ないといった事態に直面したことに見られるように、「債務のわな」にかかってしまった。スリランカの対中債務は約70億ドルで、中国は二国間では最大の債権国だ。

スリランカの6月時点での対外債務残高は365億9400万ドル(約5兆4,891億円)と巨額で、これは2023年の約104億ドルの歳入額の3.5倍に相当する。

内訳は、世界銀行・アジア開発銀行など国際金融機関からの借入が30%、二国間借入が30%、国際ソブリン債(ISB)などが40%。ISBは国際金融機関や二国間の借入に比べ、条件が緩く迅速に調達できるがコストが高く、また5‐10年後にまとめて返済しなければならないという難点が指摘されている。

図1:スリランカの主な外貨収入の推移(出所:日本貿易振興機構=ジェトロ

スリランカでは従来から、中東などへの出稼ぎ労働者からの送金、観光業の収入が外貨獲得で重要となっている(図1参照)。2022年に海外に出国した人数は31万1,000人を超え、統計を取り始めた1986年以降で最多となった。2022年の海外からの送金額は54億9,000万ドル強を記録した。

外国人観光客は2022年、前年比3.7倍の72万人弱となった。新型コロナ感染拡大前の200万人超と比べるとまだまだだが、回復途上にはあるようだ。

スリランカは、中国輸出入銀行との合意が国際通貨基金(IMF)からの融資確保に向けての弾みになると見ており、スリランカ財務省は「今回の景気回復を促すわが国の取り組みで重要な節目となる」としている。

中国の「一帯一路」関連では、ハンバントタ港の開発のほかに、コロンボ沿岸部で金融都市建設を目指す「コロンボ・ポートシティ・プロジェクト」が進められている。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同シティ全体の広さは6.3平方キロで、その51%が居住用、24%がオフィス、13%が小売店、6%が病院になる予定。14万3,000人の雇用創出、人口は27万3,000人を見込んでいるという。

スリランカの対中傾斜を見るインドの目は厳しい。インドは、ハンバントタ港に入港する中国の「調査船」を、インド洋を巡る「スパイ船」と見て警戒している。

トップ写真:コロンボ・ポートシティの模型 2019年11月18日、スリランカ・コロンボ

出典:Photo by Paula Bronstein/Getty Images

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