<レスリング>【特集】2年連続グランドスラム達成なるか、不動の地位確立を目指す日体大

「グランドスラム達成までは」と、チームが優勝しても選手からの胴上げをかたくなに辞退していた日体大・松本慎吾監督。監督就任13年目にして宙を舞ってから、早くも1年がすぎた。2023年内閣総理大臣杯全日本大学選手権は今月18日(土)~19日(日)、大阪・堺市金岡公園体育館で行われる。日体大は、今年も東日本学生リーグ戦と全日本大学グレコローマン選手権を制し、2年連続のグランドスラムに王手をかけている。

目標を達成したことで、胴上げは“解禁”と思われたが、前記2大会とも松本監督の体が舞うことはなかった。“解禁”はグランドスラム達成のときだけ? 同監督はこの問いに、「そんなことはないんですけどね」と苦笑い。選手の方が「監督を胴上げするのは、グランドスラムのときだけ」と気をまわしているようだ。それは、28年ぶりに達成したグランドスラムを「続けるんだ!」という選手の強い意志の表れとも言えよう。

▲大会の3連覇と2年連続グランドスラムを目指す日体大選手(出場は最終エントリーで確定します)

松本監督は「実はね…」と本心を明かした。「部員の全員から胴上げを受けたいんですよ」―。大阪で行われる大会では、全部員が駆け付けることはできない。昨年はコーチやOBを含めて10数人での胴上げだった。

団体戦の結果は、全部員の力の結集。栄光は部員の数で割って全選手に配りたいし、全員から恩返しをしてもらいたい。だが、今大会も大阪開催。優勝できても、その思いは実現できない。それであっても、優勝への思いは変わらない。

来年はオリンピック・イヤー。日体大からはOB選手を含めると男女で4選手の出場が内定しており、さらに数選手の出場枠獲得が目指せる状況。最高の形で今年最後の学生の大会を締めくくり、12月の天皇杯全日本選手権(来春のオリンピック予選の日本代表選考会)へ向けての弾みにしたい気持ちが大きい。

▲湯元健一コーチの指導を受けるフリースタイル選手

両スタイル総合主将の清岡幸大郎(65kg級)は、今大会には出場しない選手を含めてチーム全体で盛り上げる雰囲気をつくっていることを強調し、「そのテンションで大会に臨みたい」と意気込む。全部員の気持ちがこもった胴上げが、今年も実現するか。

この大会を起爆剤としてオリンピック出場を目指す2人の主将

チームの中心になるのが、清岡総合主将とフリースタイル主将の髙橋夢大(86kg級)。ともに昨年優勝のメンバーだが、2人とも個人では優勝を逃している。今年8月の全日本学生選手権で優勝し、学生ナンバーワンの実力をアピールしたのも一緒。今大会は、個人優勝を成し遂げての団体優勝を目指す状況だ。

2人のもう一つの共通点は、ともにオリンピックの出場枠が取れていない階級ということ。全日本選手権で優勝すればアジア&世界予選へと道がつながる。燃え方は半端ではない。

清岡総合主将は「去年は先輩たちの力を借りての優勝でした。今年は自分たちの力での優勝を目指します。出場する一人一人が優勝を目指すのは当然ですが、チームで優勝を目指すという気持ちを念頭において闘ってほしい。その気持ちがしっかり出れば、グランドスラム達成はできるチームだと思います」と言う。

▲オリンピック出場を決めた樋口黎(ミキハウス)と練習する清岡幸大郎

試合に負けることがあっても、「いい試合をすれば、チーム全体の勢いにつながる。(自分は)持っている力を出し切って闘いたいし、他の選手もそう闘ってほしい」と望んだ。

昨年大会のV逸は、負傷で決勝戦を棄権してのものだが、当然、悔しさはあった。それ以上に苦い経験が、今年10月のU23世界選手権(アルバニア)でエジプト選手に思いもかけない逆転フォール負けを喫したこと。「ふがいない試合をしてしまった。その悔しさを晴らして全日本選手権へつなげたい」と、気合を入れた。

大けがからはいあがり、代表権を勝ち取った弓矢暖人

髙橋フリースタイル主将は「グランドスラムの伝統を自分たちの代でも続けるため、練習を積んできました。去年は(個人で3位に終わり)悔しい思いをしているので、きっちり優勝して団体優勝を狙います」と言う。各階級の代表がしっかりと実力を出し切れば、「達成できるメンバーです」と力をこめた。

個人では、昨年の大会と今年のリーグ戦で敗れている五十嵐文彌(山梨学院大)が97kg級にエントリー。今大会での対戦はないが、目標は五十嵐ではなく、全日本選手権であり、オリンピック出場。清岡とともに、大きな目標へ向かっての弾みとしたい大会。

▲全日本学生選手権の両スタイルで優勝し、学生最後の大会に燃える髙橋夢大

57kg級を任されたのは、2021年学生二冠王者の弓矢暖人。昨年の1年生王者で今年の全日本学生選手権優勝の弓矢健人(暖人の弟)でなければ、2年連続U20世界王者の西内悠人でもなかった。弓矢暖人は腰を手術し、半年間、満足に運動もできない状態からカムバックし、部内の参考試合を勝ち抜いた。過去の実績ではなく、実力で勝ち取った代表の座だ。

今春に復帰していきなり57kg級まで落とすのは不安だったので、61kg級で全日本学生選手権(5位)と国体(3位)に出場。“試運転”を終了し、満を持しての出場だ。

「軽量級は伝統的に日体大が強い。今年のインカレも(弟・健人が)取っている。力を発揮すべき大会にけがで出られなかった。その分も含めて、今度の大会で優勝しなければいけないと思います」と、自身の闘志を鼓舞する。

山梨学院大との大接戦が再現されるか

戦列を半年間も離れるほどのけがが発症したのは、昨年の夏。当時3年生であり、弟を含めて後輩に世界に飛躍する若い選手が出現すれば、選手活動からの引退を決意してもおかしくはない。しかし、「けがで駄目になった、とは思われたくない」との思いが、復帰への気持ちを失わせなかった。

追い上げている一人が弟だから、「『応援に回ろうか』という気持ちは?」との問いに、「まったくなかったです。同じ階級のライバルとして、勝つだけでした」ときっぱり。

「けががあったから成長できた、と思われたいですね。61kg級での闘いの経験も役に立っていると思います」と話し、目指すは2年ぶりの優勝。前回の優勝のときは達成できなかった(コロナのためリーグ戦が中止)グランドスラムを目指す。

▲大けがから復帰し、2年ぶりの優勝を目指す弓矢暖人

5月のリーグ戦は、山梨学院大を大接戦の末に下しての優勝だった。試合順が違ったり、何かひとつのきっかけで勝敗が逆転したかもしれない実力伯仲の両チーム。今大会も予断を許さない状況だ。松本監督は「他大学がからんでくる可能性もある」と警戒をゆるめず、「各階級をまかされた選手がしっかり勝って、最終的には優勝という形で貢献してほしい」と選手の奮戦を望んだ。

大会期間中、神奈川に残っている部員の魂は、優勝が決まった瞬間、大阪までの距離をワープ(瞬間移動)し、松本監督の胴上げに加わることだろう。2度目の胴上げが実現するか。

▲U23世界選手権銅メダル獲得の勢いを持ち込み、2連覇を目指す高田煕

▲昨年に続いて61kg級を任される田南部魁星は、11月9日の東日本学生選手権グレコローマン67kg級に出場して優勝。勢いをつけた

▲79kg級は1年生の神谷龍之介の起用。1年生王者を目指す

▲97kg級も1年生で勝負。丸山政陽がチャンスを生かせるか=東日本学生リーグ戦

▲グレコローマン中心の選手だが、チームの優勝のため上位入賞が欠かせない小畑詩音

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