朝潮さんを襲った「小腸がん」実は珍しい病気 早期発見が困難、急がれる治療法の確立 医師が語る

先日、大相撲の元大関・朝潮(長岡末弘さん)がお亡くなりになりました。67歳だったとか。突き押し相撲が持ち味で、私が小学生の頃、よく応援していました。当時最強だった横綱北の湖に強く、テレビを見て何度も歓声を上げたことを記憶しています。死因を聞いて、驚きました。

小腸癌(がん)。あまり、聞きなれない病気だと思います。我々医師にとっても、あまり馴染みのない病名です。医者になって30年が経ちますが、実際に受け持ちをした患者さんは2人だけです。

小腸は、胃の出口から大腸の入り口までの、十二指腸、空腸、回腸の3つの臓器の総称です。十二指腸とは、その名の通り指を12本並べた程度の長さの臓器で、以降の臓器を大まかに2:3で分割して、空腸、回腸としています。胃カメラ、大腸カメラは、世間一般に普及していますが、小腸の検査を本格的にする施設はまだまだ限られています。

小腸の検査方法には、カプセル型の小型カメラを飲み込んで検査をするカプセル内視鏡と直接内視鏡でする小腸内視鏡があります。カプセル内視鏡は飲み込むときの一瞬の違和感があるだけですが、組織検査や治療ができません。小腸内視鏡はかなりの苦痛を伴いますが、直接組織検査をしたり、治療をすることができます。

2001年に小腸内視鏡が開発され、2003年に実用化されました。もう20年が経ちますが、私のような町医者で、小腸内視鏡を施行しているところは知る限りではありません。大病院においても小腸内視鏡をしているところは限られており、まだまだブラックボックス的な臓器であることは払拭できていいないのが現状です。

小腸癌の症状ですが、かなり進行するまでは何も出ません。かなり進行すると、貧血、狭窄による嘔気、嘔吐、腹部膨満などの症状が出現します。検査ができにくい上に、症例が少ないために確立された治療法がないのです。現在、がんセンターなどの施設で様々な解析が施行され、治療法の改善、確立が急ピッチで進められています。

一方で、ある遺伝子タイプの小腸癌は、免疫チェックポイント阻害剤などの抗がん剤を使用することで良好な治療成績が得られています。これからも治療成績の改善が見込まれる領域だと思われますが、我々医師にとって課題の多い病気だと思います。

◆谷光利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。

© 株式会社神戸新聞社