<レスリング>【特集】4年ぶりの優勝を目指せる戦力は十分、リーグ戦での惜敗の雪辱を目指す山梨学院大…全日本大学選手権へ向けて

今年5月の東日本学生リーグ戦。山梨学院大はわずかの差で日体大に屈し、優勝を逃した。最後の2階級を勝ったものの、チームの勝敗が決まったあとのこと。日体大陣営からも「試合順が違っていたら、分からなかった」という声があがるほど、何かひとつが違っていれば流れが変わり、勝敗は逆転していた可能性のある大接戦だった。

試合後、5-0のリードを守れずに敗れた65kg級の荻野海志は、人目をはばからずに号泣した。高橋侑希コーチは、あふれそうな涙を押さえて選手の健闘をねぎらった。それらの光景から、選手は何を感じ取ったか。

▲5月の東日本学生リーグ戦。青柳善の輔主将が勝って盛り上がった山梨学院大応援席だったが…

あの悔しさから半年。大学日本一を決める闘い、内閣総理大臣杯全日本大学選手権がやってくる(11月18~19日、大阪・堺市金岡公園体育館)。青柳善の輔主将は、8月の全日本学生選手権では1階級上の74kg級で優勝する実力をつけ、秋にはシニアとU23の世界選手権を経験。後者は銀メダルを獲得するなど世界で通用するまでに力を伸ばした。

昨年1年生王者に輝いた荻野と五十嵐文彌も飛躍した。荻野はU20世界選手権を経験し(5位)、国体で優勝。五十嵐はU20世界選手権で銀メダルを獲得し、国体は3位(準決勝で負傷棄権)。

さらに、昨年は57kg級に出場し、減量の失敗もあって初戦敗退の不覚を喫した小野正之助は、61kg級で実力を発揮。全日本学生選手権と国体を制して、あらためて地力を示した。両大会とも、今度の大会で日体大代表が予定されている田南部魁星を破っている。日体大のグランドスラムを阻止し、4年ぶりの優勝を目指せる戦力はそろっている。

▲2019年以来の優勝を目指す山梨学院大チーム

重量級2階級の結果が、優勝チームを決める?

小幡邦彦監督は「各選手がベストの力を出せば、団体優勝できる力はあると思います。一人、一人がしっかり闘うことで、団体優勝につなげてほしい」と期待する。

かぎとなるのは、重量級の2階級。97kg級は選手が不在なので、本来は86kg級の五十嵐を起用する予定。125kg級は“助っ人留学生”のアビレイ・ソビィット。五十嵐には92kg級でアジア選手権を制して世界5位にまでなった吉田アラシ(日大)、ソビィットには全日本学生選手権で敗れたバトバヤル・ナムバルダグワ(育英大)という、日体大以外の強敵がおり、その壁をかいくぐって上位に進むことが団体優勝へ道だ。

五十嵐はこれまで97kg級で闘ったことはないので、不利は否めまい。しかし、リーグ戦では86kg級に落とした吉田と対戦し、7-7の同スコアでの惜敗。0-5の劣勢から盛り返した粘りは特筆もので、同監督は「7点取られましたが、テークダウンをされたのは1回だけ。勝算は十分にあります」と言う。

▲リーグ戦で吉田アラシと真っ向から闘った五十嵐文彌。97kg級での闘いで殊勲を挙げるか

ソビィットは全日本学生選手権でナムバルダグワに敗れたが、1-3のスコアであり、テクニカルポイントは取られていない。日体大代表が予定されている小畑詩音にはリーグ戦で8-2と快勝しているので、ここは優勝が期待できる階級だ。

97kg級には全日本学生選手権優勝の濱田豊喜(中大)、125kg級には昨年の全日本選手権2位でJOCジュニアオリンピック優勝の藤田龍星(日大)もいるので、日体大がこの2階級で対抗得点0点か、それに近い得点になる可能性もある(山梨学院大にも可能性はあるわけだが…)。

▲全日本学生選手権V逸の雪辱なるか、アビレイ・ソビィット

世界で通じる実力をつけた70kg級・青柳善の輔主将

対抗得点で「0点」の階級(9位以下)があると、優勝の可能性がぐっと低くなるのがこの大会。重量級の2階級の行方が、優勝チームを左右する状況と言えよう。

小幡監督は、過去に、まったくのダークホースだった日大が優勝したり(2014年)、1階級も個人優勝のなかった拓大が優勝したり(2017年)、エース乙黒拓斗を負傷で欠いて期待は例年より低かった自チームが勝ったこと(2019年)などの例を挙げ、この大会の特性を口にする。他大学の戦力を考えるより、「自分たちのレスリングをやって、各選手が一つでも上を目指してほしい」と期待した。

青柳主将は「各大学が総力戦で挑む大会。楽しみです」と言う。74kg級学生王者として、70kg級での闘いでは負けるわけにはいなかい。「自分が優勝を逃したら、チームの優勝はないでしょう」と話し、“最低でも優勝”が目標。この秋はシニアとU23の世界選手権を経験し、「去年より強くなっていることを実感します。学生最後の大会なので個人、チームとも全力で頑張りたいと思います」と気合をこめた。

チーム事情で74kg級の佐藤匡記(U23世界選手権79kg級7位)が86kg級に起用される状況だが、4年生であり、「周囲が思う以上に闘ってくれると思います」と期待する。

▲U23とシニアの世界選手権を経験した青柳善の輔主将。団体優勝へ向けてチームを牽引する

リーグ戦での痛恨の逆転負けの借りを返す!…65kg級・荻野海志

65kg級で2連覇を目指す荻野は「リーグ戦では、全大学の選手がいるところで、(チームの)負けを決める試合をしてしまった。その借りを返したい」と、半年前の屈辱を自ら話し初め、その雪辱を宣言した。

清岡幸大郎(日体大)を相手に5-0とリードしながら、逆転された試合。5点差がついたとき、逃げ切りに入る気持ちはまったくなく、むしろ「テクニカルスペリオリティで試合を終わらせるつもりだった」と言う。10点差を目指して仕掛けたそり投げが失敗し、「そこで、てんぱったというか、焦ってしまった」のが敗因。焦りが体の“ばて”につながり、いつしか逆転されてしまったと振り返る。

「攻撃しての負けだから、その部分は評価できるのでは?」との問いに、「負けに合格点はありません」ときっぱり。「自分の思い通りにいかないとき、パニックに陥ってしまう弱点が分かりました」と分析。清岡と再戦することがあれば、今度も接戦の思い通りにならない展開になると予想し、「経験を生かしたい」と話した。

▲リーグ戦での痛恨の黒星の雪辱を誓う荻野海志

「U20世界選手権で得ることが多かった。国体優勝を含めてこの3ヶ月間、とても成長できていると思っています」と話し、パリ・オリンピックにつながる12月の全日本選手権での優勝を目指すためにも、今大会での優勝を誓った。

「若い時は短期間でも成長する」…小幡邦彦監督

1階級上の97kg級に挑む五十嵐は「スピードを生かして闘いたいと思います」と言う。「強敵は吉田アラシ…」と聞くと、その言葉をさえぎって、「アラシ以外にも強い選手はたくさんいます。アラシのところまで行けるかどうか」と謙そん。

リーグ戦での吉田との7-7の激闘に水を向けられても、「普通に負けました。今度の大会で闘うことがあれば、胸を借りるつもりで頑張ります」と、終始一貫して「挑む立場」を強調。「守るものはないので、思い切っていきます」と、チャレンジャー魂で臨むことを宣言した。

▲階級が下の青柳善の輔主将と練習する五十嵐文彌。今大会はスピードで相手を翻ろうする?

小幡監督は自身の現役時代を振り返り、「若い時は短期間でも成長する」と言う。

大学1年生(1999年)のときの国体で、前年の全日本王者だった太田拓弥(現中大コーチ=1996年アトランタ・オリンピック3位)にテクニカルフォール(現テクニカルスペリオリティ)で敗れながら、約2ヶ月後の全日本選手権では3-2で勝利した。「年をとってからは、一気に伸びることは少ないと思いますが、若いときはありえるんです」と話し、若いチームに期待した。

▲リーグ戦に続いて57kg級を任される1年生の勝目大翔。高橋侑希コーチのアドバイスを受ける

▲61kg級代表予定の小野正之助は、日体大代表予定の田南部魁星に2連勝中。今年3度目の激突が実現すれば、どちらの手が上がるか=撮影・保高幸子

▲6月の東日本学生春季選手権は86kg級で優勝した佐藤匡記。本来より上の階級で勝つことができるか

▲74kg級は全日本選手権決勝で闘った経験もある鈴木大樹。初の全日本学生のタイトルを目指す=2022年全日本選手権

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