森田が初優勝 篠崎は女子大会新 おかやまマラソン

独走で男子初優勝を飾った森田雄貴=38キロ付近(左)=と大会新で初の頂点に立った女子の篠崎理紗=シティライトスタジアム

 「おかやまマラソン2023」は12日、岡山市街地を巡りシティライトスタジアムでゴールする日本陸連公認コースで行われ、フルマラソンの男子は森田雄貴(岡山・東京大)が2時間21分8秒で初優勝を飾り、女子は篠崎理紗(埼玉・不動岡ク)が2時間44分5秒の大会新記録で初の頂点に立った。

 森田は中間点過ぎで先頭集団を抜け出すと、そのまま独走態勢を築いて逃げ切った。篠崎は30キロ手前で2位以下を引き離し、従来の大会記録(2時間48分10秒)を大幅に更新した。

 男子は森田と29秒差の2位に増山和哉(岡山・旭化成水島)が入り、荒幡寛人(埼玉・SPC RC)が3位。女子は3位までが大会記録を塗り替え、高橋真紀(和歌山・モクレンRC)が2時間44分33秒で2位、高野温菜(東京・PTC)が2時間45分44秒で3位だった。岡山勢の最高は6位の高見望絵(岡山・UDC)。

 スタート時(午前8時45分、ジップアリーナ岡山前)のコンディションは曇り、気温11.6度、湿度87%。微風。

森田、積極果敢な仕掛け結実

 故郷でうれしい陸上人生初タイトルをつかみ取った。男子は岡山市出身の森田が制し、「3位だった前回の悔しさがずっとあった。支えてくれた人たちに成長を見せられた」。雪辱の思いも力に表彰台のてっぺんを射止めた。

 積極果敢な仕掛けが実を結んだ。前半は先頭集団がスローペースでけん制し合う中、「一度レースを動かそう」と22キロ付近でギアチェンジ。ライバルをふるいにかけつつ様子を見るつもりだったが「思ったより自分の体が動いたのと、周りがきつそうだったので」。とっさの判断で一気に飛び出すと、そのまま長い単独走を押し切った。

 一宮高、東京理大を経て東大大学院で運動生理学を専攻する23歳。自らも被験者にパフォーマンス向上の研究に打ち込み、専門の3000メートル障害では9月に日本インカレ初出場を果たした。

 来春からスポーツメーカーに就職し、開発に携わる。「自分が関わった商品を身に着けて活躍するのが夢」。遅咲きの花を咲かせつつある“走る研究者”は、トラックとロードでさらなる挑戦を続ける。

篠崎、4度目岡山路で目標達成

 153センチの体の両腕を目いっぱい広げ、栄光のゴールテープを切った篠崎の笑顔に驚きが入り交じった。女子の大会記録と、自己ベストをそれぞれ4分以上短縮する2時間44分5秒。「45分切りは高い目標だった。びっくり」と繰り返した。

 4度目の岡山路は過去5、3、3位。「大好きなコース。勝ってみたかった」。先行した実力者の高橋と高野を10キロ過ぎで捉えると「絶対に離されない」と集中を高め、1キロ3分10秒台を刻む。徐々に遅れた2人を30キロ手前から引き離した。

 埼玉県出身。10代で初マラソンを走り、就職後は旅情にも駆り立てられ全国を転戦する。これが56度目の42.195キロだった31歳は「楽んで走ることが信条」だ。先頭争いのさなかに「食べると決めていた」給食のシャインマスカットに手を伸ばし、ペースが落ちかけた終盤は「岡山城の景観に元気をもらった」。

 47都道府県“走破”にも挑戦中だが「楽しくてリピートする大会が増え進まない」と笑う。1カ月後に控える次戦の奈良マラソンの抱負も「鹿と走りたい」とらしさ満点だった。

増山、40歳自己新に「びっくり」

 望外の準優勝だ。自己記録を6分半以上更新し、初出場した前回10位からジャンプアップした男子の増山。「申し分ない成績。本当にびっくり」と目を丸くした。

 5人による2位争いを抜け出したのは終盤の38キロ付近。「残った力を全て出す」と渾身(こんしん)のスパートをかけ、後続を振り切った。40歳のベテランは、入賞を逃した昨年の大会でスタミナ不足を痛感。以来、月600キロの走り込みなどで持久力を強化してきたという。

 熊本・千原台高で全国高校総体5000メートルで4位に入り、強豪・旭化成に入社。しかし、故障も重なり目立った成績は残せなかった。第一線を退いたのを機に15年前、倉敷市の事業所に異動し、現在は旭化成水島の選手兼監督を務める。

 指導する若手も出場する中、真っ先にゴールテープを切り「少しはかっこいい背中を見せられたかな」とにこやかに笑った。

高橋、鉄人レース実力者「満足」

 「鉄人レース」の実力者が初の岡山路を疾走した。終盤首位を猛追した女子2位の高橋は「今の最大限は出せたので満足」と爽やかに話した。

 和歌山県出身の32歳はトライアスロンの日本選手権佐渡大会を2018、19年に2連覇した実績を誇る。5キロごとのラップタイムは過酷なレースで培った体力を武器に入賞者で唯一、全て20分切り。後半もスピードは衰えず、35キロ地点で1分27秒あった先頭との差を最後は28秒にまで詰めた。

 家族の応援も励みになった。トライアスロンの国体岡山県代表歴を持つ夫でコーチの正俊さん(31)=倉敷市出身=がこの日は伴走。ゴール地点のシティライトスタジアムのスタンドにはまな娘の蘭ちゃん(1)の姿もあった。

 「しっかり成績を残せて産後で感じていた不安が吹き飛んだ」。来季、本格復帰を目指す本職へ確かな手応えを得た42.195キロだった。

荒幡、最終盤粘り表彰台譲らず

 「最後まで本当に楽しいレースでした」。男子で初出場した荒幡は目標の入賞を上回る銅メダルを手にし、笑顔で振り返った。

 2位をキープしていた35キロ付近で3位集団に吸収されたが「1人の時よりも走りのリズムを整えられた」。勝負どころのレース最終盤に向けて力をためると、ラスト2キロから一気にギアを上げ、表彰台は譲らなかった。

 マラソンの魅力にレース中の駆け引きを挙げる26歳は東京で会社勤めの傍ら、クラブチームで腕を磨く。初陣の岡山路を上々の成績で飾り、「自己ベスト(2時間21分41秒)を更新して優勝したい」と早くも次回の目標を口にした。

高野、悔しさと安堵交錯 涙のゴール

 前回準優勝の雪辱を果たせなかった悔しさと完走できた安堵(あんど)が交錯した。ゴール直後、女子3位の高野からあふれ出たのは大粒の涙だった。

 9月に左足を痛め、1週間前には「歩くのもきつい」ほど悪化。それでも東京・順天高で全国高校駅伝を経験している28歳は「スタートラインに立ったからには」と覚悟を決め、序盤から先頭争いを繰り広げた。35キロ付近でペースダウンしたが、前回から4分近くタイムを縮め、17度目のフルマラソンを走り切った。

 「来年は2時間40分を切る」。社会人になってからも時間を見つけては走り込む練習の虫は、次こそ歓喜の涙を流すつもりだ。

男子で準優勝した増山和哉(左)と女子で2位に入った高橋真紀
荒幡寛人(左)と高野温菜

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