35歳転職者「年間休日」について質問したら、内定取り消し…「就業規則」も見せない“理不尽すぎる”会社を訴えた結末

年間休日は従業員にとって重要な情報だが…(K+K / PIXTA)

理不尽に内定を取り消された事件を解説します。(弁護士・林 孝匡)

かいつまめば以下のとおり。

内定が出て、入社当日。

会社
「この雇用契約書にサインしてください」

Xさん
「休日数が書かれてないのですが...。前から私が懸念していた点なのですが、年間105日程度休日があるという話でしたよね?」

会社
「人によって違うから」

Xさん
「就業規則を見せてください」

会社
「自宅待機してください。今日は帰ってください」

そして翌日、内定取り消しのメールが届きました...。

裁判所は「この内定取り消しは無効! 129万超を払え」と判断。以下、わかりやすく解説します。(G.Oホールディングス事件:大阪地裁 R5.1.27)

※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

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▼ 会社
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・化粧品、プロテイン食品などを製造、卸売りをする会社

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▼ Xさん
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・35歳くらい
・転職で内定をもらう

どんな事件か

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▼ 面接に合格
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令和2年9月
Xさんは2回の面接を経て合格します。会社から「正社員として採用する」とLINE送信がありました。そこにはこんな内容も記載されていました。

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・給与
週5日勤務:総支給21万5000円
週6日勤務:総支給26万5000円

・休日
ゴールデンウィーク、盆休み、正月休み
それ以外の祝日は全日出勤
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Xさんは「休日は年間何日なんだろう?」など疑問を感じたようです。

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▼ 労働基準監督署に相談
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そこで、労働基準監督署にいき、最低賃金法違反の有無などについて相談しました。しかし、労基からは「一概には判断できない」と回答されました。

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▼ 内定を受諾
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10月11日
Xさんは内定を受諾します。「このたび頂きました内定を謹んでお受けさせて頂きたく思います」と送信しました。

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▼ 年間休日を再確認
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Xさんは年間休日について確認したくLINE送信しました。年間休日が105日に達しない場合もあるのでは...という懸念です。会社側は「Xさんが受諾した勤務条件に照らした雇用契約書を作成することになる」旨返信。Xさんは「詳細については雇用契約書で確認させていただきます」とLINE送信しました。

この雇用契約書がイザコザの源となります。

10月13日
Xさんは改めて内定を受諾。入社日は11月9日となりました。

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▼ 入社当日
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11月9日
Xさんは、会社から渡された雇用契約書を見て「話が違うじゃないか...」と思いました。違うと感じたのは以下の2点です。

■ 1. 有期雇用のように読みととれる
契約書には「期間の定め有(令和2年11月9日〜令和3年12月31日)」と書かれていました。

■ 2. 休日数が書かれていない
休日として「日曜日、夏季休暇〜」などの記載はあったのですが休日数が書かれていなかったのです。

休日数を書く義務はないのですが、Xさんはここに危なさを感じました。「年間105日程度休日があるという話でしたよね?」と質問したところ、会社は「人によって違うから」と答えました。

また、Xさんは「雇用期間がない」と記載してほしいとお願いしましたが、会社は応じませんでした。

Xさんは、就業規則を見せてほしい、とお願いしましたが、上司はXさんに自宅待機を命じました(いや、見せろよ)。Xさんは泣く泣く帰宅しました。

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▼ 内定を取り消される
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会社はいろいろと申し出てくるXさんがウザかったのでしょう。

翌日の11月10日。会社がXさんに以下のメールを送信しました。

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「本件に関しては、雇用条件についての話し合いにおいて互いに意思疎通がうまく機能しなかったため内定条件に合意できなかったと認識しております。(中略)大変申し訳ありませんが内定は取り消しとさせていただきます」
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Xさんは「内定取り消しは無効だ」と求めて提訴。

ジャッジ

弁護士JP編集部

裁判所は「内定取り消しは無効」と判断しました。

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▼ 基礎知識
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内定の取り消しが認められるのって、めちゃくちゃムズイんです。日本の法律では解雇するのはめちゃくちゃ難しいのですが(労働契約法第16条)、内定の取り消しは解雇に匹敵する難しさです。

なぜなら、内定=契約だからです。正式名称は「始期付解約権留保付労働契約」と言います。かまずに言えたことがありません。今後もないでしょう。で、【内定を取り消す=契約を一方的に破棄する】なので、そんなカンタンには認められないのです。

Q.
どんな場合に内定の取り消しがOKになるんですか?

林.
「こいつ、こんなヤベーやつだったんだ! 知らなかったわ...」って時です。最高裁は以下のケースだったら内定取り消しはOKになると言ってます。

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採用内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当して是認することができる場合(大日本印刷事件:最高裁 S54.7.20)
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▼ 今回のケース
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会社はこんな反論をしました。
・Xさんは入社当日に出社時刻より1時間も早く出社した
・印鑑を持ってくるのを忘れた
・謝罪や弁解を一切しなかった
・Xさんが一方的に自らの主張をまくしたてた...etc

しかし裁判所は、Xさんは謝罪してたし、勤務条件の整合性について説明を求めたことも合理的だと判断し、「内定の取り消しは客観的に合理的とは認められず、社会通念上相当とは言えず無効」と判断しました。

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▼ バックペイ
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内定の取り消しが無効となると、会社にバックペイが襲いかかります。バックペイとは「これまでの給料を払え」ってことです。

詳細は割愛しますが、今回、裁判所は会社に対しておおむね【内定取消日から判決確定まで、26万5000円/月】の支払いを命じました。

バックペイの理屈は、内定の取り消しは無効だからXさんはまだ社員だ、だから給料を払えというものです。【判決確定まで】というのがキョーレツです。たとえば裁判が10年続いて会社が負けると、会社は10年分の給料を払わなければなりません。私なら法廷で泣き崩れますね。なので、会社さん。内定取り消しや解雇は慎重に検討しましょう。

ほかの裁判例

今回は、内定の成立が認定されましたが、「これは内定とは言えない」と判断されたケースもあります。フワフワした話が進んでいるだけでは内定とは認められないんです。

(例)内定取り消され会社に「230万円」請求… 土木施工管理技士の訴えを裁判所が認めなかった“納得の理由”

相談するところ

今回のXさんのように、最後の最後で理不尽に内定を取り消される方もいるかもしれません。そんな時は、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

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