医療情報システム(EMR・EHR)市場に関する調査を実施(2023年)~2022年度の医療情報システム市場規模は前年度比0.4%増の2,892億円と推計、2022年度のクラウド型電子カルテ市場は94億円、電子カルテ市場全体の7.2%と拡大は加速~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、国内の医療情報システム市場を調査し、セグメント別の市場動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。

1.市場概況

医療情報システム(EMR:Electronic Medical Record、EHR:Electronic Health Record)は、業務効率化や情報連携を図るシステムとして、医療施設(病院や一般診療所)に導入されている。市場は電子カルテを中核に形成されており、医療における大きな変革にIT化は不可欠なツールとなっている。
また、2010年には診療録の外部保存が解禁されたことで民間事業者側のデータセンター等での診療情報の保管が認められた。これを受けて従来のオンプレミス型のみならず、クラウド型の電子カルテや医用画像管理システム(PACS)の市場も形成されており、普及が進んでいる。

医療情報システム市場は、多くのシステムで普及率が高まったことで新規導入中心からリプレイス中心の市場に移り、近年の市場規模は概ね前年度比1~2%増の推移となっていた。
2020年度の医療情報システム市場はコロナ禍の影響による導入遅延などから前年度比3.1%減となった。2021年度はその反動から市場規模は前年度比2.4%増、2022年度の医療情報システム市場規模(事業者売上高ベース)は医用画像関連システムが低調であったこともあり、同0.4%増の2,891億6,300万円と小幅成長となった。

2.注目トピック~クラウド型電子カルテの市場拡大が進む

クラウド型電子カルテのメインターゲットは、一般診療所および、一般病院のうち中小規模病院となっており、当該施設での電子カルテの普及に貢献している。
一般診療所においては、新規開業の診療所におけるクラウド型電子カルテの採用率が急速に拡大している。また、中小規模病院においても、経営状態が厳しい中でも医師や看護師等の人材確保の観点から電子カルテ化のニーズは高く、初期費用や人的負担が抑えられるクラウド型電子カルテを採用する施設が増加している。
さらに近年では、大規模病院向けクラウド型電子カルテの上市や大学病院におけるクラウド型電子カルテの採用もみられる。

以上のような状況の中、2022年度の電子カルテ市場規模(一般病院向けおよび一般診療所向けの合計、事業者売上高ベース)を1,307億3,800万円と推計した。オンプレミス型とクラウド型の内訳をみると、クラウド型電子カルテ市場は93億7,900万円と全体の7.2%を占め、クラフド型の拡大は加速している。一方、今後、オンプレミス型電子カルテ市場規模は縮小に転じると予測する。

3.将来展望

医療情報システムは多くの市場でリプレイス中心であることは変わらず、2023年度以降の市場成長率は前年度比1%増程度の低い水準で推移する見通しである。

普及の途上である電子カルテについては、クラウド型電子カルテの市場拡大が加速すると予測する。従来、ターゲットではなかった大学病院・大規模病院向けのクラウド型展開も見られるようになっていることで、クラウド型電子カルテ普及がさらに後押しされると考える。
また、一般診療所向けのクラウド型電子カルテは、Web問診や診療予約、オンライン診療といった機能(オプション機能としての提供を含む)を搭載していることも多く、医療ICTのツールとしての側面も持つ。このようなことから、クラウド型電子カルテの普及は、医療におけるICT導入を後押しすると考える。

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