「後継者不在率」が初の60%超え 円滑な廃業実務の見直しも必要

~ 2023年「後継者不在率」調査 ~

経営者の高齢化と事業承継が問題になるなか、2023年の「後継者不在率」は61.09%で、初めて60%を超えた。前年から1.19ポイント上昇した。政府や自治体、金融機関などの創業支援で若い経営者が増え、事業承継の時期にない企業の割合が上昇したことも一因とみられる。ただ、経営者が高齢で後継者不在の企業は残されており、廃業や事業譲渡など倒産以外の選択肢に動けない企業の増加も懸念される。

後継者不在率は、調査を開始した2019年が55.61%で、2020年が57.53%、2021年が58.62%、2022年が59.90%と右肩上がりで推移してきた。後継者不在率の増減には様々な要因が絡み、単純に上昇をネガティブに捉えることはできない。ただ、代表者年齢が60代の企業の後継者不在率は46.18%、70代で30.53%、80歳以上で23.83%と、深刻な状況を示している。
円滑な事業承継には数年以上の期間が必要とされるだけに、代表者が高齢なほど事業承継に向けた十分な期間の確保が難しくなる。
事業承継には、金融機関やリース債務の個人保証の取り扱い、企業理念の伝承(改変)、従業員への説明、取引先の理解など、数多くのステップがある。拙速な承継判断は、これらに対応できないまま事業価値の毀損に繋がりかねず、企業価値の合意形成に禍根を残す可能性もある。
このため、代表者が高齢の企業を中心に、ライフステージと意向に寄り添う支援推進が必要だ。

※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(約400万社)のうち、2021年以降の後継者に関する情報が蓄積されているデータから17万1,045社を抽出、分析した。
※「後継者不在率」は事業実態が確認できた企業を対象に、後継者が決まっていない企業の割合を示す。


産業別 トップは情報通信業の77.33%

「後継者不在率」を産業別でみると、10産業すべてで50.0%を上回った。
最高は、情報通信業の77.33%(前年76.93%)で、前年を0.40ポイント上回った。代表者が比較的若いソフトウェア開発などが含まれることが不在率を押し上げたとみられる。

「同族継承」が65.00%

後継者「有り」の6万6,552社の内訳は、息子、娘などの「同族継承」が4万3,257社(構成比65.00%)で最も多かった。
以下、社外の人材に承継する「外部招聘」が1万2,055社(同18.11%)、従業員に承継する「内部昇進」が1万938社(同16.44%)と続く。

「後継者不在」企業 「検討中」が48.16%

後継者不在の10万4,493社に、中長期的な承継希望先を尋ねた。
最多は、「未定・検討中」で5万333社(構成比48.16%)だった。事業承継の方針が明確でない、計画が立たない企業が依然として多い。
次いで、「設立・交代して浅い又は若年者にて未定」の4万7,886社(同45.82%)で、大きく離れて「社内で人材を育成する方針」の3,298社(同3.15%)と続く。
一方、「廃業・解散・整理(予定含む)にて不要」は599社(同0.57%)だった。

代表者が80歳以上は23.83%が後継者不在

代表者の年齢別では、不在率の最高は30歳未満の96.32%だった。創業や事業承継から日が浅く、後継者を選定する必要がなく不在率が高い。以下、30代の92.83%、40代の86.71%、50代の70.53%と続く。
50代までは後継者「不在」が「有り」を上回るが、60代以降で逆転する。ただ、80歳以上の不在率は23.83%、70代でも30.53%にのぼる。
前章で「後継者不在」企業のうち、「廃業・解散・整理(予定含む)にて不要」との回答は全体の0.57%にとどまった。代表者が高齢の企業の多くが事業承継を判断しないまま、対応できていない実態が浮かび上がる。

業種別 不在率ワースト(高い)はIT関連

業種別(母数20以上)でみると、不在率の最高(ワースト)はインターネット附随サービス業の90.44%で、唯一9割を超えた。上位10業種をみると、インターネット通販を含む無店舗小売業や情報サービス業、通信業などが並ぶ。
不在率が低いのは、協同組織金融業の28.04%、宗教の33.33%、協同組合の34.03%など。

都道府県別 地域によって大きな開き

「後継者不在率」の最高は、神奈川県の74.78%(前年74.50%)だった。次いで、東京都の71.96%(同71.33%)で、2都県が70%を超えた。企業が多く設立される大都市ほど、後継者の不在率が高い。最低は、長崎県の31.36%(同28.57%)だった。


2023年の「後継者不在率」が初めて60%を超えた。一方、2022年の新設法人数は14万2,189社で、2021年に次いで過去2番目の高水準だった(2022年「全国新設法人動向」調査、2023年5月16日公表)。こうした新設法人の増加で代表者年齢が若く、事業承継を考える時期にない企業が相対的に増加したことも後継者不在率を押し上げる要因になっていると考えられる。
今回の調査で、代表者が80歳以上では23.83%の企業が後継者不在だった。こうした企業では、円滑な事業承継や廃業ではない形で将来的に市場からの退場を余儀なくされるケースも少なくないとみられる。経営者が廃業を望んでも弁済できない債務が残る限り、私的整理や法的倒産などで清算する事態に直面する。
コロナ禍の支援で過剰債務に陥っている企業は多い。こうした廃業と倒産が紙一重の企業も対象に、2022年4月に準則型私的整理の「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の運用が開始された。だが、「廃業型」でも最終的に特別清算を申請するケースも散見され、私的整理のみで完結するとは言い難い。また、債務の中心が税金や社会保険料の場合は、準則型でも対応が難しい。
代表者が高齢の企業では、事業承継か廃業かの判断に残された時間は長くない。「大廃業時代」を前に、これまでの対応策は円滑に機能しているのか、再点検も必要だ。

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