個性豊かなビールを丁寧に…「地ビール」から「クラフトビール」へ転換 国内外にファンを持つ「コエド」

コエドが受賞した品評会の表彰状を背景に並ぶ定番商品6種類

 職人たちが丹精込めて醸造したビールを提供している「COEDO(コエド)」。国内ではクラフトビールの先駆けとして確かな地位を築き、アジアや欧州など海外にも多くのファンを持つ。ブランドを展開するのは、埼玉県川越市に本社がある協同商事。2009年、2代目社長に就任した朝霧(あさぎり)重治(50)は「個性豊かなビールを丁寧に造り、提案してきた」と歩みを語る。

 協同商事は朝霧の義父・故幸嘉(ゆきよし)が1975年に始めた青果の産直事業を起源とする総合食品企業。94年の酒税法改正で小規模事業者のビール製造が解禁されると、全国に地ビールが生まれ、協同商事も96年に参入した。川越名物のサツマイモを原料に使ったビール(酒税法では発泡酒)を醸造し、ヒット商品となった。

 だがその後、地ビールブームは下火に。妻の実家が営む協同商事を継ぐために入社していた朝霧は、苦しくなるビール事業をつぶさに見てきた。「観光地の土産的な位置付けで、生活に取り入れてもらうことから離れてしまった結果。微生物を扱うビール造りは難しいが、未熟な技術の商品も少なくなかった」。地ビール業界が行き詰まった原因を分析する。

 撤退も検討したが、2006年に新たなコンセプトで再出発を図る。当時の日本では一般的でなかった「クラフトビール」で、職人の手造りによる高品質を打ち出したブランド「コエド」への衣替えだ。

 1997年から5年間、ビールの本場ドイツの国家資格であるブラウマイスターの4代目クリスチャン・ミッターバウアーを社員として招き、職人を育成した。クラフトビールは米国では市民権を得ていたが、「この言葉を意識して使ったのは、国内では私たちが一番早いのではないか。技術者集団という基礎があったからやり直せた」と朝霧は言う。

 原点のサツマイモを用いた「紅赤」など、個性の異なる5種類(2017年から6種類)の定番商品を発表。世界のビール品評会にも挑戦し、数々の賞を受賞した。13人の職人たちは、数量限定やコーヒー専門店と企画した商品なども開発している。

 2016年には醸造所を東松山市へ移し、4年前から敷地内でビールの主原料である大麦の実験栽培にも取り組む。醸造職人の目黒匠(39)は「自社の畑から収穫した大麦100%でビールを造りたい」と夢を抱く。協同商事は農業を出発点に食のサイクル全てに携わっており、朝霧は「原料から関わり、地産地消に貢献することがコエドの価値」と応じた。(敬称略)

■県内の醸造所が急増

 埼玉県物産観光協会によると、県内の税務署からビールや発泡酒で酒類製造免許を取得している事業者は、8月末で28社。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年に同協会が把握していた数は12社で、2倍以上に増えた。急増の理由について、専務理事の桜井正道(66)は「埼玉は水質が良く、人口が多いことが考えられる」と話す。

 クラフトビール業界で近年目立つのが、従来の地ビールメーカーよりも規模が小さいマイクロブルワリーの参入だ。これらの事業者は商品を流通ルートに乗せることが難しく、そもそも通常の販売方法とは一線を画す醸造所も少なくない。造った場所かその周辺で、地域の人々に消費してもらうスタイルだ。桜井は「こうした業態に埼玉はマッチした土地」と指摘する。

 原料に地元の農産物を用いた銘柄が多いのも特徴。捨てられていたニンジンの葉を使い、持続可能な開発目標(SDGs)にも取り組むなど、新しい醸造所ほど遊び心や柔軟な発想で地域の素材を採用する傾向にあるという。

 ただ、定着するには埼玉の魅力とともに発信し、県外から訪れてもらえる工夫が欠かせない。桜井は「試飲会や各銘柄を集めたパブを開店するなど、次の展開が必要だろう」との認識を示した。

ビールの出来を確かめる朝霧重治(右)と目黒匠=埼玉県東松山市大谷のCOEDOクラフトビール醸造所

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