ソニー SRG-AシリーズのオートフレーミングとFR7のバーチャルスタジオが実現する映像制作の未来 Vol.06[PTZ Camera Review]

ソニーが展開するリモートカメラのラインナップは、コストパフォーマンスに優れたビジネスモデルの「SRGシリーズ」、映像制作に適したハイエンドモデルの「BRCシリーズ」、そしてフルサイズセンサーを搭載しレンズ交換可能なCinema Lineカメラ「FR7」の3種類がある。

SRG-Aシリーズ「PTZオートフレーミングカメラ」リモートカメラの未来を感じさせる"撮ってくれるカメラ"

それらの中でも、2023年6月に発売されたSRG-Aシリーズ(SRG-A40/12)は先に挙げたビジネス領域と映像制作領域の中間に位置づけされる製品だ。

通常は、付属する赤外線リモコンや別売のリモートコントローラーを用いて、オペレーターがリモートカメラを動かし被写体の撮影を行う。

一方、「SRG-Aシリーズ」は、カメラ自体が被写体を的確に捉えて自動的にフレーミングし、自然なカメラワークで撮ってくれる「PTZオートフレーミング」機能を搭載している。

この「PTZオートフレーミング」は、カメラに実装されたソニー独自のAIアルゴリズムがリアルタイムに人物の骨格検出や頭部位置検出を行い、被写体の動きを予測しながらインテリジェントな処理を行うことで、非常に高い精度でフレーミング処理を行うもの。

また、単なる自動追尾ではなく、映像を見ている人にとってなめらかな動きと心地よい画角で、対象を画面内に捉えることができる。

例えば、パン(水平方向)、チルト(上下方向)に加え、ズーム(前後方向)の3軸の制御を自動かつ高精度に行ってくれるので、被写体が左右に動きながら前後するといった複雑な動きをした場合でも、まるでカメラマンが撮っているかのような自然な構図を維持してくれる。逆に、軽いお辞儀といった被写体の微細な動きにビビッドに反応することはなく、とてもナチュラルなカメラワークを見せる。

骨格・頭部位置だけでなく、服装の色や柄といった被写体の特徴マッチングなどの処理も組み合わせることで人物を的確に認識。人物の素早い動きや横向き・後ろ向きといった姿勢に関わらず、高い追尾性能を発揮する。マスク装着時においても同様だ。
さらに、従来の自動追尾システムでは難しかった被写体以外の人物が交差しながら動くようなシーンでも、フレーミングが容易に外れることはない。このあたりの能力は現在のところ他社のどのカメラよりも優れていると感じる。

撮影する被写体の構図を、誰でも、簡単に設定可能な直感的なインターフェース

「PTZオートフレーミング」機能によるカメラアングルは、用途に応じて3種類の画角"全身"、"上半身"(=ウエストショット)、"クローズアップ"(=バストアップ)のいずれかを選び、追尾対象の撮影サイズを選択することが可能だ。

これだけでもPTZオートフレーミング機能を利用できるが、さらに、きめ細かいカメラアングル設定"人の大きさ"、"顔の高さ"、"左右方向の配置"を段階的に決める項目がある。

PTZオートフレーミング設定の構図詳細調整のインターフェイス。簡単な設定で詳細な画角調整を可能にしている※画像をクリックして拡大

例えば、"人の大きさ"項目では撮りたい被写体の大きさをさらに細かく調整することができ、"顔の高さ"項目では画面上端と頭のてっぺんの間隔を詰めたり空けたりする調整が可能。そして、"左右方向の配置"項目では被写体を画面の左右へ寄せたいときに便利だ。

このように「構図詳細設定」を上手に組み合わせることによって、きめ細かいカメラアングルを設定していくことができるだろう。

PTZオートフレーミング機能を利用する際、2通りの方法がある。

  • カメラ任せで自動で被写体をフレーミング
  • Web GUI画面上から、任意の人物をオペレーターが選択してフレーミング

(1)では、あらかじめ被写体を捉えるエリア(スタートポジション)を設定し、 エリアに入ってきた人物をカメラが自動で認識してフレーミングを開始するもの。
例えば、講演会で演台のエリアをスタートポジションに設定しておけば、発表者が演台のエリアに入った時に自動で被写体としてフレーミングを開始してくれる。PTZオートフレーミング機能のオン/オフは付属の赤外線リモコンからも簡単に操作でき、現場の運用で重宝するだろう。

(2)では、被写体候補の人物をカメラが認識して、Web GUI画面上の人物の顔に□のマークを表示。
捉えたい人物の□マークを選択すると、被写体としてフレーミングを開始する。タッチパネルを備えたPCやタブレットを使用すれば、タッチ操作で被写体を選択することも可能だ。

さまざまな機能の設定は、SRG-Aシリーズのリモートカメラに備わるWeb GUIを通じて、PCのWebブラウザなどから容易にセットアップと操作ができる。

機能の利用には別途でライセンスを購入する必要はなく、カメラ内ですべての処理を行っているため、演算処理をするためのハイスペックパソコンを別途準備する必要がないことも特徴だ。

「"撮る"カメラから、"撮ってくれる"カメラへ」をキャッチコピーとするソニーのSRG-Aシリーズのリモートカメラは、講演会でのプレゼンターや、オンライン授業(ハイフレックス対応型)での教員の姿を自動で"撮ってくれるカメラ"として十分活用できるだろう。

このような企業・学校・官公庁の領域に加えて、その優れた追尾性能を活かして動きの速いスポーツやダンス、舞台の撮影といった映像制作や配信の現場でも、サブカメラとして活用する可能性も大いにあるだろう。

まだ完全な自動撮影や完璧な追尾ができるレベルには至っていないが、その能力は注目に値するものであり、「PTZオートフレーミング」の将来の性能向上に期待したい。

【SRG-A40で撮影、配信されたコンテンツ ご紹介】

2023年10月1日 ヒューリックホール京都で開催されたビリヤード大会「第1回 京都レディースOPEN」決勝戦の模様が配信されました。
メインカメラは、他のカメラで撮影されていますが、サブカメラとして主にプレイヤーの上半身のカットはSRG-A40が自動で撮影。
PTZオートフレーミングカメラで撮影、配信された映像をご覧ください。

レンズ交換が可能、かつフルサイズセンサー搭載で画質も高いFR7

一方、「FR7」は、映画・CM制作などで採用されているVENICE 2やVENICE、FX9、ハンドヘルドのFX6、一眼スタイルのFX3/30まで、デジタルシネマカメラで培った映像表現力と、最先端のデジタルイメージング技術を生かしたCinema Lineシリーズのひとつ。

Cinema Lineカメラでありながら、カメラマンが立てない・立ちにくい場所(例えば、音楽ライブのステージ上のような場所)などに柔軟な設置ができて、遠隔制御が可能なリモートカメラの利点も兼ね備える。FR7は「フルサイズセンサーを搭載しレンズ交換可能なリモートカメラ」だ。

FR7の実機を見た印象は、フルサイズセンサーによる映像表現と被写体が浮き上がるような没入感を感じた。PRONEWS的には、Cinema Lineシリーズと色合わせがしやすい点も注目だと考える。従来のCinema Lineシリーズと同様、S-Cinetoneなどを搭載しており、LOGの撮影にも対応。また、RAWの出力などもサポートしているのはリモートカメラとして非常に珍しい。

また、これまでイベントの配信でリモートカメラを使用する際、メインカメラとセンサーサイズの違いから映像品質が一致せず、使いづらさを指摘する声も多かった。フルサイズセンサー搭載のFR7であれば、センサーサイズの違いによる心配事は少なくなりそうだ。

そんなFR7のメジャーアップデートVer.2.00のリリースが2023年11月以降に予定されており、内容は下記の通りとなっている。

  • FreeDプロトコルに対応
    →近日公開のPTZ特集Vol.07「FreeD編」にて解説
  • 3rdパーティ製ズームコントローラーによるリモートズーム制御に対応
    「CDM-SFR」 Chroszielから発売予定
    国内では銀一が代理店として取扱い
  • 新たにベースルック「709トーン」を追加
    ソニーHDCシリーズとの色合わせをしやすくする新しいベースルックに対応
  • プリセット機能の機能追加・使い勝手向上

Ver.2.00で予定されているこれらのアップデートは、すでにFR7を運用している、または、これからFR7を利用したいと考えている映像制作領域で活動するクリエイターたちが熱く要望していた機能だ。

目玉はやはり「FreeDプロトコル」で、VR/AR撮影、いわゆるバーチャルプロダクションに興味を寄せるクリエイターの関心を集めそうな印象を受ける。

今回はソニーの協力でひと足お先にFreeD対応のFR7とグリーンバック、そしてZero Density社「Reality」を組み合わせたデモを見せていただいた。FR7のカメラアングルのコントロールに合わせて、CG背景が映し出される様子は新鮮であった。

FR7、グリーンバック、Zero Density社「Reality」を組み合わせた撮影デモの様子

グリーンバック合成の際の抜けの良さについても、1インチよりもフルサイズのFR7の方が優れていると感じた。解像感に欠けるカメラでは、グリーンが残ることがあったが、FR7はグリーンの抜けが良いため、合成に使いやすいと感じた。

FR7 Ver.2.00 対応機能の4つ目、「プリセット機能の機能追加・使い勝手向上」ではPTZトレースメモリー機能に対応することによって、パン・チルト・ズームの動きをトレースして記録・プレイバックが可能となる。

実際に人が操作したカメラの動きをPTZトレースメモリー機能によって何回でも(時によっては何十回でも)正確にFR7が再現をしてくれることで、その動作を繰り返さなければならなかったカメラマンの(肉体的と精神的な)負担を軽減することにつながるかもしれない。

このPTZトレースメモリー機能はRCT社 FR-1 Fluid Remoteのような、リモートカメラ制御用パンバーシステムと組み合わせると最大限に活用できそうだ。

また今回新たにPTZシンク機能にも対応。これによって従来同期がとれなかったパン・チルト・ズーム移動の開始と終了の同期が可能となる。

従来、リモートカメラでのライブ配信などを見ていると特有の機械的なカメラの動きが気になることがあった。例えば、Aとしてプリセットしたアングルから、プリセットBのアングルへ動かしたいとき、多くのリモートカメラではプリセットAの地点から「パン」「チルト」「ズーム」の動きを"順番に"実行して移動するものがまだ多く、機械的なカメラの動きを視聴者に感じさせてしまっていた。

その結果、リモートカメラを利用することを避けてしまうケースがあったのではないだろうか。

プロのカメラマンがカメラ操作をしたときの「AからBへのアングルまでの移動距離を瞬間的に頭の中で計算し、均等にパン・チルト・ズームをしながら動いていく」スムーズなカメラワークを、FR7で実現してくれると期待している。

SRG-AシリーズとFR7の進化とその影響

実際にSRG-Aシリーズを目の前にして得た印象としては、自然なカメラワークを行うために、リモートコントローラーに付きっきりで常にスティックを操作し続ける状況は、将来、確実に減っていき、オペレーターの負担軽減にもつながっていくのだろうと感じる。

今、撮影の現場ではカメラマン不足やコストセーブのための省人化が課題になっているが、一方でマイナースポーツや各種イベントなどでの映像配信のニーズは高まりを見せており、このようなニーズにも十分応えていくのではないだろうか。

「PTZオートフレーミングカメラ」が、これからのリモートカメラの一つのトレンドとなっていくことは間違いないだろう。

またVer.2.00へのアップデートを控えたFR7の大きなポイントは「FreeDプロトコルに対応」することだろう。

特に、グリーンバックのスタジオに、FR7のカメラアングルコントロールにあわせてリアルタイムで高精細なCGレンダリングソフトで生成されるCG背景が連動して動いていくZero Density社のRealityとFreeDプロコトルに対応したFR7の組み合わせは、VR/AR撮影、いわゆるバーチャルプロダクションに興味を寄せるクリエイターからの関心を集めそうな印象を受ける。

Cinema Lineシリーズであり、フルサイズセンサー搭載のFR7はリモートカメラとは思えないぐらいの映像表現力があり、それをひと目見ると、他のリモートカメラにはない圧倒的な魅力を感じる。

技術の進化とクリエイターのニーズは常に変わっていく中、SRG-AシリーズやFR7のようなリモートカメラの進化は、映像制作の現場でのオペレーターの効率と映像品質の向上に大きく寄与することになるだろう。

PTZオートフレーミングカメラ SRG-A40 / SRG-A12 導入されたお客様の活用事例はこちら


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