旅人が旅先で仕事のお手伝い「おてつたび」 新たな人材の確保策

農業や観光業などで人手不足が続く中、新しい人手の確保策として旅人が仕事のお手伝いをする取り組みが始まっています。

宮城県川崎町の畑で、黙々とダイコンを収穫している瀬戸吉宗さん。ダイコンはおでん、鍋物などでこの時期に需要の高い大切な作物です。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「これ普通にダイコンを抜いてますけど、こんなペースで普通抜けないと思いますよ。息も切らさずしゃべりながら」

瀬戸さんは、妻の里帰り出産のため5年前に京都府から宮城県に移住しました。地域おこし協力隊を経て地域に貢献しようと6月、仲間2人と共に川崎町で農業法人耕不尽を立ち上げました。
手探りながらも地域の新たな農業の担い手として着実に収穫量を増やし、安定的な出荷を目指しています。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「農業に誇りを持ったり、憧れられたりするような仕事にしたいんです。そのためにもロールモデルになるためにしっかり稼いでいけるような形を、組織として作っていきたい」

瀬戸さんたち耕不尽は、川崎町に借りた約9ヘクタールの農地で、大根やキャベツ、ネギなどを栽培しています。既に目標金額以上の売り上げを達成しています。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「まだ初年度なんで偉そうなことは言えないけど、びっくりするぐらい今良いです。売り上げだけで言えば」

猛暑を乗り越え収穫や出荷など事業は好調ですが、広大な農地をわずか3人でカバーすることに限界を感じ、人手不足を痛感していると言います。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「かなり深刻ですね。閑散期と忙しい時期がまばらに交互に来るので、都合の良い時期だけ働いてもらえる労働力が欲しい」

人手不足を痛感

この日は市場の状況から、ダイコンが予想より高値での取引されていることを確認し、急きょ1人で収穫に当たりました。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「タイミングは大事ですね。勝負する時に寝ないで出荷するくらいのことをしないとなかなか儲からない」

収穫は何とか1人でこなしたものの、ダイコンの洗浄、箱詰めなどの出荷作業はアルバイトの力を借りざるを得ません。シルバー人材センターの2人にお願いしています。
アルバイト「家にいて体を余していたので、シルバー人材センターに申し込んだ。体動かして、少しでもみんなの役に立てればいいかなとは思いますけど」

農林水産省によりますと、宮城県の農家の数は2003年には家族や法人単位で約6万4000経営体、2011年には4万6600経営体ありましたが、2022年は2万6000経営体と減少の一途を辿っています。労働力不足は深刻です。人手が足りない状況を少しでも打破しようと、新たなサービスが始まっています。

瀬戸さんと一緒にイチジクを収穫しているのは、静岡県からやって来た藤本恵里佳さんと、埼玉県からやって来た櫻井雪乃さんです。共に大学4年生で、実はこの2人は旅人です。

「おてつたび」の大学生

東京のベンチャー企業が2019年にスタートさせた「おてつたび」というサービスを使って、瀬戸さんの仕事を「おてつだい」しながら「たび」をしています。
おてつたび園田稚彩さん「地域内での若者、人材を確保するのが難しくなっている地域の事業者さんが、おてつたびを利用して全国各地から助っ人を呼ぶ形で使っていただいていて」

「おてつたび」では、農家や旅館など人手が足りない事業者が旅人に宿と報酬を提供します。旅人は観光を楽しみながら仕事をして報酬も得られる、新しい形のサービスです。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「正直、学生さん、女性と聞いていたのでどこまで仕事やってくれるのかと不安はあったけど、本当に頑張ってくれてびっくりしています」

旅人の2人は瀬戸さんからの指示を受けながら、貴重な働き手としてイチジク収穫に従事しつつ農業の現場を知る貴重な体験もしました。
藤本恵里佳さん「普段食べている物が、大変な過程を経て自分のところに届いているとありがたみを感じる。ここに来たならではの体験ができているなと思う」
櫻井雪乃さん「作って収穫して加工して出荷してという段階を踏んでいるということを自分で体感することで、1個1個の手間、作業の難しさといかに時間がかかるかを感じました」

若い世代がセンスを発揮

仕事は収穫のほかにも、袋詰めや若い世代のセンスを活かしたイベントのポップ作りなど多岐に渡りました。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「(ポップを見て)これだけでも元取ったようなもんです。描けないです。助かっております」

旅人の2人は4泊5日の旅の中で1日5時間ほど時給1000円のパートタイムで働き、1万9000円の報酬を受け取りました。
仕事以外は自由時間です。川崎町のカフェを巡ったり農家からもらった野菜で料理をしたりして、都会では得られないゆったりとした時間を過ごしたそうです。
藤本恵里佳さん「翌年社会人になるが、大学の今のうちに色々な所に行っておきたいと思っていて。お金を稼ぎながら旅行もできるととても良いなと思って」
櫻井雪乃さん「今、高齢化が進んだり耕作放棄地がたくさんある中で、もっと若者もやっていく時代になるのかなと面白いなと思っています」

瀬戸さんは「おてつたび」に人手不足解消にとどまらない魅力を感じました。
耕不尽取締役瀬戸吉宗さん「新鮮さと意見も言ってくれるし、こちらも勉強になることも多くてこれからも続けていきたいと思った。本当に来てもらって良かったなと思います」

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