宇都宮隆 ソロ30周年記念アルバム!中山美穂「JINGI・愛してもらいます」もカバー  ソロデビュー30周年!シンガー宇都宮隆の集大成アルバム

リスナーが等身大の自分を見出せたTM NETWORKの音楽

80年代初頭のロックバンドは、どこかにケンカが強くなくてはいけないというイメージがあった。今では信じられないが、ロックバンドは不良がサクセスを手にする有効的な手段として世間には認知されていたという一面があった。ただTM NETWORKがデビューした1984年というのは、このような流れが大きく変わる潮目だったというのも事実。

この年にザ・チェッカーズが大ブレイクしてレベッカがデビューを果たす。全国を席巻したツッパリブームが影を潜めたのも大きな要因だったのかもしれない。ロックが、すべてのティーンエイジャーに対しグッと身近に感じられるようになった時期だったのかもしれない。

ギターサウンドが主体となるロックバンドとは異なるフォーマットのTM NETWORKだが、10代のファンがレベッカを選ぶようにBOØWYを選ぶように彼らの音楽を選んだのは確かなことだ。それはそこにひとりひとりのリスナーが等身大の自分を見出せたからだと思う。

ファンを魅了した宇都宮隆の熱いアティテュードとは?

TM NETWORKの最大の特徴は、小室哲哉による先駆的なダンスミュージックとも言える音作りだったが、ファンを魅了した最大の理由は宇都宮隆の湿度を感じさせないのに熱いアティテュードだ。これが多くのファンを魅了した。そしてこれは、80年代初頭の不良性とは一線を画したものだったことが新しかったのだ。

例えば、「Get Wild」にしてみても、「♪Get wild and tough この街で / 自由をもてあましたくはない」という歌詞は極めて熱く、エモーショナルだ。それなのに押し付けがましさがない。言ってみれば、熱く、冷めている。これが宇都宮のシンガーとしての最大の魅力ではないだろうか。こういった部分が80年代半ばという時代性も相まってTM NETWORKはデビュー3年目、1987年に「Get Wild」でスターダムを駆け上ることになる。

ボーナストラックとして「JINGI・愛してもらいます」を収録

宇都宮は1992年、TM NETWORKの活動と並行して T.UTU 名義でソロシンガーとして活動を開始する。そして2023年はソロ活動30周年。この節目に、シンガー宇都宮隆の集大成とも言える『U30 Contract TAKASHI UTSUNOMIYA ANTHOLOGY 1992-2023』を11月15日にリリースする。

全14曲収録。ソロの音楽表現を実現すべく立ち上げた5つのプロジェクト(T.UTU、BOYO-BOZO、U_WAVE、UTSU BAR、U Mix)による楽曲で構成し、新たなボーカルレコーディング、リミックス、リマスターを敢行。2023年の時代に相応しいダイレクトな音の質感が楽しめる内容になっている。

特筆すべきは、なんと言ってもボーナストラックとして「JINGI・愛してもらいます」を収録したことだろう。言わずもがなオリジナルは中山美穂。小室哲哉が作曲を担った1986年のヒット曲だ。オリジナルは大村雅朗のアレンジによりポピュラリティに富んだ極上のアイドルソングとして仕上がっている。しかし、今回収録される宇都宮バージョンは、よりダンスミュージックに接近して、オリジナルとは質感の全く違う宇都宮ワールドになっているのは見事だ。

同曲は、ツッパリ映画の金字塔「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」の主題歌だ。1986年のリリースであるから、「♪そう今時ツッパリは / 時代遅れの見本じゃない」なんてフレーズも飛び出す。つまり、宇都宮がTM NETWORKの一員としてスターダムを駆け上る直前の世相を歌詞にしたためた作品でもある。そんな時代性を感じさせる歌詞を2023年の宇都宮が歌うと、ノスタルジーを全く感じさせないどころか、言葉のパーツひとつひとつが未来の記号のように感じさせてくれるから不思議だ。湿度を全く感じさせない宇都宮のボーカルスタイルだから時代を飛び越え、限りなくスマートに今の時代に着地していると言えるのではないだろうか。

熱くエモーショナルでありながら全く湿度を感じさせない。宇都宮隆ならではの世界観

ラウドなギターサウンドと透明感のある歌声が融合したT.UTUの「Dance Dance Dance」、今日的なダンスビートの中に日本語詞の物語性をしっかり感じ取れるBOYO-BOZOの「JUMP~Jumpin' Kids Symphony~」、U_WAVEからはシティポップ的なエッセンスも垣間見られる「Daydream Tripper -Angel Heart Mix」、UTSU BARからはチルアウトしたアコースティックの素朴な響きに自然体な宇都宮の歌声が絡み合った、彼のパブリックイメージからは大きくかけ離れた「優しい奇跡」などではこれまで出来そうで出来なかったボーカリストとしての魅力が溢れている。

まさにソロ活動の集大成とも言えるラインナップには、TM NETWORKでは実現できなかった宇都宮隆ならではの世界観がくっきりと輪郭を見せる。そこにはデビューから約40年というキャリアが熟成したプロフェッショナルなエンタテインメント性が内包されていることも記しておきたい。

カタリベ: 本田隆

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