朝日新聞・高橋純子記者の“照れ”の鞘に包んだ「切れ味抜群」のコラム

11月14日の朝日新聞紙面

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新聞社には「名物記者」「スター記者」と呼ばれる人がいる。「朝日新聞編集委員の高橋純子記者もその一人だ」と語るのは、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長だ。11月14日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、同日の朝刊に載っていた高橋記者の記事を読み解いた。

「うっかり」朝日に入った高橋純子記者

けさの朝日新聞朝刊に「新聞記者の文章術」という連載が出ていました。

__新聞記者の文章術 「型」を打ち破る 下
意図しない「映り込み」に妙味
(朝日新聞11月4日西部朝刊)__

書いているのは高橋純子編集委員。有名な記者で、とても文章が面白いんです。西南学院大学(福岡市)卒業で、記事に経歴が出ています。

__編集委員 高橋純子
1971年福岡県生まれ、ずっと福岡で暮らすつもりだったのにうっかり朝日新聞に入り、鹿児島総局、政治部、オピニオン編集部、論説委員など。著書に『仕方ない帝国』。__

こういうプロフィール、自分で書きますかね? 面白いですよね。

「固定カメラ」を振って書いてみる

「新聞記者の文章術」という連載は、高橋さんが担当して2回目。“固定カメラで書かれている”新聞記事。その「カメラをちょっと左右に振れば、意図せず映り込むものがあって、それが本当に面白かったりするんだよね」と、作家の橋本治さんに言われたことがあります、という書き出しなんです。

固定カメラ―――。確かに新聞記事を書く時は「『固定カメラ』で捉えて記事を書くことがほとんどです」と高橋さんは書いていて、「それでは『カメラを振る』とはどういうことなのでしょう? 私なりの実践が、『党首がゆく 09年衆院選』で担当した、国民新党代表・綿貫民輔氏の『人もの』です」と、短い記事が紹介されています。

野球帽をかぶり、少し頬を紅潮させた初老の男性が、何度も何度も右のてのひらをズボンにこすりつけている。

綿貫との握手を待っているのだ。

ゆっくりと歩み寄った綿貫が悠然と右手を差し出す。男性は両手で握り返し、深く腰を折った。ありがたやと声が聞こえてきそうである。綿貫の背筋はまっすぐ伸びたままだった。

ここ富山の地元選挙区で、綿貫の支持基盤は恐ろしく固い。連続13期、40年間も議席を守って「綿貫党」と呼ばれてきた。もみじマークを張った軽トラックや自転車で駆けつける支持者は、多くが投票用紙に綿貫以外の名を書いた記憶がないという。(2009年8月25日、東京夕刊)

<「カメラ」を振る。対象を(いったん)突き放す>という高橋さんが意識している手法の記事なんですね。

「取材対象をドーンと突き放してこそ見えるものがある」と、高橋さんは書いています。「綿貫さんとは『初対面』の私」「半ばやけくそで『固定カメラ』を振ってみた。映り込んだのが冒頭の場面です」と。

視点を初老の男性に、綿貫さんを脇役に据えているわけです。こうすることで、何が映るか。支持してきた綿貫党の「支持者の間を練り歩き、悠然と片手で握手“してあげて”いる」綿貫さん。なるほどこれが綿貫党か、と。ここを描くことで綿貫さんが描けると考えたんでしょうね。

「油断するとつい偉そうに書いてしまうもの」

高橋さんの文章は、いつも何か照れがあるんですよ。自分はそんな大した者ではありませんと必ず入れつつ、ものすごく舌鋒鋭い文章を書くことが特徴です。

この記事の最後の方でも、「はい。以上のように油断すると人はつい偉そうに書いてしまうものです」と続けていて。実際のところは「名文家とのほまれ高いデスクの手を経て格段に良くなりました。あまりにうまく直されたのが悔しくて、『反省点』を記した初稿をごく最近まで持っていたほど」と書いておられます。この照れが、この人の面白いところです。

「らしさ」という枠を乗り越えて

今朝は連載の「『型』を打ち破る」の下。上を見落としていたので、1週間前の記事を改めて読んでみました。

__新聞記者の文章術 「型」を打ち破る 上
常套句に頼らず ドンと思い乗せ
(朝日新聞11月7日西部朝刊)__

この記事では、「さあさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、でも先に断っときますが、『文章術』なんてものはない。私には、ない。ごめん。にもかかわらず、呼ばれりゃ飛び出すジャジャジャジャーンということで恥を忍んで」と書くのです。

高橋さんは「多事奏論」という記事をよく書いていて、11日に載った記事では――。

人物評の定番に「器が大きい/小さい」があるが、はて、岸田文雄首相はどっちだろう?……うむ。大小の問題ではもはやないな。器がザル。いくら努力しても効果がない=ザルで水をくむのザル。そう言わザルを得ない。(11月11日、朝日新聞「多事奏論」 首相の任、能わザル 「信を問え」忘れてはいけない)

「そう言わザルを得ない」とカタカナ。非常に大きな批判も受けるんだけど、それでも「批判はスルーよりよほどありがたいです」と、この記事の中でも書いていました。

例えば、「『政治部次長らしい文章を描くべきだ』といった批判は、いまも、どうして飲み下すことができません。肩書や性別など、誰かに勝手にはめられた『らしさ』という枠を踏み越えてはじめて、その人ならではの文章が立ち上がってくると私は思います」なんて、照れの間にすっと書いてある。とても僕には書けないです。たまたま今日の朝刊で見かけたので、「これはすごいな」と思い、紹介しました。

__◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件や関東大震災時の朝鮮人虐殺などを取材して、ラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。近著に、その取材過程を詳述した『ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る』(共著、石風社)。__

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田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、橋本由紀、神戸金史

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