冬の味覚「広島牡蠣(カキ)」に異変 夏の猛暑に“きれいになりすぎた海”も要因?解決の糸口は海底

広島を代表する冬の味覚・カキは10月1日、水揚げが始まりましたが…。

島村水産 島村広司さん
「例年よりだいぶ小ぶりなので、もう少し大きくなってくれるか心配。10月までこんな暑い日はない」

実は、ここ数年、夏の猛暑もあり、身が小ぶりだったり、収穫時期が遅れたりして、生産量が伸び悩んでいます。「カキを育むさまざまな環境の変化」を深掘りします。

日本一の生産量を誇る広島のカキに、異変が起きています。夏の猛暑に加えて、海の変化にも原因があるとみられていて、生き物にとって、「豊かな海」であることが重要だといいます。

末川徹記者
「尾道市の工場です。カゴの中にたくさんのカキがびっしりと…、カゴがこれだけあります。2~3日で、水揚げされたばかりです」

広島県内トップクラスのカキの出荷量を誇る水産加工会社「クニヒロ」です。県内では、年間、およそ1万8000トンが水揚げされますが、うち5000トンは、クニヒロで取り扱っています。

粒の大きさに応じて、カキを仕分ける作業をしています。ただ、よく見ると、小さいむき身も目立ちます。

クニヒロ 川崎育造会長
「2022年と比べると、2023年は良いが、平年作よりやや(生育が)遅れている。2022年は、広島だけでなく、全国で最悪な状況だった。水温がどんどん高くなっている。住みづらい・生育しづらい環境に、より悪い方向に進んでいる」

環境の大きな変化を受けて、カキの生産は、転換点を迎えていると危機感を募らせます。

クニヒロ 川崎育造会長
「500年の歴史がある広島カキは、これから20年・30年先、本当に養殖ができているのかどうか」

今後、安定した生育を続けていくためにも、海の環境を保っていくことが重要だといいます。

海カキ養殖の土台を揺るがすのは、夏の猛暑だけではありません。海洋プランクトンを研究する、広島大学の小池一彦教授は、「きれいになりすぎた海」にも要因があると指摘します。

広島大学(水産学) 小池一彦教授
「少ない。(カキの)エサがあまりない」

かつて、プランクトンが豊富で、水質が悪かった瀬戸内海…。周辺の川の環境も良くなり、いまでは水質が大幅に改善しました。ただ、プランクトンの栄養となる窒素やリンが失われ、カキが育ちにくくなったといいます。

広島大学(水産学) 小池一彦教授
「プランクトンがいれば、粒子がたくさん浮遊しているので、透明度は低くなる。植物プランクトンが底辺にあって、動物プランクトンが食べて、イワシが食べて、大きな魚が食べられて、ピラミッドになっている。土台の部分がないと、魚にも栄養がいかない」

さらに、カキの生育には、上流の山も重要な役割を果たしますが…。

広島大学(水産学) 小池一彦教授
「山から流れてくる川は、沿岸部に栄養を運ぶ重要な役割をしている。2023年は、全然雨が降らない。栄養不足に拍車をかけている」

こうしたなか、広島大学は、新たな試みをはじめています。

広島大学(水産学) 小池一彦教授
「カキがぶら下がっている水深で、プランクトンが増えてくれないと、エサにならない。機械で強制的に引き上げる」

小池教授が地元の企業と開発した海水を引き上げる装置です。海底は、水面と比べて水温が低く、良質なプランクトンも多く残されているそうです。このため、海底の水を太陽の光が届く水深に引き上げれば、プランクトンが増え、カキも大きくなるのでは…とみています。

10月に行った検証では、装置をつけたいかだで育てた場合、むき身の重さが30%以上増えるなどの研究結果も出ています。ただ、この方法だけが、本来の海の環境に戻す解決策ではありません。小池教授は、山や川の保全などをはじめ、地域全体で話し合っていくべき課題は多いと話します。

広島大学(水産学) 小池一彦教授
「海をきれいにしてきて、いまは青く透き通った海になっているが、豊かな海ときれいな海のいいバランスがあると思う。ある程度の豊かさは、もともと瀬戸内海が持つポテンシャルなので維持していく」

きれいな海は、生き物にとって、豊かな海とは限りません。自然の恵みを受け、できた特産だからこそ、守り続けていくための模索が続きます。

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