「人を攻撃することが少ない社会になってほしい」京アニ事件、犠牲の渡辺さん遺族が講演で訴え

事件後の感情や社会に求めることについて語る渡辺達子さん(右)と勇さん=兵庫県警本部

 2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で犠牲になった渡辺美希子さん=当時(35)=の遺族が15日、兵庫県警本部で講演した。遺体に触れることさえできなかったという母達子さん(73)=滋賀県=は「映像を見るだけでつらい。火事のニュースも嫌い」と、癒えない心の傷を吐露。兄勇さん(44)=同=と「人を攻撃することが少ない社会になってほしい」と訴えた。

 県警や神戸市、弁護士会などでつくる「県被害者支援連絡協議会」の代表者会議で、関係機関の約80人を前に語った。

 達子さんは、テレビで京都アニメーションの建物が燃えるのを見て、祈るような気持ちで娘と連絡を取ろうとしたが、つながらなかった。急ぎたどり着いた京都で、生存が確認できた人の中にその名はなかった。

 36人が亡くなった。DNA型鑑定を経て、娘の遺体と対面できたのは約1週間後。夫は「骨格が美希子だ」と言った。自分の両親が亡くなった時はきれいに化粧して送り出せたのに何で-。「年齢順で逝くものと思っていた。若い人を見るとつい『親より先に逝かないで』と言いたくなる」

 会場には、美術監督として活躍した美希子さんの作品が飾られた。勇さんは、自分のアニメ好きのせいで美希子さんがこの仕事を選んだのかも、という自責が消えないと明かした。

 親のそばで暮らす勇さんに感謝し「自分は仕事ばっかりで申し訳ない」とLINE(ライン)を送ってくる優しい妹だった。恨みを買うような性格ではなかったが「全く遠いところから降りかかってくる」ように突如、人生を絶たれた。

 勇さんは「だから、一人一人の気遣いとか、小さなことでもそういう輪が広がってほしいと願うようになった」と語りかけた。(井上太郎)

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