ミツカン「種馬事件」、再び、敗訴|西牟田靖 2013年、中埜大輔さんは、ミツカンの創業家出身のオーナー経営者である中埜和英会長の次女、聖子さんと結婚、翌年には男の子が誕生した。だが、彼の人生は義父母によって破壊された。生後4日目の子供を義父母の養子に差し出すよう強要されたのに始まり、別居の命令、離婚の強要、親子引き離し(実子誘拐)を目的とした日本への配転、告発報道の取材に応じたことを理由に即日解雇――。まるで中埜一族に「種馬」のように使われ、放り出されたのだ。

日本が誇る大手食品メーカーに激震!ミツカン「種馬事件」①実子誘拐の地獄|西牟田靖 | Hanadaプラス

裁判所も「夫婦仲は良かった」と認めたが

(筆者撮影)

11月1日午後1時、東京高裁424法廷でミツカン控訴審(和英・美和氏に対する損害賠償請求訴訟)の判決が言い渡された。

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本件控訴をいずれも棄却する
控訴費用は控訴人の負担とする__

相澤哲裁判長が判決を言い渡したとき、中埜大輔さんは、今までに見たことのない怒りの表情を見せた(一審判決の詳細は『ミツカン「種馬事件」 まさかの敗訴』を参照)。

2時間半後に東京高裁内で行われた会見に河合弘之弁護士の姿はなかった。かわりに大輔さんと同席したのは、河合弁護士と同じ、さくら共同法律事務所に所属する野崎智裕弁護士であった。

大輔さんは、野崎弁護士からの紹介を受け、語りはじめた。

「私の実質的な敗訴という内容です。判決からは、私がいちばんの問題とした、親子引き離しの判断は誰の責任なのかというところがすっぽり抜け落ちているんですね。非常に残念でがっかりする判決というふうに言わざるを得ない」

義父母である和英・美和氏が大輔さんと聖子さんに対して高圧的な態度をとっていたことは、裁判所も認めている。それでもなお、和英・美和氏への責任は問わないというのだ。

「今回の判決で、『大輔と元妻の間に愛情は存在した。夫婦仲は良かった』と判断されています。つまり『夫婦仲が良いので、夫婦間の問題はない』ということです。とすると、中埜和英・美和氏が私の家族、親子間を破壊した以外には考えられない。それなのに裁判官は『和英・美和氏の行動は問題ないし、責任も問わない』と判断したんです。被害者(息子)はいるが加害者は存在しないということ。これはめちゃくちゃな判断ですよ」

大輔さんは、自らの事件が、「実子誘拐」という社会問題と同じ状況にあることを指摘した。

「日本は、子供の権利というものを粗末にしていて、諸外国からも非常に非難されています。実子誘拐などと呼ばれていますけれども、片親が子供を連れ去ったときに、別居親は子供に会えなくなってしまう。私も全く同じ状況です。このような被害に遭っている親子は日本にたくさんいる。それらの社会問題も、私の事件の背景には横たわっている――という点もぜひお伝えしたい」

離婚するか、ミツカンを離れるか

判決についての法的な解説は野崎智裕弁護士からなされた。

「今回の内容は特に相手方であり、中埜大輔さんの元妻である、中埜聖子さんのですね、特殊な環境、そういったところを非常に過度に重視したような判決だと思っています。聖子さんについて『その人生に関わる選択においても、おのずと中埜家の跡取りとの視点からの選択を行うことが当然のこととなっており』と書かれていました。つまり『聖子さん自身の心情ないし価値観に基づく離婚意思の形成がされた』と裁判所が判断したことになります」

ミツカンは一子相伝で、跡継ぎが財産を受け継ぎ、次世代へと引き継いできた。跡継ぎである聖子さんは、ミツカンを背負う存在として小さい頃から帝王学を授けられ、育ってきた。そうした特殊な事情を抱えた聖子さんの価値観が離婚の判断に繋がった、だからこそ、聖子さん自身の判断だと裁判所は解釈したのだ。

「かなりの財産を聖子さんが引き継いでいます。半分以上といっていいと思いますが、そういった特殊な事情のなかで、今回、聖子さんの両親は、『中埜大輔さんと離婚するか、それともミツカンを離れるかどっちだ?』という判断を聖子さんに迫り、聖子さんはミツカンに残る選択をしました。その選択を以て、『ミツカンの一子相伝の環境で育てられ、その価値観が聖子さんに定着している。だからそれは聖子さん自身の意志』と裁判所は判決文のなかで説明しています」

重要な点をおさらいしておこう。判決では次の点が認められている。

・和英・美和氏が聖子さんに二者択一の判断を迫った際、高圧的な態度をとったこと
・そのことが聖子さんの判断に影響を与えた可能性があること
・大輔さんと聖子さんの間に愛情があったこと

和英・美和氏の高圧的な態度が聖子さんの判断に影響を及ぼしたのだとしたら、それは脅迫にあたらないのだろうか。

「法的にいえば、『聖子さんの両親がやったことは不法行為ですというところを否定していない』んです。ただしその不法行為があったとしても、その結果として離婚に繋がったのかっていうところを否定している――法的にはそういう整理になるのかなと思います」

「ミツカンを守るのが絶対。だから愛情があっても、離婚せざるを得なかった」と聖子さんが考えていたからといって、和英・美和氏の行為を不問に付すのはおかしい。和英・美和氏が、高圧的な態度で二者択一を迫らなければ、聖子さんは離婚という決断をしなかったに違いないからだ。

次のステージは、英国での戦い!

今後の展望について、大輔さんは次のように語った。

「現在、英国に息子がいると思われますので、英国の司法制度を利用して、息子に会うために、戦いの場を英国に変えていこうと考えております。そのための準備も進めておりますし、近いうちに法的措置をとるつもりです」

英国で実子誘拐をすれば、たとえ母親父親であろうとも逮捕・投獄される。子供の権利を重視する英国で、日本と同様の裁判を起こせば十分に勝機はあるだろう。

「私が英国の司法制度を利用し、息子にすぐに会えたとすれば、これは日英の親子法制の大きな違いを浮き彫りにすることができますし、どちらの国が子供の権利をより尊重しているかも明らかになるでしょう」

大輔さんの戦いは、社会的意義が非常に大きい戦いである。ジャニーズ問題同様、「外圧」がなければ変われないというのは非常に情けない話だが、大輔さんが英国で勝訴すれば、日本でも実子誘拐が本格的に社会問題化されるのではないか。

ただし、そこには費用という大きなハードルがある。大輔さんは長年、孤独な戦いを続けてきが、多額の費用をこれまで通り、自腹でまかなうことが難しくなってきた――。

「英国での戦いの費用の見積もりは、過去の経験を基準として、親子交流権の回復の裁判で200〜400万円、ミツカン(創業家)に対する裁判で500〜1000万円です。2018年に私が英国で戦って勝訴(親子の交流権を求める裁判。詳細は2022年9月号『ミツカン「種馬事件」②家族破壊工作の全貌』を参照)した際には300万円近くかかりましたが、現在は当時より円安のためさらに2〜3割の追加費用が想定されます。まずは息子に会うための戦いを優先し、その先には、ミツカン(創業家)に対する英国での裁判を視野に入れています」

こうしたことから、彼はこのたびカンパを募集することにした。
詳細はこちらである。

対ミツカン事件のカンパを募集いたします|中埜大輔

カンパ先の口座は以下の通りだ。

SBI新生銀行 トウキョウ支店(店番号520)
普通6454742
口座名義:ナカノ ダイスケ

大輔さんと息子さんの再会のために、そして実子誘拐という問題を日本国内で大きく問題提起するために、大輔さんの英国での戦いを、読者の皆さんもぜひ支えていただきたい。

【ミツカン「種馬事件」③】中埜会長の急死と裁判で暴かれた真実|西牟田靖【2022年12月号】【ミツカン「種馬事件」④】ミツカンに屈した東京地裁の異常判決|西牟田靖【2023年11月号】

著者略歴

西牟田靖

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