9歳で突然、1型糖尿病に。誤解や偏見から「甘い物食べ過ぎた?」の烙印…根治薬つくるしかない! 30代で転身、研究の世界へ

実験室でピペットを手に研究に打ち込む松田恵理子さん=13日、鹿児島大大学院医歯学総合研究科

 糖尿病への誤解や偏見をなくそうと関連学会が9月、英語名「ダイアベティス」を新たな呼称として提案した。自身が1型糖尿病の鹿児島大大学院の松田恵理子助教(41)は、作業部会の一員として携わった。「自己管理ができていない」といった糖尿病へのスティグマ=負の烙印(らくいん)の解消を目指して管理栄養士から研究の世界に飛び込み、根治薬の開発に励んでいる。12~18日は「全国糖尿病週間」。

 栄養士として勤めた病院を31歳で辞め、同大学院遺伝子治療・再生医学分野に秘書採用で入局した。翌年、修士課程に進み研究者として歩み始めた。「病気を正しく知ってもらうために活動しても、全然偏見はなくならない。根治薬を開発するしかない」の一念だった。医学博士号を取得し、現在は遺伝子治療を用いた1型糖尿病の薬の研究に打ち込む。

 実験の手順や道具の使い方は先輩に付いて回り覚えた。解剖の方法も教わった。「それまで包丁しか握ったことがなかった。たくさんの人に支えてもらって今がある」とほほ笑む。

 糖尿病は、インスリンの不足や作用低下により、血糖値が高くなる病気だ。国内の患者は1000万人を超えるとされる。すい臓の細胞が自己免疫などによって壊れインスリンが分泌されなくなる1型と、体質や運動不足などが影響する2型がある。

 松田さんが1型と診断されたのは9歳の時。ある日突然意識を失い病院に搬送された。以来インスリン注射が欠かせず、現在は一日最低5回自分で打つ。

 「スティグマ」を感じたのは小学校高学年の頃からだ。周囲の大人から「かわいそう」「甘い物食べ過ぎたの」と心ない言葉をかけられた。修学旅行への参加をなかなか認めてもらえないこともあった。「何でこんなこと言われるのか」。病気の原因も分からず、やるせなさを抱えてきた。

 食事指導を受けた経験から管理栄養士になり、県内の糖尿病専門病院に勤めた。負のイメージのため患者が、結婚や就職で差別を受けた例を見てきた。若い1型患者を支える「日本糖尿病協会患者会 鹿児島YOUNGの会」を設立、街頭活動など偏見解消に努めてきた。

 「適切な血糖コントロールができれば、できないことは何もない。病気だと諦めずに自信を持ってほしい」と力を込める。

「秘書の採用面接なのに、研究したい、と宣言して驚かれたと思う」と入局の経緯を振り返る松田恵理子さん=13日、鹿児島大大学院医歯学総合研究科

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