愛された女優・牧野エミ、いまなお語り継がれる彼女の魅力は

関西で1980〜90年代に起こった『小劇場ブーム』の真っ只中、卓越したダンススキルに抜群の演技力、チャーミングさで多くから愛された女優の故・牧野エミ。

彼女の名前を冠に掲げ、最強のコメディエンヌを決める『エミィ賞グランプリ』が開催されるほど、いまなお語り継がれる彼女の魅力を、当時をよく知り現在は舞台やナレーションなどで活動する川下大洋に訊いた。

1980〜90年代の関西小劇場ブームで活躍した女優の故・牧野エミさん

■ 関西で一世風靡した、小劇場ブーム

当時の小劇場ブームとは、劇団☆新感線(古田新太や羽野晶紀ら)、劇団そとばこまち(辰巳琢郎、生瀬勝久、山西惇ら)、売名行為や劇団MOTHER(升毅、牧野エミら)など、現在では映像を含めさまざまな作品で活躍する俳優や脚本家・演出家らを生み出した演劇界のムーブメント。

関西で多くの元気な劇団が頻繁に公演をおこなっていたが、当時・劇団そとばこまちに在籍していた川下によると、「バンドをやるモチベーションと一緒で、女の子に観て欲しい。とにかく女の子受けするものをと、ミラーボールやスモークを舞台に取り入れたり・・・。演劇にそれまでなかった派手な演出を取り入れてショーにしたことを楽しく思ってくれたのでは」と振りかえる。

劇団そとばこまちに在籍時は「はりけーんばんび」。現在は舞台やナレーションなどで活動する川下大洋(11月14日・大阪市内)

そんななか川下らの劇団に、深夜番組『週刊テレビ広辞苑』(読売テレビ)の出演オファーが。「『そとばこまちが評判だからやってください』って言ってくれて。私(当時:はりけーんばんび)や上海太郎、生瀬勝久(当時:槍魔栗三助)らメンバーがレギュラーで1年間やらせてもらった」という。

番組は好評でその後、劇団☆新感線や売名行為のメンバーらも加わり、『現代用語の基礎体力』『ムイミダス』『未確認飛行ぶっとい』とシリーズ化。お笑い芸人によるコントとはひと味違った笑いが評判を呼び、小劇場ブームはさらなる盛り上がりを見せた。

■ 牧野エミのカッコよさ、彼女の魅力

その渦中のひとつ、立原啓介、升毅、牧野エミらによる売名行為。川下は、「『扇町ミュージアムスクエア』(大阪市北区に存在した小劇場)での公演を観ましたが、ものすごいカッコよかった」と評する。

「音楽がクールで、そこにエミちゃんがダンスを振り付けて、踊って・・・。それも当時の最先端だったんですよね、見たことないクールでかっこいいダンスや、場面転換の照明や音楽のなかにコント、それも笑いが尖ってるんですよ」

1980〜90年代の関西小劇場ブームで活躍した女優の故・牧野エミさん

それは、そのまま劇団MOTHERに引き継がれ、そのクールさを一番フロントで体現していたのが牧野エミだったという。その一方で、「スタイルは良いし、ファッションセンスもすげえカッコいい。なのに美女が板東英二のものまねをするんですよ」と、笑いに貪欲だったという。

「牧野エミ」をWikipediaで検索すると、「1985年に演劇ユニット『売名行為』を立原啓裕や升毅と結成し、以後2000年代にかけての人気・活躍ぶりから『関西が生んだ稀代のコメディエンヌ』と呼ばれた」とある。

■ 彼女を称える『エミィ賞』「名前さえ残れば」

そんな彼女は劇団解散後も舞台を中心に活動、また持ち前の明るさやキャラクターでバラエティやラジオのパーソナリティとしても活躍。しかし病に倒れ2012年11月、53歳の若さでこの世を去った。

若い頃からともに舞台を踏んできた川下は、「エミちゃんを偲ぶ会を毎年やっていたんですが、最初は盛り上がってもだんだん落ち着いてくるじゃないですか。それがちょっと寂しい、ちょっと耐えられへんところがあった・・・」と打ち明ける。

1980〜90年代の関西小劇場ブームで活躍した女優の故・牧野エミさん

「エミィ賞ってつけたら、名前だけ残るじゃないですか。ずっと続いたら全く知らん世代の人が、一生懸命取り組んでくれる、もうそれだけでいいなと思うんです。牧野エミってこんな女優がいましたみたいな話から始まるんですけど、将来的には名前さえ残れば」と、その思いを話す。

『エミィ賞グランプリ』とは、「牧野エミをリスペクトし、彼女のようにスタイリッシュで芝居が巧くて、面白い女優を発掘し、応援する」べく2017年に誕生したコメディ演技を競うコンテスト。升毅が実行委員長を務め今年で6回目、これまで5人のNo.1コメディエンヌが誕生した。

■ ファイナリスト「誰が獲ってもおかしくない」

エミィ賞のたくませいこや、作品賞に選ばれたそれはそれシスターズら参加者(2017年11月20日・近鉄アート館)

歴代の頂点に立ったコメディエンヌは、朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK)にも出演したたくませいこをはじめ、杉野叶依、川久保晴、アサヌマ理紗、西原希蓉美ら。

コントと違って演劇的なコメディとは、「まず人を笑わすことができる脚本があって、それをちゃんと演技で実行できる役者がいるのがコメディの基本。その上で、この人が言ったら何でもおもろいわっていう魅力なりパワーがプラスされたら、さらに上の笑いになる。そういう意味でいうと、今回ファイナリストになった人たちみんなそれを持ってる」と川下。

『エミィ賞グランプリ2023』のファイナリスト。上段左から三原悠里、延命聡子、澤井里依、下段左から七味まゆ味、福田恵、近藤夏子

さらに「誰が獲ってもおかしくないとはまさにこのこと」と評する『エミィ賞グランプリ2023』の決勝大会は、三原悠里(Cheeky☆Queens)、延命聡子(中野劇団)、澤井里依、七味まゆ味(柿喰う客)、福田恵(劇団レトルト内閣)、近藤夏子の6人がグランプリをかけて戦う。

牧野エミに続く今のコメディエンヌとして、演技力やコメディセンス、タレント性、清潔感、情熱などを兼ね備えた女優を見つけ出す同大会。日程は11月20日・夕方6時半から、「扇町ミュージアムキューブ」(大阪市北区)にて。チケットは前売3500円、当日4000円で、観客による審査投票権付き。

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