米中首脳会談をどこよりも早く解説…混迷する国際情勢下で両国の思惑は?

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アメリカ西海岸、サンフランシスコで日本時間11月16日早朝、米中首脳会談が始まった。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、同日朝出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、いち早くこの会談を分析し、今後の展望についても語った。

イスラエルとパレスチナをめぐっても相違がある米中

アメリカと中国。世界情勢の混迷が深まるなか、この2つの大国の動向、そして関係は世界が安定に向かうのか違うのかを大きく左右する。だが、米中間の隔たりはあまりに大きい。米中首脳会談は非常に難しいタイミングで開かれたと言っていい。

確かに国際情勢、それに2国間の懸案も山積しており、かなり広い範囲で議論された。国際情勢では、やはりイスラエルとパレスチナの衝突。両首脳は、戦闘状態の即時停止では一致するだろうが、そもそもアメリカは、先に攻撃を受けたイスラエル支持を明確に打ち出す。

一方の中国は、今回の衝突の早い段階から「イスラエルの攻撃は自衛の範囲を超えている」と、パレスチナに寄り添う立場を示している。米中双方の考え方には大きな相違がある。

加えて、ガザ地区のイスラム組織ハマス、また別の反イスラエル軍事組織を、地域大国のイランが支援している。そのイランと中国の関係は、急速に発展している。

だから、事態がより複雑だ。バイデン大統領は、イランがパレスチナ問題で関与しないよう、中国がイランへの働きかけを強めるよう求めるだろう。「イランが中東全域の安定を損なうような行動を取ることは、結果として、中国にも利益にならない」というメッセージだ。

1年前の会談時よりも混とんとしている国際情勢

今回はサンフランシスコでのAPEC(アジア太平経済協力会議)の首脳会議を利用しての米中トップ会談だ。前回の会談もインドネシアで開かれたAPECの場だった。その米中首脳会談から1年が経過したわけだが、米中2国間関係、それに米中を含む国際情勢は一層、混とんとしてきたように思える。

ロシアによるウクライナ侵攻はまもなく2年になるというのに出口が見えない。そして、先ほど紹介したパレスチナ情勢。さらにアジアは弾道ミサイルの開発を進める北朝鮮情勢、来年1月には台湾総統選挙も控える。

アメリカは中国を「唯一の競争相手」と位置づける。対中関係はヨーロッパ、中東、アジアの3エリアを越えつつ難問だ。さらなる悪化を避けたいのは当然だろう。

ちょうど1年後にはアメリカ大統領選挙もある。現在の情勢なら、再選を目指すバイデン大統領は、おそらく返り咲きを狙うトランプ氏と相まみえる。トランプ氏は「バイデンは中国に弱腰だ」と批判している。この機会を逃すと、大統領選挙モードに突入する来年は、関係改善は困難だ。だから、年内の首脳会談実現に向け、準備を重ねてきた。

国防当局同士の対話復活へ

今回の首脳会談の最大の成果はなんだろうか? 具体的なテーマで挙げると、やはり米中両国の国防当局同士の対話復活。これは合意されるだろう。安全保障の分野で競争が激しさを増す中、偶発的な衝突の回避に向け、対話拡大も模索した。

今年2月のこと。アメリカ本土に飛来した、中国の偵察用とみられる気球を、アメリカ軍の戦闘機が撃墜し、関係が一気に冷え込んだ。ブリンケン国務長官の中国訪問が急きょ、延期された。さらにさかのぼると、昨年8月、アメリカの下院議長だったペロシ氏が台湾を訪問したことで、中国側は軍同士の対話のチャンネルを閉ざした。

一方で、アジア太平洋地域では、中国を視野に、アメリカを中心にした多国間の軍事・防衛の枠組みが次々と築かれ、中国は警戒感を強める。当然、日本も無関係ではない。

そこに台湾問題が関係してくる。アメリカは、台湾総統選挙の前においても、不測の軍事的衝突が起きないようにしたいと考えている。バイデン氏は会談で、台湾の独立を支持しない現状維持の立場を伝え、総統選で中国が選挙介入しないよう警告しただろう。

中国側は「アメリカはすでに台湾問題に関与し、その度合いを強めている」との認識だ。台湾問題にアメリカが立ち入ることを強く拒む。中国にとって台湾問題は「国内問題」。受け入れる余地は少ない。習氏は台湾問題などで譲らず、米国とは対等だと印象づけたい考えだ。ただ、双方とも織り込み済み。「対話はするが、互いの主張は平行線」をたどるようだ。

首脳会談で経済浮揚と習主席の権威を高めたいとの中国の思惑

経済と安全保障がリンクする時代だ。アメリカは、軍事転用可能な半導体など先端技術分野の対中輸出・投資の規制を相次いで打ち出している。このため、中国経済が振るわない。経済の浮揚に向けて、アメリカからさらなる投資を呼び込みたい。アメリカとの関係を改善基調に乗せることが重要となっている。

さらに、人工知能(AI)をめぐる規制や気候変動対策も大きな問題だ。アメリカからすれば「中国との競争は避けられない。多岐にわたる競争をどう管理・統制するか。衝突回避のため、意思疎通を図らないと」というところだろう。首脳会談で、画期的な成果が生まれるという時代ではない。

もうひとつ、中国国内に向けて今回の首脳会談には意味がある。習主席は6年半ぶりの訪米によって、国内での権威をさらに高めたい思惑がある。「あのアメリカとの関係をコントロールし、動かしているのは自分だ」とアピールする場だ。

中国の国営メディアは、習主席のアメリカ訪問に前後して、習主席とアメリカの長きにわたる友好の歴史を強調するシリーズ報道を続けている。紹介されている多くのアメリカの友人の中に、意外な家族がいた。

アジア太平洋戦争中のアメリカの軍人、スティルウェルをご存知だろうか。中国が日本と戦争を続けていた1930~40年代、アメリカから派遣されて中国に長く駐留し、中国の軍隊を指導・指揮した人物で、中国にとっては功労者だ。

習主席は今年8月、そのスティルウェルの遺族らに手紙を送って、その功績に感謝を示している。ただ、スティルウェルが指導・指揮したのは、蒋介石率いる国民党の正規軍だ。共産党の軍隊は当時、ゲリラ戦が中心だった。共産党の軍は本流ではなかった。

習主席が6年半ぶりのアメリカ訪問にあたって、このスティルウェルの話まで持ち出したのは、やはり、アメリカとの関係を安定させたいとの思いからだろう。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎

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