背景に戦争体験 奄美ならでは学舎=島尾敏雄「死の棘」を考察

鹿児島県立奄美図書館の生涯学習講座「奄美ならでは学舎」2023年度第6回講座が11月12日、奄美市名瀬の同館であった。同日が命日に当たる奄美ゆかりの作家・島尾敏雄(1917~86)をテーマに国文学研究資料館研究部の多田蔵人准教授が講演。浮気をめぐる夫婦関係を描いた代表作「死の棘(とげ)」の細かな記述に着目し、作品の背景に浮かぶ自身の戦争体験との関連性などを考察した。

奄美ゆかりの作家・島尾敏雄の代表作「死の棘」について理解を深めた奄美ならでは学舎=11月12日、奄美市名瀬

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多田准教授の専門分野は、文章の書き方や言葉選びなどから著者の意図を読み解く文体研究。鹿児島大学法文学部に着任した15年以降、島尾文学も題材としている。講演は同館会場で59人、オンライン配信先の県立短期大学会場(鹿児島市)で8人が視聴した。

死の棘は、戦時中から長年寄り添う夫婦の絆が夫の浮気を機に崩壊し、許しを請う夫と糾弾する狂気の妻を描いた島尾氏の私小説。多田准教授は「戦争の記憶を呼び起こし、紡ぎ直す物語。会話や情景描写に戦争を想起させる表現が散りばめられている」と評した。

さらに、作中で妻が夫の日記から浮気を知って発狂し、激しく尋問する様子が描かれた場面を紹介。多田准教授は「せりふじみた会話は軍隊を思わせ、戦争を演出している。戦後、当時の記憶は狂気の場面を通じてしか保てないことも意味する」と述べた。

この講演に合わせて4~19日、同館1階の島尾敏雄記念室では企画展(入場無料)を行い、当時の自筆原稿などを公開している。

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