「演出の岡田」と「勇気の中嶋」 2人の名将、その采配を解剖する

握手を交わす阪神・岡田彰布監督(左)とオリックス・中嶋聡監督=京セラドーム大阪

 阪神タイガースが4勝3敗でオリックス・バファローズを下し、38年ぶりの日本一に輝いた日本シリーズ。59年ぶりに実現した「関西対決」は、阪神の岡田彰布監督(65)、オリックスの中嶋聡監督(54)の手腕にも注目が集まった。23日に神戸、大阪で両チームの優勝パレードが予定され、熱戦の興奮は冷めない中、専門家2人に「静」と「動」で対比されがちな両監督の真の評価を聞いた。(井川朋宏)

 リスクマネジメント論が専門で阪神ファン歴50年の亀井克之・関西大社会安全学部教授(61)は、両監督の共通点について「防ぐ、守る。そして選手をよく見ている」と話す。

 一般的に、岡田監督は「静」と評されるが、一概にそうではないという。

 阪神ではこれまで流動的だった主力の守備位置や打順を適材適所で固定し、一部は競わせ、若手にも出場機会を与えた。結果的に木浪聖也選手、森下翔太選手らの成長を引き出した。

 日本シリーズでは要所で岡田監督がリスクを取った采配に着目する。第1戦、オリックスの山本由伸投手を攻めあぐねて迎えた五回、先頭の佐藤輝明選手が安打で出塁すると、初球で二盗に成功。大量得点の足がかりとなり「初回の中野拓夢選手の盗塁死を逆手にとり、佐藤選手の思いきりの良さに懸けた。戦局を変えた大きな場面」と話す。

 第4戦では、今季序盤は不調で夏場に負傷離脱した湯浅京己投手を抜てきし、その後サヨナラ勝ち。翌5戦目も連投させ、逆転勝ちを呼び込んだ。「誰もが本当に起用すると思わない中、狙い通りすさまじい声援で球場の雰囲気をがらっと変えた」。また、波のあるルーキー森下選手を代えず、第7戦では、今季、本調子ではなかった青柳晃洋投手を先発に据え「人情味と演出力があり、結果も出したのは慧眼(けいがん)」。

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 一方で、「動」のイメージがあり、2年連続リーグ最下位から3連覇に導いた中嶋監督について「個々の力をシビアに判断し、組み合わせることでチーム力を維持する起用をしている」とみるのは、長年、野球の取材を続けるスポーツライター喜瀬雅則さん(56)=神戸市灘区出身=だ。

 若手の積極起用や1、2軍の入れ替えが目立ち、主砲の杉本裕太郎選手は夏に2度も2軍に降格。ただ、9月20日にはリーグ優勝につながる一打を放った。

 2軍監督を経験し、若手選手をよく知っていたこともあり「一人一人の性格に合わせたレシピで接し、調子や精神面を把握し、時に突き放し、刺激を与える」。グラウンドのあちこちに足を運んで選手と話す姿も目立つという。

 日本シリーズでは、初戦で1番に経験の少ない2年目の池田陵真選手を抜てき。大敗したが、翌2戦目はスタメンをがらりと変え、今度は大勝した。「いつもと違う選手を使うのは勇気がいるが、それが中嶋監督の形」と話す。

 一方の岡田監督について、喜瀬さんが「なかなかすごいやり方だった」というのが第6戦だ。3点を追う六回から第2戦の先発西勇輝投手が中継ぎで最後まで登板。敗れたが、中継ぎ投手起用を回避し、「全員中2日以上で、第7戦に全力でつぎ込める態勢をつくった」。

 死闘の決着から10日以上がたった今も、話は尽きない日本シリーズ。亀井教授が「改めて野球は考えるスポーツであると示した」と振り返れば、喜瀬さんは「阪神は個の力が強く、岡田監督の戦い方が浸透している。オリックスは山本投手が抜けても先を考えた育成で乗り切れる。ともに強さは続く」。今後も両監督から目が離せない。

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 プロ野球のペナントレースを制した阪神タイガースとオリックス・バファローズの優勝パレードに向け、兵庫県や大阪府、関西経済連合会などでつくる実行委員会は、開催事業費を募るクラウドファンディング(CF)を行っています。11月30日午後11時まで、専門サイト「READYFOR(レディーフォー)」で受け付けます。

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