サステナブル・ブランド本会議、サンディエゴで開催 リジェネラティブな社会の実現はローカルから

John Fullerton, Alfa Demmellash、KoAnn Vikoren Skrzyniarz all images credit : Sustainable Brands

サステナブル・ブランド国際会議の本会議が10月16-19日、米カリフォルニア州サンディエゴで開催された。今年の会議のテーマは「Regenerating Local(ローカルを再生する)」。ここでいうローカルは、企業のさまざまな活動に関わる地域や現場、コミュニティを意味する。米国を中心に世界から1000人以上のサステナビリティの実践者が参加し、リジェネラティブな未来を実現するためのアイデアや気づきを共有し、今後の連携の可能性について話し合った。(翻訳・編集=小松はるか)

Sandy Skees

4日間の会議の幕開けを飾ったプレナリーセッションでは、最初に、米サステナブル・ブランドのアドバイザリーボード(諮問委員会)で議長を務める、米PR会社ポーターノベリのサンディ・スキース氏が世界のサステナビリティをめぐる現状を総括した。同氏は、増加する現在進行形の世界の課題は、マクロなものであれミクロなものであれ表裏一体であり、グローバルシステムは地域レベル、個人レベルのどちらにも存在していると話した。

同時に、スキース氏は積極的な見方も示し、「次に訪れるフェーズは、サステナブル・ブランドのコミュニティ(参加する企業など)が自らの責任に目覚めること」だと語った。最後に、自分が見たいと思っている変化を生み出すために自らの能力を生かしていくよう、参加者の背中を押した。

Mike Dupee

サステナブル・ブランドのマイク・デュピーCOO(最高執行責任者)は、公正でリジェネラティブな未来を追及するSBコミュニティが置かれている現状について自らの考えを述べた。デュピー氏は、誰もがポリクライシス(戦争や暴力、人権侵害、気候危機、生態系、経済的な不確実性などの複数の問題が同時に発生し、連鎖・増幅することで、より大きな影響をもたらすこと)に直面しており、困難な年を経験し、苦悩しているとの認識を示した。

しかし、世界がトラウマを克服し、抜本的な変化を起こすためにも、真正面から課題に取り組む勇気を持つように参加者を励ました。デュピー氏は、さまざまな人が集まるサステナブル・ブランド国際会議のプログラムに参加することで、エネルギーと出会いを蓄え、会議後にはそのエネルギーを発散させ、つながりを持ち続けるよう呼びかけた。

リジェネレーションとローカル なぜいま「ローカル」か?

John Fullerton, Alfa Demmellash、KoAnn Vikoren Skrzyniarz

サステナブル・ブランドの創設者兼CEOのコーアン・スカジニア氏は、リジェネラティブな経済を設計するシンクタンク「キャピタル・インスティテュート(Capital Institute)」のジョン・フラートンCEO、「ライジング・タイド・キャピタル(Rising Tide Capital)」のアルファ・デメラッシュCEO兼共同創業者とともに登場した。フラートン氏はエコノミストとして活躍。デメラッシュ氏はエチオピア出身の移民で、低所得層の起業・事業拡大を支援する社会起業家であり、フォーブス誌の「世界を変える最もパワフルな女性」の一人にも選ばれている。3者は、企業、コミュニティ、一人の人間としての立場から、現代における今回のテーマ“Regenerating Local”の重要性について話し合った。

スカジニア氏は、人類が直面している困難の一つが生態系の再生であり、なかでも、混迷を極める世界でサプライチェーンを確保することが課題だと話した。「リジェネラティブな(再生する)生態系こそが繁栄を可能にします。そして、私たちが望んでいる未来に到達するには、市民同士の対話や、お互いに学び合い、耳を傾ける密接なつながりが不可欠です。だからこそローカルから始めることが必要なのです。周囲の人たち、私たち自身、そして自然界との関係をローカルなレベルで活発にすることです」と説明した。

スカジニア氏が2人に対し「リジェネレーションやリジェネラティブなビジネスをどう定義するか」と問うと、デメラッシュ氏はこう答えた。

Alfa Demmellash

「リジェネラティブなビジネスというのは、自社のアジェンダや製品の範囲内にとどまるものではありません。ビジネスを行う場所の状況・事情について、より広い認識を持つことが求められています。私たちは、地球がなければビジネスも成り立たないということを認識しています。置かれている状況・条件のなかでビジネスを成り立たせるよう、関心の輪を広げ、困難な状況に対処するために私たちの影響力を生かしていくことが必要です」

フラートン氏にとって、リジェネレーションとは「生命がどのように機能するかのプロセス」だ。「私たちは生命の仕組みについて本気で考え、学ぶ必要があります。初めの一歩は、個人の価値観を踏まえずに、生命が機能する方法についての第一原理、設計原理、人が踏み込んではならない特質を明確にすることです。そして、これは企業や経済全体に適応すべき羅針盤です」と話した。

「リジェネラティブなビジネスとは、それ自体も生命体であり、生物が健全でいられる状況をつくる方法を深く理解しているビジネスのことです。そして、未開発の可能性を解き放つ状態をつくる方法を身につけているビジネスのことです」

では、なぜこれが多国籍企業と関係するのか。デメラッシュ氏はブランドの重要性について切り出した。

「ブランドは製品や事業以上のものです。企業の中核となるアイデンティティであり、製品が変わり、進化したとしても、価値を生み出すものです。また、事業の可能性がどれくらい持続するかはブランドと関係しています。ブランドは企業のビジョンの源泉であり、それは人間の努力により成り立つものです。ブランド構築とパーパスはつながっている必要があります。そして、そのパーパスは地域社会の生活や地域経済の再生と結びついていなければなりません。そうすることで、私たちはポリクライシスとともに生きる未来に適応できるのです」

John Fullerton

フラートン氏は、ローカルコミュニティについて「健全なエコシステムを成り立たせる細胞のような存在」と表現した。「多国籍企業のなかで働いていると、自社がどれほど大きな力があり、多くの資源や資産を持ち、どれほど多くの可能性が眠っているかということを忘れてしまいます。しかし、企業というのは、例えると、地域の中にある1本の大木です。木が根を張る(企業が事業を行う)場所の生態系に依存しています。こうした相互依存は持続可能性がなければ成り立ちません。リジェネラティブな方法を取ることが持続可能性につながるのです」。これについてスカジニア氏は、企業がサプライチェーンに携わる各地域の人々を支援し、フィードバックを繰り返すなかで地域の顧客に権限・権利を持たせることも大切になると付け加えた。

分野横断的な連携によって「繁栄の地」へ

話題は、実践のツールとなるフレームワークに移った。デメラッシュ氏はまず、コロナ禍で、人間の相互依存性やレジリエンスがあらわになり、特にその初期においては、経済の大半がエッセンシャルワーカーによって支えられていたことに触れた。また、コロナ禍が人々に暮らしや人生を見直す機会をもたらしたことで、女性やマイノリティの起業家が創設するスタートアップ企業が増えるという前向きな状況が生まれていると説明した。「こうした人たちは、自らの目標・意義に火を灯している人たちです」と力を込めた。

デメラッシュ氏は、「移住・移動」という考えに基づき、人々のおかれた状況を分類・整理してフレームワークを作成したという。例えば、目標や意義を持って生き、それを実現している人たちを「目標・意義のある地」に到達した人とした。一方、経済的崩壊や戦争によって「見捨てられた地」にいる人もおり、そうした人たちは目標や意義のある暮らしとは無関係な生活をおくっている。また、資本が一極集中する「分断の地」もあり、資本への従来型の取り組みは分断の地を増強させることになると指摘した。

困難を抱えている人の状況を詳細につかみ、資本を分散する新たな方法によって、「見捨てられた地」にいる人たちを「目標・意義のある地」に移動させることができるとデメラッシュ氏は語った。さらに、分野横断的な連携によって、すべての人がともに「繁栄の地」、すなわち愛される経済・リジェネラティブな経済のある地へと移動することができると締め括った。

オーディブルが取り組む、地域経済・文化の活性化

Aisha Glover

次に登壇したのは、アマゾン傘下のオーディブルでアーバンイノベーション部門を率いるアイーシャ・グローバー氏だ。同社のオーディオブックやポッドキャスト事業が「フューチャー・リーダーズ(Future Leaders)」プログラムを通じて、本社のあるニュージャージー州最大の都市ニューアークでどのように地域経済を活性化させ、若者のキャリア構築を支えているのかを紹介した。

地域コミュニティを活性化させながらオーディブルの事業成長を促進するために、同社は事業の枠を超えた取り組みを行った。地域経済に貢献するために、地域コミュニティに直接投資したのだ。例えば、従業員にニューアークへの転居を奨励してインセンティブを与えるなどした。オーディブルは2020年のコロナ渦に、ニューアーク・ワーキング・キッチンを設立。コロナ禍初期に、健康な食事をするのに困難を抱えていた人たちに、ニューアークの約40軒のレストランに資金を提供し150万食以上を配った。これはレストランの経営を維持する支援にもなった。

この経験をもとに、オーディブルはニューアーク・アーティスト・コラボレーションを立ち上げた。20人の地元アーティストと連携してパブリックアート・インスタレーションに取り組んだ。とりわけ、アート業界で活躍する女性・有色人種の創業者に重点を置き、人々の力や声を描いたアートが公開された。

グローバー氏は、聴衆に「企業としてどういう存在であるかは、企業として何を提供するかと同じくらい大事なこと」と語りかけた。

ESGガバナンスを競争優位に変える

Murat Sönmez and Pamela Gill Alabaster

企業のサステナビリティやESGに関する情報開示の需要が増え続けるなか、企業は一度にあらゆるところから、すべての情報を集めて共有する必要があると感じているかもしれない。しかし、サステナビリティに関する詳細な情報を最も効率的に収集できる企業は、新たなチャンスを生み出し、即座に実行できる戦略を考え、サステナビリティに関する成果を挙げるためにその知見を生かしている。

初日のオープニングセッションを締めくくったのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのコンシューマーヘルス事業を手がける新会社ケンビュー(Kenvue)でESG・サステナビリティ部門を率いるパメラ・ギル・アラバスター氏とパルソラ(Pulsora)のCEO兼共同創業者のムラット・ソンメズ氏だ。「企業はどのようにしてサステナビリティの取り組みを地域やグローバルに拡大していけるのか」、「単なるコンプライアンスとしてではなく真の変革を促していけるのか」について議論した。世界で規制圧力が拡大するなか、企業がもたらす環境・社会への影響の開示・報告が義務化されるようになってきている。各地域での規制は世界にも影響をもたらす。その良い例が、カリフォルニア州の気候変動関連情報の開示を義務付ける法案だ。

ギル・アラバスター氏が指摘するように、ESG情報を求めているのは規制機関だけではない。CDPやS&PなどのESG格付け機関も情報を求めており、ますます多くの企業が、サプライヤーに情報や目標・指標に対するパフォーマンスを報告するよう求めている。ギル・アラバスター氏は、企業はESGのSとGについての取り組み(DEI、人的資本管理、ブランド・パーパスに関する取り組み)を公に共有し、より大きなエコシステムの一部としてさらに広範な取り組みを立証する必要があるとした。またソンメズ氏は、若手の専門職は情熱を傾けられる職場で働きたいと思っているとも語った。

ギル・アラバスター氏は、報告の義務化によって企業は情報開示にさらに消極的になるかもしれないと話した。また、米国市場について、企業は最低限の報告にとどまるかもしれないと予測しており、こうしたレベルの開示では社会からの信用は得られないだろうとみている。ESG会計とサステナビリティをバランスよく成り立たせるには、一つではなくそれ以上の組織機能が報告に積極的に取り組まなければならない。「バリューチェーン全体を隅々まで考慮する必要があります」と力を込めた。

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